はじめに

育成就労制度のもとで働く外国人材の中には、日本で働く期間中に妊娠・出産というライフイベントを迎える方もいます。技能実習制度の時代から、妊娠や出産を理由とした不利益取扱いや、実質的な帰国強要が社会問題として指摘されてきた経緯もあり、育成就労制度でも、受入れ機関(育成就労実施者)や監理支援機関がどのように対応すべきかは非常に重要な実務上のテーマです。

この記事では、出入国在留管理庁が公表している「育成就労制度Q&A」のQ60をもとに、育成就労外国人が妊娠・出産等により就労の継続が困難になった場合に、受入れ機関や監理支援機関が取るべき対応を整理します。

妊娠・出産により就労継続が困難になった場合の基本的な流れ

出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」(Q60)によると、妊娠・出産等により育成就労を継続することが困難となった場合、育成就労実施者は「育成就労実施困難時届出書」を提出する必要があるとされています。

これは、育成就労外国人が何らかの事情で就労を続けられなくなったときに、受入れ機関が行政側にその状況を届け出る仕組みです。妊娠・出産はその典型例として明示されており、受入れ機関としては「本人が妊娠した、体調により就労が難しくなった」という事実を把握した段階で、この届出への対応を念頭に置く必要があります。

行政書士の視点から付け加えると、こうした届出制度が設けられている背景には、外国人労働者が「妊娠・出産をきっかけに突然行方不明になる」「相談先が分からないまま孤立してしまう」といった事態を防ぎ、行政が状況を把握できるようにする狙いがあると考えられます。受入れ機関にとっても、届出を適切に行うこと自体が、後々のトラブルを避ける重要な手続きになります。

監理支援機関・育成就労実施者に求められる説明と支援

Q60では、届出だけでなく、監理支援機関や育成就労実施者が本人に対して行うべき説明・支援の内容についても具体的に列挙されています。同Q&Aによると、以下のような説明を行い、育成就労外国人の希望を踏まえて必要な対応を行うことが求められるとされています。

  • 母子健康手帳の交付、病院や市町村の窓口、育成就労外国人の定期的な病院受診の手続に関する説明や支援等
  • 中断しても育成就労を再開できることの説明、育成就労の継続の意思の確認、日本での出産希望の確認等
  • 育成就労外国人が帰国して母国で出産することを希望する場合には、育成就労の再開の時期や手続に関する説明等
  • 出産育児一時金、健康保険の出産手当金、産前・産後休業等に関する説明等

ここでのポイントは、選択肢が「日本で出産する」か「一度帰国して母国で出産する」かの二つ用意されており、どちらを選んでも育成就労を再開できることが前提になっているという点です。つまり、妊娠・出産を理由に育成就労そのものが打ち切られる制度設計にはなっておらず、あくまで本人の意思を尊重しながら、必要な行政手続きや社会保険制度の情報提供を行うことが受入れ側の役割とされています。

行政書士として実務上補足すると、母子健康手帳の交付手続きや出産育児一時金、出産手当金といった制度は、日本語に不慣れな外国人にとっては特に分かりにくい分野です。制度の存在を知らせるだけでなく、実際にどの窓口に行けばよいか、どのような書類が必要かまで丁寧に案内できるかどうかが、受入れ機関の実務対応の質を左右するといえるでしょう。

帰国を希望する場合の注意点

育成就労外国人が帰国して母国で出産することを希望する場合、Q60では「育成就労外国人の意思確認のための資料を監理支援機関又は育成就労実施者において保管する必要がある」と明記されています。

これは非常に重要なポイントです。妊娠・出産を理由とした一時帰国が、後になって「本人の意思ではなく、受入れ機関側から実質的に帰国を強いられたのではないか」といった疑義を生まないようにするための措置と考えられます。受入れ機関としては、口頭でのやり取りだけで済ませるのではなく、本人が自らの意思で帰国を選択したことが分かる資料(本人の署名がある確認書など)をきちんと作成し、保管しておくことが求められます。

育成就労を中断・再開する場合の手続き

Q60では、育成就労を一度中断し、同じ育成就労実施者の下で育成就労を再開する場合には、「育成就労計画の変更認定を行う必要がある」とされています。

育成就労制度では、当初から3年間分の育成就労計画を作成して認定を受ける仕組みになっているため、妊娠・出産等により就労を中断する期間が生じる場合には、その事情に応じて計画自体を見直し、改めて変更認定の手続きを取る必要があるということです。単に「休ませればよい」というものではなく、計画上の位置づけを適正に整理することが求められている点に注意が必要です。

受入れ機関が押さえておきたい実務上のポイント

以上を踏まえると、育成就労外国人が妊娠・出産等で就労継続が困難になった場合、受入れ機関や監理支援機関には主に次のような対応が求められると整理できます。

  1. 育成就労実施困難時届出書を提出すること
  2. 本人に対し、母子健康手帳や病院受診、社会保険制度(出産育児一時金・出産手当金・産前産後休業等)について説明すること
  3. 育成就労の継続意思や日本での出産希望の有無を確認すること
  4. 帰国を希望する場合は、本人の意思確認資料を作成・保管すること
  5. 育成就労を中断・再開する場合は、育成就労計画の変更認定を行うこと

これらはいずれも、外国人本人の意思を尊重しつつ、行政手続き上の適正性を確保するための対応です。受入れ機関としては、妊娠・出産が判明した時点でこれらの流れをあらかじめ把握しておくことで、慌てずに、かつ本人に寄り添った対応ができるようになるでしょう。

なお、現時点で公表されている内容は基本的な枠組みにとどまり、届出書の具体的な様式や提出先の詳細な運用については、今後、運用要領等で明らかにされていくと考えられます。受入れ機関としては、制度の詳細が公表され次第、随時最新情報を確認することが大切です。

まとめ

育成就労外国人が妊娠・出産等により就労の継続が困難になった場合、受入れ機関には「育成就労実施困難時届出書」の提出、本人への丁寧な説明・支援、意思確認資料の保管、そして育成就労計画の変更認定という、一連の対応が求められます。技能実習制度時代に指摘されてきた課題を踏まえ、妊娠・出産を理由に一方的に就労が打ち切られることのないよう、本人の希望を軸にした制度設計になっている点は、受入れ機関としてもしっかり理解しておきたいポイントです。

外国人材の受入れにあたっては、こうした個別の事情への対応も含めて、制度を正確に理解し、適切な手続きを踏むことが重要です。育成就労制度に関するご相談は、外国人在留手続に詳しい行政書士までお気軽にお問い合わせください。