農地法3条・4条・5条の違いとは?権利移動と転用の関係を行政書士が解説

農地法3条(権利移動)、4条(自己転用)、5条(転用目的の権利移動)の違いを行政書士がわかりやすく解説します。 「親の農地に家を建てる場合は何条?」といったケース別診断から、許可要件の最新情報、申請前に確認必須となる都市計画法や農振法(青地)の仕組み、無許可転用のリスク(原状回復命令等)まで、農地手続きの基礎知識を網羅しました。

分野
農地転用
主な法令
農地法
公開日
2025年5月18日
更新日
2026年11月2日
目次

「農業を始めるために、近所の地主さんから畑を買いたい」 「相続した農地に、自分の家を建てたい」 「自分の畑を不動産会社に売って、宅地にしてもらいたい」

農地の手続きには、見落とされがちな重要な事実があります。それは、あなたが「農地をどうしたいか」によって、適用される法律の条文と必要な手続きが根本から変わるということです。

日本の農地は、食料の安定供給を守るために「農地法」という厳格な法律のもとに置かれています。農地の名義を変える「権利移動」や、農地を別の用途に転換する「転用」を行う場合、原則として農業委員会や都道府県知事等の許可なしに動くことはできません。

その手続きの根拠となるのが、農地法第3条・第4条・第5条という3つの条文です。「家を建てるだけなのに、どれに当てはまるか分からない」と混乱される方は少なくありませんが、この違いを正確に把握することが、農地手続きを進めるための第一歩となります。

本記事では、3条・4条・5条の違いを比較表・ケース別診断を交えて徹底解説します。申請前に必ず確認すべき関連法(都市計画法・農振法)や、無許可転用がもたらすリスクまで網羅していますので、農地の活用・売買をご検討中の方はぜひ最後までお読みください。

1. なぜ農地にはこれほど厳しいルールがあるのか

「自分の土地なのに自由に使えないのですか?」と驚く方は少なくありません。

答えはシンプルです。農地は「個人の財産」である以前に、「国民全体の食を支える限られた資源」だからです。

農地法第1条(目的)は、農地を「国内の農業生産の基盤」であり、「現在及び将来における国民のための限られた資源」かつ「地域における貴重な資源」と位置付けています。だからこそ、優良農地の無秩序な減少を防ぐ「転用規制」と、農地を効率的に活用できる耕作者にのみ権利取得を認める「権利移動の制限」という二重の仕組みが構築されているのです。

【比較表】農地法3条・4条・5条の違いを一覧で確認

農地法の規制は、対象となる行為の性質によって次の3つに大別されます。

条文規制の目的行為の内容許可権者(原則)
農地法第3条権利移動の制限農地を農地のまま売買・貸借等する農業委員会
農地法第4条転用の規制(自己転用)所有者は変わらず、農地を農地以外に転換する都道府県知事または指定市町村長
農地法第5条転用目的の権利移動の規制農地以外にする目的で、売買・貸借等する都道府県知事または指定市町村長

※ 第4条・第5条の許可権者は都道府県知事等ですが、実際の申請窓口(経由機関)は農地所在地の農業委員会となります。

誰が・どのような目的で農地を扱うかで、適用される条文と許可要件は大きく変わります。次章から各条文の中身を詳しく掘り下げます。

2. 農地法3条・4条・5条の内容を根拠条文から解説

農地法第3条|農地のまま、名義(権利)が変わるケース

「権利移動」とは何か

農地法第3条第1項は、農地(または採草放牧地)について「所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合」に農業委員会の許可を必要とすると定めています。要するに、農地を農地として使い続けることを前提に、売買・贈与で所有権を移転したり、賃貸借・使用貸借(無償の貸し借り)で耕作する権利を設定したりする行為が対象です。

農地法第4条|持ち主は同じで、農地の用途を変えるケース(自己転用)

「自己転用」とは何か

農地法第4条第1項は、「農地を農地以外のものにする者」に対し、都道府県知事等(指定市町村の場合はその長)の許可を義務付けています。これは「自己転用」と呼ばれ、所有者自らが農地を住宅用地・駐車場・資材置き場などに用途変更する行為です。所有権の移転や賃借権などの設定(権利移動)を伴わない点が第5条との違いです。

農地法第5条|農地を売ったり貸したりし、かつ用途も変えるケース

「転用目的の権利移動」とは何か

農地法第5条第1項は、農地を農地以外のものにするために「第3条第1項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合」に都道府県知事等の許可を必要とすると定めています。農地を宅地・商業用地にする目的で第三者に売却・貸し付けるケースがこれに該当し、「権利移動(第3条)」と「転用(第4条)」の両方の性質を兼ね備えた手続きです。

3. 【ケース別診断】あなたのケースは3条・4条・5条のどれ?

よくあるケースを4つに整理しました。

Q1. 農業を始めるために、地主から畑を買いたい・借りたい

農地法第3条の申請が必要

農地を農地として利用し続ける前提で、所有権を取得(購入)したり、賃借権・使用貸借による権利を設定(有償・無償で借りる)したりするケースです。農地法第3条第1項に規定される「権利移動」に該当するため、農業委員会の許可が必要となります。

新たに農業を始める場合であっても、原則として、取得後の農地すべてを効率的に利用できる体制(全部効率利用要件:法第3条第2項第1号)と、必要な農作業に常時従事できること(農作業常時従事要件:法第3条第2項第4号)を満たす必要があります。当事者間の合意のみでは権利の取得は認められません。

Q2. 相続した畑に、自分(所有者)が家を建てたい

農地法第4条の申請が必要

すでにご自身が所有権を有している農地を、住宅用地等の農地以外の用途に変更するケースです。権利移動を伴わず用途のみを変更する「自己転用」に該当し、農地法第4条第1項に基づく都道府県知事等の許可が必要です。

ただし、対象地が都市計画法上の「市街化区域」内にある場合に限り、農業委員会への届出で知事等の許可が不要となる特例が適用されます(法第4条第1項第7号)。まず対象地がどの区域に属するかを確認することが重要です。

Q3. 自分の畑を不動産会社に売り、会社が宅地にして分譲する予定

農地法第5条の申請が必要

農地を宅地にする目的で第三者(不動産会社)に所有権を移転するケースです。用途変更(転用)と名義変更(権利移動)が同時に発生するため、農地法第5条第1項に基づく都道府県知事等の許可が必要となります。

このケースでは、立地基準の審査に加え、買い主である不動産会社に事業を実施するだけの資力・信用があり、申請どおりの用途に確実に供されると認められるかという一般基準(法第5条第2項第3号)が審査されます。事業の実現性が疑われる場合は許可されません。なお、造成した土地に自ら建物を建てずに売る(宅地として分譲する)だけの事業は、「土地の造成(その処分を含む。)のみを目的とするもの」に当たり、建築条件付売買予定地とする場合などの例外を除いて、用途に確実に供されるとは認められない事由とされています(農地法施行規則第57条第5号、「農地法の運用について」第2の1(2)ア(ク))。

Q4. 父の畑を借りて、息子(自分)がそこに家を建てたい

農地法第5条の申請が必要

これは、第4条と誤解しやすいケースです。「自分の家の敷地のようなものだから自己転用(第4条)」と考えがちですが、法律上は親と子は別人格です。親から子への使用貸借(無償での貸し借り)であっても、法律上は「使用貸借による権利の設定(法第3条第1項本文)」という権利移動が生じます。そのうえで住宅建築という転用を行うことになるため、農地法第5条第1項の許可申請が必要です。

「身内のことだから」と正規の手続きを経ずに着工した場合、無許可転用(違反転用)として原状回復命令の対象になるリスクがあります。必ず事前の申請を行ってください。

4. 申請前に必ず確認!3つの実務ポイント

① 農地法の前に「関係する法令」の確認が不可欠

農地法の申請に取り掛かる前に、まず対象農地が他の法律でどのような利用規制を受けているかを確かめる必要があります。見落としやすい重要法令は次の2つです。

② 「許可権者」と「申請窓口(経由機関)」は異なる

農地法第4条・第5条の転用許可権限を持つのは、原則として「都道府県知事」または農林水産大臣が指定する「指定市町村の長」です(農地法第4条第1項等)。

ただし、申請者がこれらの許可権者に直接書類を持ち込むわけではありません。法令上、許可申請書は農地所在地の「農業委員会を経由して」都道府県知事等に提出しなければならないと定められています(農地法第4条第2項、第5条第3項による準用)。農業委員会は申請書を受理し、内容を審査して意見を付したうえで都道府県知事等に送付する経由機関としての役割を担います(農地法第4条第3項)。窓口と最終的な許可権者が異なるという構造をあらかじめ理解しておくことが重要です。

③ 無許可転用のリスクは「原状回復命令」と「氏名の公表」

「許可を取るのが面倒だから」「自分の土地だから大丈夫だろう」と、無許可で農地に砂利を敷いたり建物を建てたりする行為(違反転用)は、非常に高いリスクを伴います。

農地法第4条第1項または第5条第1項の規定に違反した場合、都道府県知事等から工事停止や「原状回復等の措置」を命じられることがあります(農地法第51条第1項)。さらに、近年の法改正により、原状回復命令を受けた者が正当な理由なく期限までに命令に従わなかった場合、命令に従わなかった旨や対象土地の地番などを公表できる仕組みが創設されました(農地法第51条第3項)。国の処理基準では、命令を受けた者の氏名(法人の場合は名称と代表者の氏名)も公表することが考えられるとされています(第15の2)。

刑事罰の面では、個人に対して3年以下の拘禁刑(令和7年6月1日の改正前は懲役)または300万円以下の罰金、法人に対しては1億円以下の罰金が科される可能性があります(農地法第64条、第67条)。コンプライアンスの観点からも、転用の前に必要な許可を受ける(市街化区域では届出をする)ことが欠かせません。

5. まとめ|農地手続きの成否は「事前調査」で決まる

農地法第3条(農地のまま権利移動)・第4条(自己転用)・第5条(権利移動と転用のセット)、それぞれの違いと適用ケースを解説してきました。

ご自身の計画がどの条文に当てはまるかが分かったら、次はいよいよ手続きの準備です。しかし、実務において真のハードルとなるのは農地法そのものよりも、都市計画法・農振法といった関係する法令による規制です。

対象地が農振法上の農用地区域(青地)に指定されている場合は、農地法の許可申請の前に農振除外の手続きが必要となり、市街化調整区域にある場合は、都市計画法の開発許可などが必要になることもあります。これを見落としたまま計画を進めれば、農地法第51条に基づく「原状回復命令」や「違反情報の公表」という重大なペナルティを受けることになりかねません。

出典と確認日

次の資料にもとづいて書き、2026年11月2日に資料と照らして内容を確かめました。

制度は改正されることがあります。最新の内容は、各資料の発行元でご確認ください。

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