こんにちは、行政書士の三澤です!

「登記簿には『雑種地』と書いてあった。だから農地転用は不要だと判断した」

用地取得の現場で、こうした思い込みがプロジェクトを止めてしまう事例は、残念ながら珍しくありません。設計事務所やハウスメーカー、開発事業者の担当者が登記事項証明書を確認し、地目が「山林」「雑種地」「原野」であることを確認して、「農地法の手続きは必要ない」と判断してしまうケースです。

しかし農地法は、登記簿の地目ではなく、土地の「現在の使われ方」を基準に規制をかけます。これが「現況主義」(農地法第2条第1項)と呼ばれる原則です。

このルールを見落としたまま造成や開発に着手すると、無断転用として扱われます。法人が無断転用を行った場合、工事停止・原状回復命令(農地法第51条)に加え、最大1億円以下の罰金(農地法第67条)という重いペナルティが待っています。プロジェクトの中断はもちろん、金融機関との関係にも深刻な影響が出かねません。

本記事では、農地転用・建設法務を専門とする行政書士が、「現況主義」の法的根拠から無断転用のリスク、そして荒地の「非農地判断」という実務対応まで、法人事業者の視点から解説します。

1. なぜ「登記地目が非農地」だけでは安心できないのか

農地かどうかは「現況」で決まる(農地法第2条第1項)

農地法第2条第1項は、農地を「耕作の目的に供される土地」と定義しています。そして国が定めた「農地法関係事務に係る処理基準」(以下「処理基準」)は、農地への該当判断について、

「その土地の現況によって判断するのであって、土地の登記簿の地目によって判断してはならない」

と、明確に規定しています。

さらに同処理基準は、耕作の目的に供される土地の範囲を次のように示しています。

「現に耕作されている土地のほか、現在は耕作されていなくても耕作しようとすればいつでも耕作できるような、すなわち、客観的に見てその現状が耕作の目的に供されるものと認められる土地(休耕地、不耕作地等)も含まれる」

つまり、現在は誰も耕していなくても、客観的に見ていつでも耕作できる状態であれば、農地法上の「農地」として扱われます。登記や固定資産税の課税区分は、この判断とは無関係です。

「固定資産税が非農地扱いだから大丈夫」も通用しない

実務上よくある誤解が、「固定資産税の評価が非農地扱いになっているのだから、農地法でも非農地だろう」という推測です。しかし、固定資産税の課税区分と農地法上の「農地」該当性は、まったく別の判断基準によるものです。固定資産税の扱いは農地法の判断を左右しません。

一時的な資材置場や数年の放置でも「農地」のまま

現地を視察すると、対象地が一時的に資材置場として使われていたり、数年間放置されて草だらけになっていたりすることがあります。こういった状態であっても、農地法の規制が外れるわけではありません。

行政書士の実務ポイント

大阪高裁の裁判例(大阪高判昭和35年8月1日)は、元農地として耕作されていた土地を2年間休閑地・不耕作地として放置し、一時的に材木置場として使用していた事案について、「いつでも耕作しうる状態である以上、非農地になったとはいえない」と判断しています。

「一時的に別の用途で使っている」「数年草が生えている」という程度では、農地法の規制は解除されません。

2. 「現況主義」の法的根拠をきちんと押さえておく

最高裁判例も厳格な適用を認めている

農地法の「現況主義」は、土地所有者の意思や登記上の記載ではなく、客観的な事実状態のみによって判断されます。この原則は極めて厳格に運用されており、最高裁判例(最判昭和40年10月19日)においても、権原なく不法に開墾された土地であっても、現に農地としての実態があれば農地法上の農地に該当しうるという判断がなされています。

法的な経緯がどうであれ、「現況が農地であれば農地法の規制がかかる」というのが、この法律の基本的な構造です。

休耕地・不耕作地も「農地」の範囲に含まれる

処理基準第1の(1)は、農地の範囲を「休耕地、不耕作地等」にまで広げています。この規定が実務上意味するのは、「しばらく耕作されていない土地」「見た目が荒地になっている土地」でも、農地法上は農地として扱われる可能性があるということです。

この点を自己判断で「非農地だろう」と判断して造成に着手することが、後述するような深刻なトラブルの発端となります。

3. 無断転用に課されるペナルティは「法人1億円以下の罰金」

農地法が食料生産基盤の保護を目的としていることもあり、違反に対するペナルティは他の法令と比べても非常に厳しく設定されています。

工事停止命令と原状回復命令(農地法第51条)

農地法第4条第1項または第5条第1項に違反して無断転用が行われた場合、都道府県知事等は「工事その他の行為の停止」または「相当の期限を定めての原状回復命令」を発することができます(農地法第51条第1項)。

この命令が下った時点で進行中のプロジェクトは即座に止まります。さらに事業者が命令に従わない場合は、都道府県知事等による行政代執行が行われ、その費用が強制徴収されます(同条第4項・第5項)。

法人への罰金は最大1億円(農地法第64条・第67条)

無断転用を行った者には、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科されます(農地法第64条第1号)。

さらに法人事業者にとって特に重大なのが「両罰規定」です。法人の代表者や従業員が業務として違反転用を行った場合、行為者本人が罰せられるだけでなく、法人に対しても1億円以下の罰金が科されます(農地法第67条第1号)。これは、開発案件における不当利得が高額になりやすいことへの抑止力として、あえて厳しく設定されたものです。

行政による「公表制度」とレピュテーションリスク

近年の農地法改正により、原状回復命令を受けた者が期限までに命令に従わなかった場合、「その旨及び当該命令に係る土地の地番その他必要な事項を公表することができる」とする公表制度が創設されました(農地法第51条第3項)。

行政から原状回復命令を受けた事実が公表されれば、金融機関の融資方針や取引先との関係、地域社会との信頼関係に深刻な影響が及びます。プロジェクトの中断にとどまらず、会社全体の信用に関わる問題へと発展しかねません。

4. 荒地・森林化した土地の開発で必要な「非農地判断」の手続き

開発予定地を現地で見ると、長年放置された結果として木々が生い茂り、一見すると「山」や「原野」にしか見えないケースがあります。こういった場合でも、登記上の地目が農地であったり、過去に農地として耕作されていた経緯がある土地は、農業委員会が「農地」と認定している可能性があります。見た目だけで判断して重機を入れることは、非常に危険です。

農業委員会による「非農地判断」という制度

農地法上の規制は、永久に解除されないわけではありません。農業委員会が客観的な現地調査を行い、「もはや農地ではない」と認定する制度があります。これを実務上「非農地判断」と呼びます。

国の通知「農地法の運用について」(平成21年12月11日付け21経営第4530号・21農振第1598号局長通知)等の基準では、人力や農業用機械での耕起・整地が物理的に困難であり、かつ基盤整備等の計画がない土地のうち、以下のいずれかに該当する場合は「農地に該当しない」と判断されます。

チェック
  • ア:その土地が森林の様相を呈しているなど、農地に復元するための物理的な条件整備が著しく困難な場合
  • イ:ア以外の場合であって、周囲の状況からみて、農地として復元しても継続して利用できないと見込まれる場合

また「非農地判断の徹底について」(令和3年4月1日付け2経営第3505号農林水産省経営局農地政策課長通知)では、農業委員会に対し、こうした「再生利用が困難な農地」については原則として調査した年内に農地台帳から除外するよう、国から指導が強化されています。

非農地判断は「行政が客観的に行うもの」──自己判断での着工は禁止

ここで絶対に誤解してはならないのは、非農地判断は土地所有者や開発事業者が自分で行うものではなく、農業委員会が土地の現況を客観的に調査したうえで判断するものだという点です(「農地に該当しない土地の農地台帳からの除外について」平成30年3月12日付け29経営第3242号通知)。

「木が生えているから農地法は関係ない」と自社で判断して抜根・整地を始めた場合、農業委員会からは「無断転用(造成)」と認定されるリスクが極めて高くなります。そうなれば非農地判断の対象にも入れてもらえず、原状回復命令や1億円以下の罰金という制裁が待ち受けることになります。

用地取得前に必ず専門家を交えた現況調査を行い、「農地転用許可(第4条・第5条)を申請すべきか」「農業委員会との非農地判断の協議を先行させるべきか」を法的に見極めることが、プロジェクトを守る最初の一手です。

5. 農地転用から地目変更登記まで──確実なプロセスの全体像

開発プロジェクトを完遂するためには、造成や建築が終わった後の手続きも重要です。事業用地として適法に利用し、金融機関との関係を安定させるためには、登記簿上の地目を変更する「地目変更登記」が必要になります。

農地転用許可なしに地目変更登記はできない

登記上の地目が「田」や「畑」の土地について、「現況が変わったから」という理由だけで地目変更登記を申請しても、法務局では受理されません。農地の地目変更登記には、農地法に基づく許可書(第4条・第5条)等の添付が求められます

許可書が添付されていない場合、登記官は対象土地の所在する市町村の農業委員会に事実関係の照会(地目照会)を行います(「不動産登記法等の施行に伴う登記事務の取扱いについて」等に基づく運用)。

この照会によって無断転用であることが判明すれば、地目変更登記が認められないどころか、原状回復命令や罰則の対象にもなります。適法な農地転用手続きを経ない限り、事業用地としての法的地位は確保できません。

農地転用許可申請に必要な書類と「行政間調整」

農地転用許可(第4条・第5条)の申請には、農地法施行規則(第30条・第57条の4等)に基づき、次のような専門的な添付書類が求められます。

チェック
  • 事業の実施に必要な資力および信用があることを証する書面(資金計画・融資証明等)
  • 土地に設置する施設や利用する道路・用排水施設の位置を明らかにした図面
  • 転用行為の妨げとなる権利を有する者がある場合の同意書
  • 周辺農地への被害防除措置に関する計画

さらに開発許可(都市計画法第29条)など他の許認可が絡む案件では、「他法令の許可等の処分がされる見込みがないこと」が転用不許可事由にもなりえます。農業委員会と都市計画担当部局の双方と並行して協議を進め、複数の法令要件を整合させる「行政間調整」が実務の核心です。

こうした手続きを自社のみで対応しようとすると、一箇所の見落としがスケジュール全体を数か月単位で遅延させます。許認可実務の専門家である行政書士にアウトソーシングすることで、本来の開発業務に集中しながら確実なプロジェクト進行を実現することができます。

まとめ──用地取得前の現況確認を、専門家の目で

農地法における「現況主義」は、登記や固定資産税の区分を超えて適用される原則です。登記地目が山林や雑種地であっても、長年放置された荒地であっても、農業委員会が農地と認定している土地に手を入れれば、無断転用として厳格なペナルティの対象となります。

また農地転用許可(第4条・第5条)を適法に取得しなければ、最終的な地目変更登記(不動産登記法)を行うことも不可能です。用地取得の段階から、法的な見極めを丁寧に行うことがプロジェクト全体のリスク管理の基本となります。

農地法務の実務に精通した行政書士が、用地取得前の現況調査から行政窓口との協議まで、貴社の「外部法務部」としてサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。

登記地目が「山林」でも、農地法の対象になる場合があります。

現況が耕作されていれば登記地目に関わらず「農地」と判断されます。
自己判断で造成を始めると工事停止命令・法人1億円以下の罰金というリスクがあります。
用地取得前に現況調査と農業委員会への確認が必須です。
候補地の情報をお知らせいただければ、当事務所がリスクを確認します。

三澤祐喜 行政書士

三澤 祐喜|三澤行政書士事務所(愛知県)

行政書士

産廃処理業者に10年以上勤務した、おそらく日本でただ一人のバックグラウンドをもつ行政書士。
建設業・不動産業・運送業・廃棄物処理法・農地法——複雑に絡み合う法規制の現場にいたからこそ、他の事務所が手を引くほど複雑な案件に、私は静かに燃えます。
「他で断られた」「難しいと言われた」「複雑すぎて整理できない」——まず、ご連絡ください。
言われた書類を作るだけの「代行屋」ではなく、絡み合った法務課題を根本から解きほぐす社外パートナーとして、愛知県の経営者様の隣に立ち続けます。

愛知県行政書士会所属|第24191550号