日本で生まれ育ちながら、在留資格のない状態にある子どもたちとその家族の問題は、これまで社会的にも大きく取り上げられてきました。こうした中、出入国在留管理庁は令和5年8月に、一定の条件を満たす家族に対して、家族一体として在留特別許可を検討する特例的な方針を発表しました。

この記事では、出入国在留管理庁の「退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A」Q36・Q37をもとに、この特例方針の内容を解説します。ご家族の在留資格に関わる、デリケートかつ重要なテーマですので、できるだけ丁寧にご説明します。

特例方針の対象となる方

退去強制手続Q&AのQ36では、この特例方針について次のように説明されています。

令和5年8月4日の法務大臣臨時記者会見において、退去強制令書の発付を受けた未成年者のうち、入管法等改正法(令和5年6月16日法律第56号)の施行日である令和6年6月10日までに我が国で出生して小学校、中学校又は高等学校で教育を受けた方を対象とし、同法による改正前に迅速な送還ができなかったことを考慮し、今回に限り、家族一体として在留特別許可をして在留資格を与える方向で検討する方針が示されました。ただし、親に看過し難い消極事情(注)がある場合には、同方針の対象とはなりません。(退去強制手続Q&A Q36より)

整理すると、この特例方針の対象となるのは、次の条件を満たす未成年の方です。

  • 退去強制令書の発付を受けていること
  • 令和6年6月10日(入管法等改正法の施行日)までに日本で出生したこと
  • 小学校、中学校又は高等学校で教育を受けたこと

このような子どもたちについて、これまで迅速な送還ができなかった経緯を踏まえ、「今回に限り」家族一体として在留特別許可をする方向で検討するという、極めて異例の対応が取られたのです。

「看過し難い消極事情」があると対象外になる

ただし、この方針にはただし書きが付されており、親に「看過し難い消極事情」がある場合には、対象とはならないとされています。Q36では、この消極事情について次のように具体的に説明されています。

(注)「看過し難い消極事情」とは、具体的には、①不法入国・不法上陸、②偽造在留カード行使や偽装結婚等の出入国在留管理行政の根幹に関わる違反、③薬物使用や売春等の反社会性の高い違反、④懲役1年超の実刑、⑤複数回の前科を有していることをいいます。(退去強制手続Q&A Q36より)

つまり、単に在留資格がない状態が続いていたというだけではなく、不法入国や偽装結婚、薬物事犯といった重大な違反行為が親にある場合には、この特例の対象からは除外されるという設計になっています。子どもの利益に配慮しつつも、出入国在留管理制度の根幹に関わる悪質な行為までは救済の対象としない、というバランスが取られていると理解できます。

なお、この方針の対象となり得る方については、地方出入国在留管理局から個別に連絡し、必要な案内が行われたとされています。

対象とならなかった家庭は今後どうなるのか

この特例方針の対象とならなかった子どもや家族について、今後も在留が認められる可能性はないのか、という点は多くの方が気になるところでしょう。退去強制手続Q&AのQ37では、この疑問に次のように答えています。

今回の方針については今回限りのものであり、追加して同様の措置を行うことはありません。
その上で、同方針の対象とならなかった方に対しても、個別の事案ごとに諸般の事情を総合的に勘案して、適切に在留特別許可の許否の判断をしています。
なお、退去強制令書を発付された外国人は、速やかに本邦から退去することが原則となるため、退去強制令書が発付された後の事情変更等は原則として考慮されません。(退去強制手続Q&A Q37より)

つまり、令和5年の特例方針そのものは一回限りのものであり、今後同様の一斉救済措置が繰り返されることはないとされています。ただし、この特例の対象とならなかった方についても、引き続き個別の事案ごとに、諸般の事情を総合的に勘案した在留特別許可の許否判断が行われるとされています。ここでも、別記事で解説した「積極要素・消極要素」の総合判断という考え方が基本になります。

実務上のポイント

  • この特例方針は「令和6年6月10日までに出生し、小学校・中学校・高等学校で教育を受けた未成年者」という明確な条件があるため、まずご自身やお子さんがこの条件に当てはまるかどうかを確認することが第一歩です。
  • 親に重大な違反行為がある場合には対象外となるため、家族全体の状況を正確に整理しておく必要があります。
  • 特例の対象とならなかった場合でも、在留特別許可の可能性がゼロになるわけではありません。個別の事情を丁寧に主張していくことが引き続き重要です。
  • 退去強制令書が発付された後は、原則として事情変更が考慮されないため、早期の対応が何より大切です。

まとめ

  • 出入国在留管理庁は令和5年8月、一定の条件を満たす未成年者について、家族一体として在留特別許可をする方向で検討する特例方針を示しました。
  • 対象は、令和6年6月10日までに日本で出生し、小学校・中学校・高等学校で教育を受けた未成年者で、親に重大な違反行為(看過し難い消極事情)がないことが条件です。
  • この特例は今回限りのものですが、対象とならなかった方についても、引き続き個別の事情を踏まえた在留特別許可の判断が行われます。

お子さんの将来やご家族の在留資格に不安を抱えている方は、一人で抱え込まず、専門家に相談することをおすすめします。当事務所では、こうしたデリケートなご相談にも真摯に向き合っております。

出典:出入国在留管理庁「退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A」Q36、Q37