在留カードや特別永住者証明書に漢字氏名を記載する際、本国で使用している漢字(簡体字や繁体字など)がそのまま表記されず、「正字」と呼ばれる別の字体に置き換えられることがあります。これはなぜなのでしょうか。
本記事では、出入国在留管理庁「Q&A特別永住者の制度について!よくある質問」の内容に基づき、漢字氏名が正字に置き換えられる理由と、その法的根拠、そして「正字」「簡体字等」の定義について解説します。
なぜ簡体字等は正字に置き換えられるのか
同資料によると、在留カード及び特別永住者証明書(以下「在留カード等」)の氏名として漢字を表記する場合、簡体字等については、在留カード等にそのまま表記するのではなく、正字の範囲の文字に置換して表記することとされています。
この考え方の背景には、「市区町村の業務(住民票、国民健康保険、国民年金等の各種システム)で今後利用が見込まれる氏名表記との連携を図る必要がある」旨の市区町村からの意見があったとされています。
さらに、住民基本台帳法において、外国人の住民票の漢字氏名については、在留カード等の記載に倣い、正字で記載する取扱いとなっているとされており、在留カード等に表記する漢字の範囲については、外国人氏名の本来の字形にも可能な限り配慮しつつ、現行の住民基本台帳事務において取り扱われている漢字(住基統一文字)との親和性を確保する必要があることから、正字の範囲の文字に限ることとされています。
つまり、単に「日本のルールを押し付けている」というわけではなく、住民票をはじめとする行政システム全体との整合性を取るためという実務上の理由があることがわかります。
どのような法的根拠に基づいているのか
漢字氏名の表記(正字への置換を含む)は、どのような法令に基づいて行われているのでしょうか。同資料によると、次の規定が根拠とされています。
- 出入国管理及び難民認定法施行規則第19条の7第1項及び第4項
- 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法施行規則第5条第1項及び第4項
これらの法令の規定に基づき、法務省告示(在留カード等に係る漢字氏名の表記等に関する告示。以下「在留カード等漢字告示」)が定められています。つまり、法律の委任を受けた省令、さらにその省令に基づく告示という段階を踏んで、具体的な運用ルールが決められている構造になっています。
「正字」とは何か、戸籍事務の正字と何が違うのか
在留カード等漢字告示における「正字」の定義は、一般にイメージされる戸籍事務上の正字とは範囲が異なる点に注意が必要です。同資料によると、在留カード等漢字告示における「正字」とは、次の(1)から(3)までに掲げる漢字をいうとされています。
- JIS第1水準~第4水準(JIS X 0208及びJIS X 0213)
- JIS補助漢字(上記(1)を除くJIS X 0212で定める漢字)
- 在留カード等漢字告示別表第1に定める漢字
そして、「簡体字等」とは、正字とは認められない漢字のことであり、具体的には中国簡体字、台湾繁体字等であって正字と字形が一致しない漢字のことを指すとされています。
中国式の字に置き換えてほしいという要望への回答
同資料には、「芸・沈・叶のような漢字は中国では簡体字であり、対応する繁体字(蕓・瀋・葉)に置き換えてほしい」という具体的な問い合わせに対する回答も紹介されています。
これに対する回答としては、「芸」「沈」「叶」などはいずれも日本の漢字の規格(日本工業規格:JIS X 0213又はJIS X 0212)に定められた漢字(告示上の「正字」)であり、現行の住民票でも取り扱われているものであるため、外国の漢字の規格(簡化字総表など)にのっとるのではなく、日本の漢字の規格(日本工業規格)にのっとり、在留カード等にはそのまま表記することとされています。
これは、工業標準化法第67条で国又は地方公共団体による日本工業規格(JIS)の尊重義務が定められていることとも関係しています。また、JIS X 0213では、これらの漢字のような「同形異字」(起源が別であっても現在では図形概念としての区別がわずかであるとされる漢字)について、両者を区別せず同じ漢字として扱うと定義されており、在留カード等漢字告示もこの定義を踏襲しています。
実務上のポイント
- 正字への置換は制度上のルールであり、個人の希望で変更することはできないとされています。使用可能な正字の中から任意に選ぶといった取扱いも、氏名表記の正確性を図る観点から適当ではないとされています。
- 旅券の字体と在留カード等の字体が微妙に異なることがある。これも各国の印字字体の違いによるもので、在留カード等はJIS X 0213等で定められた日本の標準字体で印字されます。
- どの正字に置き換えられるか事前に確認したい場合は、出入国在留管理庁のホームページに掲載されている正字検索システムを利用することができるとされています。
まとめ
在留カード等の漢字氏名が正字に置き換えられるのは、住民票をはじめとする行政システムとの整合性を確保するためであり、出入国管理及び難民認定法施行規則等に基づく告示によって具体的な運用が定められています。「正字」は戸籍事務上の正字とは範囲が異なるため、ご自身の氏名がどのように表記されるか気になる方は、正字検索システムなどで事前に確認しておくとよいでしょう。