農業や漁業は、季節によって作業量が大きく変動する「季節性」の強い産業です。繁忙期にはまとまった人手が必要になる一方で、閑散期には仕事量が減ってしまうため、外国人材を年間を通じて安定的に雇用し続けることが難しいという課題が以前から指摘されてきました。
こうした事情を踏まえ、育成就労制度では、農業分野・漁業分野に限って「派遣」という特別な受入れ形態が認められることになっています。この記事では、出入国在留管理庁が公表している「育成就労制度Q&A」のQ17・Q18をもとに、農業・漁業分野における派遣形態の育成就労について、行政書士の視点から解説します。
育成就労制度における派遣形態とは
出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」のQ17では、「派遣の形態で育成就労を実施することはできますか?」という問いに対し、次のように回答されています。
「季節性のある業務を含む分野(農業分野及び漁業分野)において、派遣元と派遣先が共同で育成就労計画を作成し、その認定を受けることで、派遣の形態で育成就労を実施することができます。なお、育成就労計画の認定を受ける際は、あらかじめ派遣先ごとに派遣時期を定めて育成就労計画を作成する必要があります。」
ここから分かる重要なポイントは以下のとおりです。
- 派遣形態が認められるのは、農業分野及び漁業分野に限られること
- 派遣元と派遣先が共同で育成就労計画を作成し、その認定を受ける必要があること
- あらかじめ派遣先ごとに派遣時期を定めて計画を作成する必要があること
育成就労制度は、原則として受入れ機関(育成就労実施者)のもとで一貫して技能を修得させることを前提とした制度ですが、農業・漁業分野のように季節による繁閑差が大きい業種では、単一の受入れ機関だけで年間を通じた就労を確保することが難しい場合があります。そこで、労働者派遣の仕組みを活用し、複数の派遣先を計画的に組み合わせることで、育成就労外国人が安定して働き続けられるようにする制度設計になっています。
派遣形態を利用する際の実務上のポイント
Q17の回答で特に注意すべきは、「あらかじめ派遣先ごとに派遣時期を定めて育成就労計画を作成する必要がある」という点です。つまり、派遣形態による育成就労は、行き当たりばったりで派遣先を変えられるものではなく、いつ、どの派遣先で働くのかを事前に計画に落とし込み、その計画について認定を受けなければならないということです。
行政書士の視点から補足すると、これは育成就労制度全体を貫く「計画に基づく適正な人材育成」という考え方の表れといえます。育成就労制度では、技能実習制度のように1号・2号・3号と段階を分けるのではなく、当初から3年間分の計画を作成して認定を受ける仕組みが取られていますが、派遣形態を利用する場合には、この計画の中に派遣先ごとの就労時期まで具体的に盛り込む必要がある、という点が特徴的です。
派遣元・派遣先双方が共同で計画を作成する必要があることも踏まえると、農業・漁業分野で派遣形態による育成就労を検討する事業者は、関係する派遣先事業者とあらかじめ十分に調整を行ったうえで、計画作成に取り組む必要があるといえるでしょう。
閑散期における一時帰国の取扱い
派遣形態と関連して押さえておきたいのが、季節性のある業務における「閑散期の一時帰国」の取扱いです。育成就労制度Q&AのQ18では、「毎年の業務の閑散期に一定期間本国に帰国することは認められますか?」という問いに対し、次のように回答されています。
出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」(Q18)によると、育成就労外国人が閑散期を含めて本国に一時帰国すること自体は可能ですが、その帰国期間を含めずに育成就労計画を立てることはできないとされています。
そのうえで、労働者派遣形態による育成就労が認められる分野として設定される分野(農業分野及び漁業分野)においては、次のような特別な取扱いが認められています。
- 育成就労外国人が、1年ごとに業務の閑散期に本国に一時帰国して育成就労を一定期間休止し、その後に再度来日して育成就労に従事する育成就労計画を立てることができる
- この場合、一時帰国の時期は毎年同じでなければならない
- 帰国期間については育成就労の期間に含まれないため、日本で育成就労に従事する期間が合計して3年になるよう育成就労計画を作成する
- 一時帰国期間は最大6か月である
- 一時帰国に要する旅費については、単独型育成就労の場合は受入れ機関(育成就労実施者)が、監理型育成就労の場合は監理支援機関が負担する必要がある
この仕組みにより、たとえば漁業の閑散期に外国人本人がいったん母国に帰国し、繁忙期に再び来日して育成就労を再開する、といった働き方が制度上認められることになります。ただし、帰国期間は育成就労の実施期間としてカウントされないため、通算で3年分の育成就労を行うためには、その分だけ実際の在留期間全体が長くなる計画を組む必要がある点に注意が必要です。
受入れ側が負担する費用について
一時帰国に伴う旅費負担についても、Q18で明確にルールが示されています。単独型育成就労であれば受入れ機関(育成就労実施者)が、監理型育成就労であれば監理支援機関が、それぞれ旅費を負担することが必要とされています。
これは、外国人本人に一時帰国のための経済的な負担を負わせるのではなく、受入れ側の責任として旅費を負担させることで、閑散期の一時帰国という仕組みが外国人本人にとって不利益にならないよう配慮した制度設計といえます。農業・漁業分野で派遣形態や季節的な一時帰国を伴う育成就労を検討する事業者は、こうした費用負担が発生することもあらかじめ織り込んで受入れ計画を立てる必要があります。
農業・漁業分野の事業者が押さえておきたいポイント
ここまでの内容を整理すると、農業・漁業分野で派遣形態による育成就労を実施する場合、事業者が押さえておくべき主なポイントは次のとおりです。
- 派遣形態が認められるのは農業分野・漁業分野に限られる
- 派遣元と派遣先が共同で育成就労計画を作成し、認定を受ける必要がある
- 派遣先ごとの派遣時期をあらかじめ計画に定める必要がある
- 閑散期の一時帰国を組み込んだ育成就労計画を立てることも可能(ただし毎年同じ時期・最大6か月)
- 一時帰国期間は育成就労期間に含まれないため、通算3年になるよう計画する
- 一時帰国の旅費は、単独型なら受入れ機関、監理型なら監理支援機関が負担する
季節性の強い農業・漁業分野において、こうした派遣形態や一時帰国の仕組みをうまく活用できれば、年間を通じた安定的な人材確保と、外国人本人の生活実態に即した柔軟な働き方の両立が期待できます。一方で、計画の作成や関係者間の調整には相応の手間がかかるため、早めに準備を進めることが重要です。
まとめ
育成就労制度では、季節性のある農業分野・漁業分野に限り、派遣元と派遣先が共同で育成就労計画を作成・認定を受けることで、派遣形態による育成就労が可能になります。また、これらの分野では、毎年の閑散期に本国へ一時帰国し、繁忙期に再来日して育成就労を継続する計画を立てることも認められており、その際の旅費は受入れ機関または監理支援機関が負担する仕組みになっています。
いずれも、派遣先ごとの派遣時期をあらかじめ計画に定めるなど、計画性が重視される制度設計となっている点が特徴です。農業・漁業分野で外国人材の受入れを検討されている事業者様は、制度の詳細を正確に理解したうえで準備を進めることをおすすめします。育成就労制度における派遣形態の活用に関するご相談は、外国人在留手続に詳しい行政書士までお気軽にお問い合わせください。