こんにちは、行政書士の三澤です!
「明日の朝、○○の現場に3トン車1台お願い!」「了解、いつもの運賃で行きます!」
建設・産廃・運送業界では長年、協力会社への委託がこうした電話やLINEの口約束で完結してきました。しかし、令和7年(2025年)施行の貨物自動車運送事業法改正により、このやり方は明確な法令違反となりました。
多重下請け構造や運賃の買いたたきを防ぐため、元請け・下請け間の運送委託契約には、運送内容・附帯業務料金を明記した「書面の相互交付」が法律上の義務となっています。
「毎回、紙の契約書にハンコを押すのは現実的でない」という声は当然です。本記事では、産廃業界で10年以上の現場経験を持つ行政書士が、義務化された書面交付の必須記載事項・電子交付(電磁的方法)の正しい手順・そして実務で見落とされがちな事前承諾の落とし穴を解説します。
法改正で義務化された「書面の相互交付」とは
なぜ書面交付が義務化されたのか
物流業界では口約束による取引が慣行となっており、「運賃の不明確さ」「荷役作業(附帯業務)への対価が支払われない」といったトラブルが常態化していました。これが運転者の長時間労働・過労運転の温床にもなっていました。
こうした構造的な問題を是正するため、流通業務総合効率化法及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(令和7年施行)により、運送契約締結時の書面交付が法的義務となりました。
義務の対象範囲――荷主と運送会社の間だけではない
今回の改正で重要なのは、「荷主(真荷主)↔元請け」だけでなく、「元請け↔下請け(利用運送)」の取引にも書面交付義務が及ぶ点です。
①真荷主と元請け間(貨物自動車運送事業法第12条第1項)
真荷主及び一般貨物自動車運送事業者は、運送契約を締結するときは、国土交通省令で定める場合を除き、次に掲げる事項を書面に記載して相互に交付しなければならない
②元請けと下請け間/利用運送(同法第24条第2項)
一般貨物自動車運送事業者は、自らが引き受けた貨物の運送について他の一般貨物自動車運送事業者の行う運送を利用するときは、国土交通省令で定める場合を除き、当該他の一般貨物自動車運送事業者に対し、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない
荷主から末端の実運送事業者に至るすべての取引段階で、書面による契約内容の明示が求められます。
書面(写し)の「1年間保存」義務
交付して終わりではありません。交付した書面の写し(電子データを含む)は1年間の保存が義務付けられています。
- 真荷主・元請け間:貨物自動車運送事業法施行規則第13条の3第3項
- 元請け・下請け間:同規則第13条の7第3項
いずれも「書面の写し(電磁的記録を含む)を一年間保存しなければならない」と明記されています。紙でも電子データでも、交付の記録を必ず残す社内体制が必要です。
運送契約書に記載すべき「法定事項」
書面に何を書くかについても、法律で明確に定められています。「荷物を運ぶ」という概要程度の記載では要件を満たしません。
①運送の役務の内容とその対価(基本運賃)
貨物自動車運送事業法第12条第1項第1号・第24条第2項第1号に基づき、「運送の役務の内容及びその対価」の明記が必要です。
具体的には「何を・どこからどこへ運ぶか」と「その運賃はいくらか」を書面上で明確にします。「運賃は後から決める」「だいたいこのくらい」といった曖昧な取り決めは、この規定に抵触します。
②附帯業務の対価(荷役・保管など)
同法第12条第1項第2号・第24条第2項第2号に基づき、荷役(積み下ろし)・保管など運送以外の業務が発生する場合は、「運送の役務以外の役務の内容及びその対価」を別途記載する必要があります。
「荷役代は運賃に含まれているのか」という曖昧さをなくし、附帯業務の無償提供を防ぐための規定です。
③特別に生じる費用と支払方法
貨物自動車運送事業法施行規則第13条の3第2項・第13条の7第2項に基づき、以下の記載も必要です。
- 有料道路の通行料金
- 燃料価格変動に伴う追加燃料費(燃料サーチャージ)
- その他特別に生じる費用に係る料金
- 運賃・料金の支払方法
基本運賃だけでなく、実際の取引で発生しうる付随費用をすべて書面に落とし込むことが求められています。
実務負担を減らす「電磁的方法(電子交付)」の活用
毎回、紙を印刷・押印・郵送するのは現実的ではありません。法律は書面交付に代わる電子交付の手段も用意しています。
認められる電磁的方法(貨物自動車運送事業法施行規則第13条の4第1項等)
- 電子メール等による送信:PC・スマートフォンから電気通信回線を通じて送信し、相手方のファイルに記録する方法
- クラウド・ウェブ上での共有:自社サーバー等に記録し、相手方がインターネット経由で閲覧・保存できる方法
- 電子媒体の交付:USBメモリやCD-ROMなどに記録して手渡す方法
PDFをメールで送る方法が最も実務的で導入コストも低く、多くの事業者に適しています。
必須:電子交付前の「事前承諾」
ここで注意が必要です。相手方の承諾なしに電子メールを送るだけでは、適法な電子交付とは認められません。
貨物自動車運送事業法施行令第1条第1項・第2条第1項において、電子交付を行うには、あらかじめ相手方に対して「電磁的方法の種類及び内容」を示したうえで、書面またはメール等の情報通信の技術を利用する方法による承諾を得ることが義務付けられています。
実務上の手順としては、次のように進めてください。
- 提案:「今後、運送契約の内容はPDF形式でメール送信します。ご承諾いただけますか?」と相手方に打診する
- 承諾取得:相手方から「承諾します」という意思表示を、メールや書面で受け取る
- 記録保存:承諾を受けた記録(メールのやりとり等)を保存しておく
この手順を踏まずにメールを送り続けていた場合、法的には「書面交付未了」と判断されるリスクがあります。既存の協力会社についても、早急に承諾手続きを済ませることをお勧めします。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 真荷主↔元請け、元請け↔下請け(利用運送)のすべての取引段階 |
| 義務の内容 | 運送契約時の書面相互交付、および写しの1年間保存 |
| 必須記載事項 | 基本運賃、附帯業務の対価、有料道路料・燃料サーチャージ等、支払方法 |
| 電子交付 | 可能。ただし事前に相手方からの承諾取得が必須 |
| 根拠法令 | 貨物自動車運送事業法第12条・第24条、同施行規則第13条の3〜7、同施行令第1〜2条 |
「口約束でやってきた」という慣行は、令和7年以降は通用しません。書面(または電子データ)で契約内容を明示することは、自社の利益を守ることにも直結します。
まず着手すべきは、契約書フォーマットの整備と既存の協力会社からの電子交付承諾の取得です。これが済んでいない事業者は、速やかに対応を進めてください。
関連記事:【令和7年法改正】多重下請けを可視化する「実運送体制管理簿」の作成義務
今回の法改正では、書面交付義務と並んで、貨物自動車運送事業法第24条の5に基づく「実運送体制管理簿」の作成・保存義務も新設されました。自社が引き受けた荷物を最終的にどの事業者が運んだかを記録・管理する制度です。対象範囲・記載項目・実務対応については別記事で詳しく解説しています。(※公開前)
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三澤 祐喜|三澤行政書士事務所(愛知県)
行政書士
産廃処理業者に10年以上勤務した、おそらく日本でただ一人のバックグラウンドをもつ行政書士。
建設業・不動産業・運送業・廃棄物処理法・農地法——複雑に絡み合う法規制の現場にいたからこそ、他の事務所が手を引くほど複雑な案件に、私は静かに燃えます。
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言われた書類を作るだけの「代行屋」ではなく、絡み合った法務課題を根本から解きほぐす社外パートナーとして、愛知県の経営者様の隣に立ち続けます。
愛知県行政書士会所属|第24191550号