こんにちは、行政書士の三澤です!
マイホームを建てたい、新しいお店をオープンしたい。そんな夢の第一歩として、郊外の広い土地や実家の隣の畑などを候補地に考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、ちょっと待ってください。その土地が「農地」である場合、すぐに建築や売買の手続きを進めることはできません。
農地を宅地や店舗用地など、農地以外の用途に使うには、「農地法」という法律に基づいた許可が必要になります。とくに、他人の農地を購入または借りて、その上に住宅や店舗などを建てる場合は「農地法第5条許可」が必須です。
この許可を取得しない限り、所有権を移すことも、建物を建てることもできません。つまり、第5条許可は、あなたの計画をスタートさせるための“最初の関門”なのです。
本記事では、「農地法第5条許可」とは何か、どんなときに必要なのか、どんな手続きを経るのかを、専門的な内容を噛み砕いてわかりやすく解説していきます。
「農地の売買や転用って難しそう…」という不安を少しでも軽くし、安心して一歩を踏み出していただけるよう、行政書士の視点から丁寧にご案内します。
農地法第5条許可のしくみ|「権利の移動」と「農地転用」がセットになるときに必要な手続き
農地法第5条許可は、農地の「使う人が変わる」と同時に「使い道も変わる」場合に必要になる特別な手続きです。言い換えれば、「権利の移動」と「農地転用」がセットで行われるとき、必ずこの許可を取らなければなりません。
これは、マイホームや店舗、駐車場などの建設を計画している方にとって、避けて通れない重要なポイントです。
ここでは、農地法第5条の基本的な定義と、第3条・第4条との違い、さらに許可が必要となる代表的なケースについて、わかりやすく解説していきます。
2-1|農地法第5条ってどんな許可?基本の定義をおさえよう
農地法第5条許可とは、「他人が所有する農地を取得または借りて、それを住宅地や店舗用地などに使う」ために必要な許可です。
法律の条文はやや複雑ですが、簡単に言えば以下の2つが同時に発生するときに適用されます:
- 権利の移動:土地の売買や賃貸借、使用貸借などにより、土地を使う人が変わること
- 農地の転用:田畑などの農地を、宅地や駐車場、資材置場などの用途に変更すること
たとえば、「農家でない人が畑を買って、そこに家を建てる」といったケースは、まさに第5条の典型例です。
2-2|【必見】農地法3条・4条・5条の違いを表でスッキリ整理!
農地法を調べ始めた多くの方が戸惑うのが、第3条・第4条・第5条の違いです。この違いは、「誰が使うのか」「どう使うのか」という2軸で整理すると、シンプルに理解できます。
条文 | 対象となる行為 | 土地の用途 | 例 | 許可権者 |
---|---|---|---|---|
第3条 | 権利の移動のみ | 農地のまま使う | 農家Aが農家Bに畑を売る | 農業委員会 |
第4条 | 転用のみ | 自分の農地を他の用途に | 自分の畑に家を建てる | 都道府県知事等 |
第5条 | 権利の移動+転用 | 他人の農地を買って別用途に | 他人の畑を買って住宅にする | 都道府県知事等 |
このように、「人が変わるだけ(3条)」「使い方が変わるだけ(4条)」「両方変わる(5条)」という違いを押さえることが、農地法の正しい理解の第一歩です。
2-3|どんなときに第5条許可が必要になる?代表的なケース一覧
第5条許可が必要となるのは、次のようなケースです。自分の状況に当てはまるか確認してみてください。
- 会社員が農地を購入し、マイホームを建てる
- 法人が農地を借りて、店舗や工場を建設する
- 農地を借りて、月極駐車場として運用する
- 建設会社が工事の資材置場として一時的に農地を借りる(一時転用)
そして、特に注意が必要なのが「親の農地に子どもが家を建てる」ケースです。
たとえ無償でも、親から子へ「使用権(使用貸借)」が設定されたとみなされ、権利の移動が発生したことになります。これに宅地への転用が加わるため、第5条の許可が必要になるのです。
このように、「家族間だから大丈夫」と思って手続きを怠ると、重大な違反行為となる可能性があります。
農地法第5条許可は、単なる“申請”というよりも、「農地をどう使うか」を根本から見直す法的なプロセスです。次の章では、この許可を取得するために必要な要件について詳しく見ていきましょう。
許可を取るための2つの審査基準|「どこで」「どうやって」転用するのかが問われます
農地法第5条の許可は、単に申請書を出せば通るというものではありません。計画が実現可能かどうか、地域の農業に悪影響を与えないかを、2つの観点から厳しく審査されます。
その2つとは、
- 立地基準(=その土地が転用に適している場所か)
- 一般基準(=その計画が実現性のあるものか)
これらをクリアしなければ、どれほど良い計画でも許可は下りません。ここでは、それぞれの基準について具体的に解説していきます。
3-1|立地基準とは?その土地、そもそも転用していい場所ですか?
立地基準とは、「その農地がどんな場所にあるか」によって、転用の可否が判断される基準です。
農地には5つの区分があり、それぞれ許可の難易度が異なります。
区分 | 特徴 | 許可の方針 |
---|---|---|
農用地区域内農地(青地) | 農業振興地域に指定され、将来にわたって農業利用が推奨されている土地 | 原則として許可されない |
甲種農地 | 特に条件の良い農地で、生産性が高くまとまりがある | 原則として許可されない |
第1種農地 | 良好な営農条件を備えた農地 | 原則として許可されない |
第2種農地 | 市街地に近く、農業以外の利用も検討される農地 | 代替地がなければ許可される可能性あり |
第3種農地 | 市街地にあり、すでに宅地化が進んでいる農地 | 原則として許可される |
このように、同じ「農地」でも、立地によって扱いが大きく異なります。
市街化区域なら「届出」でOKの特例も!
もし対象地が「市街化区域(※都市計画法上の市街地)」にある場合、都道府県知事の許可は不要となり、農業委員会への届出のみで済むケースもあります。これは、大都市周辺の土地開発を促進するための制度です。
市街化調整区域は「二重の壁」に注意!
一方で、「市街化調整区域」にある農地は、建築自体が原則認められません。農地転用許可に加えて、都市計画法に基づく開発許可も必要になるため、2つの高いハードルを越える必要があります。
3-2|一般基準とは?その計画、本当に実現できますか?
立地がOKでも、計画そのものがあいまいだったり、資金が不十分だったりすれば許可は下りません。これを審査するのが「一般基準」です。
以下のような観点から、計画の実現性や周辺への影響がチェックされます。
✅ 計画が具体的か
住宅なら建物の図面、事業用なら事業計画書が必要です。単なる希望や構想ではなく、実際に実行できるだけの詳細さが求められます。
✅ 資金計画が明確か
自己資金の残高証明書や、金融機関の融資内定通知など、実際に事業を進められる資力を証明する書類が必要です。
✅ 周囲への悪影響がないか
隣接農地への排水や土砂流出のリスクがないよう、排水計画や復元対策も必須です。とくに造成工事を伴う場合は要注意です。
✅ 地元との合意が得られているか
土地改良区や隣接地の所有者など、利害関係者とのトラブル回避のため、意見書や同意書の提出を求められる場合があります。
✅ 一時転用なら元に戻せるか
資材置場や仮設施設など、期間限定で農地を使う場合は、終了後に確実に農地に復元できる「農地復元計画書」の提出が求められます。
このように、農地法第5条許可は「紙の上の手続き」ではなく、計画の中身までしっかり審査される制度です。
次の章では、実際の申請手続きの流れについて詳しく見ていきましょう。
農地法第5条許可の手続きの流れ|相談から許可証が出るまでの流れと必要書類
農地法第5条の許可を取得するには、いくつものステップを順に踏む必要があります。ただ書類を出すだけではなく、事前相談・書類収集・締切確認など、細かな工程が続きます。
この章では、「いつ」「どこで」「何をするのか」が一目で分かるよう、手続きの流れを時系列で整理し、あわせて一般的に必要とされる書類もチェックリスト付きでご紹介します。
4-1|申請の流れと期間|最短でも1.5ヶ月、余裕をもって動きましょう
農地法第5条許可の申請は、思い立ったらすぐ出せるものではありません。以下の流れで進めていくのが一般的です。
【ステップ1】農業委員会への事前相談(最重要)
まずは、計画地を管轄する市町村の農業委員会へ相談に行きましょう。
この時点で、「この土地での転用は可能か?」「どんな資料が必要か?」といった具体的な指導が受けられます。
※ここで計画がNGと判断されれば、そもそも申請できません。相談は必ず最初に行うべき工程です。
【ステップ2】必要書類の収集と作成
事前相談の内容をもとに、各種書類を集めて作成します。
登記事項証明書、公図、図面、資金証明書など、多くの資料が必要になるため、時間も手間もかかる工程です。
【ステップ3】申請書提出(締切日に注意!)
必要書類がそろったら、農業委員会へ正式に提出します。
※多くの自治体では「月に一度の締切日」が設けられており、これを逃すと審査が1ヶ月先にずれ込みます。
【ステップ4】農業委員会での審査
提出された申請書は、まず書類の形式的チェックを経て、農業委員会の総会で内容が審議されます。
【ステップ5】都道府県知事等による最終審査
農業委員会の意見を添えて、都道府県知事(または権限移譲された市町村長)に進達され、ここで最終的な審査が行われます。
【ステップ6】許可証の交付
無事に許可が下りると、「許可証」が交付されます。これにより、土地の売買契約や建築工事へ進むことができます。
▶ 全体の目安期間:申請書提出から許可証交付まで約1.5〜2ヶ月程度
ただし、書類の準備や相談期間を含めると、トータルでは3ヶ月以上を見込んでおくと安心です。
4-2|申請時に必要な書類一覧|事前相談で個別確認を!
申請に必要な書類は、地域や案件の内容によって異なる場合があります。以下は、一般的に求められる書類の例です。
書類名 | 内容・目的 |
---|---|
農地法第5条許可申請書 | 申請の本体となる書類 |
法人登記簿謄本・定款 | 申請者が法人の場合の証明書類 |
土地の登記事項証明書 | 所有者や地目などの確認資料 |
公図の写し | 土地の形状・隣地との位置関係 |
位置図・案内図 | 計画地の場所がわかる地図 |
土地利用計画図 | 建物や駐車場の配置を示す図面 |
建物平面図・立面図 | 建築予定の詳細設計図 |
事業計画書 | 事業目的の説明や施設概要 |
資金証明書 | 残高証明や融資証明など |
被害防除計画書 | 排水・盛土などの影響対策 |
関係者の同意書 | 土地改良区・隣接地などからの同意 |
✅ ポイント:
書類の内容が不十分だと、不許可や再提出になることも。
申請書の質と精度が、許可取得の成否を大きく左右します。
このように、農地法第5条の許可申請には、計画性・専門性・スケジュール管理の3つが欠かせません。
次章では、よくあるトラブルや注意点をQ&A形式で解説します。
農地法第5条許可でよくある注意点とQ&A|「知らなかった」では済まされないポイント
農地法第5条許可は、申請すれば必ず通るというものではありません。そして、手続きを飛ばしてしまった場合には、思わぬトラブルや法的リスクが待っています。
この章では、実務で特に注意すべきポイントを「Q&A形式」でわかりやすく解説していきます。
5-1|Q:許可を取らずに建ててしまったら?|無断転用には厳しい罰則が!
「とりあえず家を建てて、後から手続きをすればいいだろう」
「家族の土地だから許可なんていらないだろう」
――そんな“うっかり”が、後で大きな代償を招きかねません。
農地法では、無許可で農地を転用することは法律違反とされており、以下のような厳しい措置が取られる可能性があります。
- 工事の中止命令:進行中の造成や建築工事が、即座にストップ
- 原状回復命令:建物をすべて撤去し、農地に戻すよう命じられる
- 罰則(刑事罰):
- 個人:3年以下の懲役 or 300万円以下の罰金
- 法人:最大で1億円以下の罰金
また、違法な転用を知りながら関わった建設会社などにも、連帯して責任が及ぶ可能性があります。
✅ 結論:許可なしの転用は絶対にNG。
「知らなかった」では通用しないため、事前相談と申請は必ず行いましょう。
5-2|Q:誰が許可を出すの?|「申請窓口」と「最終判断者」は違います
許可の手続きは農業委員会で行いますが、最終的な「許可を出す権限」は別の機関が持っていることもあります。
パターン | 説明 | 許可を出すのは? |
---|---|---|
原則 | 都道府県が許可権限を持つ | 都道府県知事 |
権限移譲がある場合 | 一部の市町村では、知事の権限が委譲されている | 指定市町村の市町村長 |
開発面積が大きい場合(4ha超) | 国と事前協議が必要(開発規模が大きいため) | 知事 + 農林水産大臣との協議 |
申請地のある市町村が「指定市町村」かどうか、また開発規模が大きいかどうかで、誰が許可を出すかが変わります。
申請前に、農業委員会や行政書士に確認することをおすすめします。
5-3|Q:農地法の許可だけで建築できるの?|実は「他の許可」も必要です
農地法の許可は、「農地を農地以外に変える」ための許可です。
ですが、建物を建てるには、それ以外にも複数の法律をクリアする必要があります。
以下の許認可が、併せて必要になるケースが多いです。
✅ 開発許可(都市計画法)
土地を造成したり、排水・盛土などを行う場合に必要です。
特に「市街化調整区域」では、建築の前提として必須になることがほとんどです。
✅ 建築確認(建築基準法)
家や建物の設計が、安全基準や法規に適合しているかどうかを審査する制度です。
この確認を受けないと、建築工事には着手できません。
✅ 他法令との関連チェック
農業用排水路や農業用施設、文化財保護区域などが絡む場合には、それぞれの関連法令に基づく調整や届出も必要になることがあります。
🔍 ポイント:
「農地法の許可が出た=すぐ建てられる」ではありません。
関連する手続きは事前に洗い出し、できるだけ並行して進めるのが理想です。
農地法第5条許可は、他の法制度とも密接に関わる“入り口”のような存在です。
全体像を把握したうえで、段取りよく進めることが、スムーズな土地活用への第一歩となります。
まとめ
この記事では、農地を購入または借りて、住宅や店舗、駐車場などに活用したいと考えている方に向けて、農地法第5条許可について詳しく解説してきました。
ここでもう一度、重要なポイントを整理しておきましょう。
✅ 農地法第5条許可とは?
- 他人の農地を取得・借りて、その用途を農地以外(宅地など)に変える際に必要な許可です。
- 「権利の移動」と「農地転用」が同時に発生する場合に適用されます。
✅ 許可を取るには2つの審査をクリアする必要があります
- 立地基準:その農地が“どこにあるか”で、転用の可否が判断されます。
- 一般基準:転用計画の内容や資金の裏付け、周囲への影響などが審査されます。
✅ 手続きには時間も書類もかかる
- 事前相談 → 書類準備 → 審査 → 許可証交付まで、2〜3ヶ月程度かかるのが一般的です。
- 必要な書類も多岐にわたり、精度の高い準備が求められます。
✅ 無断転用には厳しい罰則あり
- 建物の撤去命令や高額な罰金など、計画全体が台無しになるリスクがあります。
✅ 農地法以外の許認可も忘れずに!
- 開発許可、建築確認など、並行して進めるべき手続きがあります。
✔️ 計画初期に専門家へ相談するのが成功のカギ!
農地法第5条の許可申請は、法律や行政手続きに不慣れな方が一人で進めるには、非常にハードルが高いものです。
実際には、
- 書類の不備による申請遅れ
- 要件の解釈ミスによる不許可
- 関係機関との調整不足による手戻り
といったリスクが多く、少しのミスが数ヶ月のロスにつながることも珍しくありません。
だからこそ、最も効率的で確実な方法は、行政書士などの専門家に早めに相談することです。
専門家であれば、
- 計画に合った許可スキームの提案
- 書類作成の代行
- 農業委員会や関係機関との調整サポート
などを通じて、スムーズな許可取得を強力にバックアップします。
「農地だから無理かも…」とあきらめる前に、ぜひ一度ご相談ください。
あなたの夢の第一歩を、確実にカタチにするお手伝いをいたします。