こんにちは、行政書士の三澤です!

「農地法の下限面積要件が廃止されたなら、細切れの農地を買い集めて開発しやすくなったはずでは?」「法改正で農地売買が自由化されたと聞いたけれど、転用許可の手間も減るのか?」

2023年(令和5年)4月に施行された改正農地法。「下限面積要件(原則50a)の廃止」というニュースを受けて、設計事務所や開発事業者の方から、このようなご相談をいただく機会が増えました。

結論から申し上げます。

「下限面積が廃止されたから農地転用がしやすくなる」——これは、事業を根本から揺るがしかねない危険な誤解です。

下限面積の廃止はあくまで、農業を目的として農地を取得する場合(農地法第3条)の規制緩和に過ぎません。宅地や事業用施設にするための「転用目的の取得(農地法第5条)」における立地基準・一般基準は、一切緩和されていません。

むしろ、同改正で強化された「違反転用者への厳罰化と公表制度(農地法第51条)」により、「農業目的を装って買い、後で転用しよう」という安易な考えは、プロジェクトの頓挫どころか企業の社会的信用を失墜させるリスクを伴います。

そして、開発事業者の皆さんが今もっとも注視すべきは、下限面積廃止と同時に導入された「地域計画(目標地図)」の法定化です。この制度によって、農地転用・農振除外のハードルは以前と比べて格段に高くなっています。

本記事では、農地・建設法務を専門とする行政書士が、法人実務の視点から「下限面積廃止の法的な真実」と「今後の開発用地取得を左右する地域計画という新たな壁への対応策」を解説します。

目次

1. 「2023年農地法改正」で何が変わり、何が変わっていないのか

「農地法改正で下限面積がなくなった」というニュースを聞いて、「小さな農地なら法人でも取得しやすくなったのでは」「小規模開発が進めやすくなるのでは」と感じた方は少なくないと思います。

しかし実務の立場から申し上げると、これは事業の根幹を揺るがしかねない誤解です。

1-1. 「下限面積要件の廃止」は転用(開発)の規制緩和ではない

2023年(令和5年)4月に施行された改正農地法により、「下限面積要件(都府県では原則50アール以上等、農地取得の最低面積を定めていた旧農地法第3条第2項第5号)」が撤廃されたのは事実です。

ただし、この法改正の目的は明確です。「農業の担い手不足を解消し、新規就農や多様な農業参入を促進すること」——つまり、規制が緩和されたのはあくまで「農地を農地のまま(農業をする目的で)取得・賃借する」ためのルールです。

開発事業者が農地を買収して宅地・事業用地・駐車場等に造成する行為は、法的には「農地転用」に当たります。下限面積要件が廃止されたからといって、農地を農地以外のものにする(開発する)ハードルが下がったわけではありません。

1-2. 農地法第3条(農業目的取得)と第5条(転用目的取得)の決定的な違い

この誤解を解消するために、農地法の「第3条」と「第5条」の違いを押さえておく必要があります。

農地法第3条(農業目的での権利移動)は、農地を「耕作の目的に供される土地」として利用する目的で所有権を移転したり賃借権を設定したりする場合の規制です。今回、下限面積要件が撤廃されたのは、この第3条の許可基準です。

一方、農地法第5条(転用目的での権利移動)は、農地を「農地以外のものにするため」に所有権を移転したり使用収益権を設定したりする場合の規制です。法人が開発目的で用地買収を行う場合は、原則として例外なくこの第5条の許可対象となります。

農地法第5条の許可では、対象農地が市街化調整区域内の第1種農地や農用地区域内農地に該当しないかという厳格な「立地基準」と、事業の確実性等を問う「一般基準」が適用されます。そして2023年の法改正において、これらの第5条の転用許可基準は何ら緩和されていません。

「面積が小さいから転用も簡単だろう」「とりあえず農業目的(第3条)で買っておいて後で開発しよう」という安易な見込みで事業計画を進めると、後になって「転用の許可が下りず、用地として使えない」「違反転用として処罰される」という事態に直面します。

2. 転用規制は緩和ゼロ。むしろ「違反転用」への罰則は強化されている

開発プロジェクトのために農地を取得する場合、農地法第5条の転用許可が必須です。「下限面積要件が廃止されたから開発しやすくなった」という誤解のまま用地買収を進めるのは極めて危険です。転用規制のハードルは一切下がっておらず、むしろ近年の法改正によって違反転用へのペナルティはより一層厳格化されています。

2-1. 開発を阻む農地法第5条の「立地基準」と「一般基準」

法人が開発目的で農地を取得する際、農地法第5条の許可を得るためには、「立地基準」と「一般基準」という2つの壁を越える必要があります(農地法第5条第2項)。2023年の下限面積廃止後も、これらの基準はまったく変更されていません。

チェック
  • 立地基準の壁(原則不許可の農地):
    農業振興地域内の「農用地区域内農地」や、おおむね10ヘクタール以上の規模を持つ優良農地(「第1種農地」)に該当する場合、例外的な公共事業等を除き、事業用開発のための転用は原則として許可されません(農地法第4条第6項第1号、第5条第2項において準用)。
  • 一般基準の壁(事業確実性の証明):
    立地基準をクリアしても、事業の実現確実性を客観的に証明できなければ不許可となります。資金力・信用の裏付けがない場合や、都市計画法に基づく開発許可など「他法令の許認可がされる見込みがない」場合、優良農地が虫食い状に破壊されるのを防ぐために、転用は認められません(農地法施行規則第57条)。

2-2. 「とりあえず農地として買う」は企業存続を揺るがすリスク——強化された罰則と公表制度(農地法第51条等)

「まずは下限面積がなくなった第3条(農業目的)で農地を取得しておき、後から自社のタイミングで造成してしまおう」と考える事業者の方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれは、企業存続を揺るがしかねない致命的なリスクです。

農業目的を装って取得した農地を、許可なく無断で造成した場合(無断転用)、または許可条件に違反した場合は、都道府県知事等から直ちに工事の停止や原状回復を命じられ(農地法第51条第1項)、進行中のプロジェクトは完全に頓挫します。

さらに、近年の法改正によって違反転用へのペナルティは極めて厳しくなっています。

チェック
  • 法人への1億円以下の罰金:
    無断転用を行った当事者には「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」が科されます(農地法第64条第1号)。そして法人の業務として行われた場合は両罰規定が適用され、法人に対して「1億円以下の罰金」という重い刑事罰が科されます(農地法第67条第1号)。
  • 【新設】違反転用事案の「公表制度」による信用失墜:
    さらに深刻なのが、近年の法改正で創設された公表制度です。原状回復等の措置命令を受けた事業者が、期限までに正当な理由なく命令に従わなかった場合、「その旨及び当該命令に係る土地の地番その他必要な事項を公表することができる」と規定されました(農地法第51条第3項)。

一度でも「農地法違反で原状回復命令を受け、公表された企業」というレッテルを貼られれば、金融機関からの融資引き揚げ、取引先との契約解除、地域住民からの反対運動など、取り返しのつかないレピュテーションリスクに直結します。

3. 開発プロジェクトを左右する「地域計画(目標地図)」という新たな壁

2023年の農地法関連の法改正において、下限面積廃止以上に開発事業者の皆さんが注視すべき制度変更があります。それが「地域計画」の法定化です。この制度は、今後の農地開発プロジェクトの成否を分ける、非常に重要な壁となります。

3-1. 農業経営基盤強化促進法に基づく「地域計画」と「目標地図」の法定化

2023年4月に施行された改正農業経営基盤強化促進法(基盤法)により、市町村は地域の農業者等との協議を経て、将来の農地利用の姿を明確化する「地域計画」を策定することが義務付けられました(基盤法第19条第1項)。

この地域計画において特に重要なのが「目標地図」の存在です。市町村は地域計画の中で「農業を担う者ごとに利用する農用地等を定め、これを地図に表示するものとする」と規定されています(基盤法第19条第3項)。つまり、向こう10年間の農地1筆ごとの「将来の利用予定者(農業の担い手)」を、行政が明確にマッピングする仕組みがスタートしたのです。

3-2. 地域計画と整合しない転用は原則「不許可」へ(農地法施行規則第47条の3等)

この地域計画(目標地図)は、単なる農業政策の方針書ではありません。農地転用の許認可に対して直接的な法的拘束力を持ちます。

農地法では、農地転用(第4条・第5条)の一般基準として、「地域における農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずるおそれがあると認められる場合」には許可をしてはならないと定めています(農地法第4条第6項第5号、第5条第2項第5号)。

そしてこの基準を具体化した農地法施行規則において、明確に以下の事由が不許可対象として追加されました。

「地域計画に係る農地を農地以外のものにすることにより、当該地域計画の達成に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合」(農地法施行規則第47条の3第2号、同第57条の3第2号)

さらに、農林水産省経営局長・農村振興局長通知「農地法の運用について」では、地域計画の区域内の農地において「農業を担う者が特定されている場合」や「農業を担う者の確保が見込まれている場合」に、その農地を転用することは「地域計画の達成に支障を及ぼすおそれがある」と厳格に解釈されています。

つまり、開発事業者が買収しようとしている農地が、行政の「目標地図」において将来の農業の担い手用に位置付けられていた場合、どれだけ資金力があり優れた開発計画であっても、原則として農地転用は不許可となる——そのような厳しい法構造に変化しているのです。

4. 大規模開発の前提「農振除外」にも地域計画の壁が直撃する

事業規模が数ヘクタールに及ぶような大規模開発では、都市計画区域外や市街化調整区域内の「農用地区域内農地(いわゆる青地)」が開発候補地となるケースが少なくありません。

しかし農用地区域内農地は原則として転用が禁止されており、開発するためには農地法第5条許可の前提として、農業振興地域の整備に関する法律(農振法)に基づく「農用地区域からの除外(農振除外)」の手続きが必要です。

そしてここにも、「地域計画」という新たな壁が立ちはだかります。

4-1. 農振除外の法定要件に「地域計画との整合性」が追加

農振除外が認められるためには、農振法第13条第2項各号に定められた法定要件をすべて満たす必要があります。従来は「農用地区域以外の土地をもって代えることが困難であること(代替性の不具備)」等の要件を満たせば、数年がかりで除外できるケースもありました。

しかし2023年(令和5年)の法改正により、農振除外の要件がさらに厳格化されました。農振法第13条第2項の規定に、新たに以下の要件が明記されたのです。

「農業経営基盤強化促進法第19条第1項に規定する地域計画が定められている場合にあつては、当該変更が当該地域計画の達成に支障を及ぼすおそれがないと認められること」(改正農振法第13条第2項第5号等の関連規定に基づく)

農地転用の基準(農地法)だけでなく、大前提となる農振除外の基準(農振法)においても、「地域計画」との整合性が法定の絶対条件となりました。

4-2. 「目標地図」に位置付けられた農地は開発不可になるリスク

国の「農業振興地域制度に関するガイドライン」においても、農用地区域の変更(除外を含む)については、市町村が策定する地域計画と密接に連携し、その達成に支障がないかを厳格に判断することが求められています。

もし、開発候補地として目を付けた農地が、行政の作成した地域計画の「目標地図」において「将来の農業を担う者」に位置付けられていた場合、事業者の資金力にかかわらず、開発計画が地域経済にどれほど貢献するものであろうと、「地域計画の達成に支障を及ぼすおそれがある」として、農振除外自体が法的に認められなくなります。

農振除外ができなければ、農地法第5条の転用許可も下りる見込みはなく、その土地での開発プロジェクトは完全に行き詰まります。「下限面積要件の廃止」という表面的な規制緩和の陰で、法人事業者のエリア選定・用地買収の難易度は過去最高レベルに引き上げられていると言っても過言ではありません。

5. 農地転用から地目変更登記まで——確実に進めるための実務プロセス

開発プロジェクトにおいて、造成や建築が完了すればすべて終わりというわけではありません。その土地を適法な事業用地として確立し、金融機関からの融資を円滑に受けるためには、法務局で登記簿上の地目を変更する「地目変更登記」が不可欠です。

5-1. 地目変更登記の前提は「農地転用許可(法第4条・第5条)」

不動産登記法上、土地の用途が変わった場合は地目変更登記を申請する義務があります。しかし、登記簿上の地目が「田」や「畑」である土地について、「造成が完了して現況が非農地になったから」という理由だけで地目変更登記を申請しても、法務局で受理されることはありません。

実務上、農地の地目変更登記を申請する際には、適法に農地転用が行われたことを証明する「農地法第4条・第5条の許可書(市街化区域の場合は届出受理通知書)」等の添付が求められます。

これらの許可なく無断で造成等を行った土地について地目変更を申請した場合、登記官から農業委員会への照会が行われます。その結果、無断転用(農地法違反)であることが発覚すれば、地目変更が認められないだけでなく、都道府県知事等からの「原状回復命令(農地法第51条第1項)」や刑事告発という事態に発展します。

適法な農地転用手続きをクリアしない限り、事業用地としての法的な地位を確立することはできない——これが農地転用実務の厳然たる構造です。

5-2. 複雑な行政間調整を乗り越えるために——行政書士を活用する実務上のメリット

農地転用許可を取得するためには、申請書を提出するだけでは足りません。事業の確実性を客観的に証明する書類作成と、複数の行政機関との事前協議が求められます。

農地法施行規則第47条及び第57条では、転用が不許可となる事由として以下のような要件が厳格に定められています。

チェック
  • 資金力・信用の証明: 転用行為を行うために必要な資力及び信用があると認められない場合は不許可となります。残高証明や融資見込証明等による緻密な立証が必要です。
  • 他法令の許認可の見込み: 「事業の施行に関して行政庁の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分がされなかつたこと又はこれらの処分がされる見込みがないこと」と規定されています。

特に法人が関わる開発プロジェクトでは、都市計画法上の開発許可など他の許認可を伴うケースが多く、農業委員会のみならず都市計画部局や道路・河川管理者と並行して事前協議を行い、「他法令の許可の見込み」を矛盾なく調整しながら進める必要があります。

こうした複雑な行政間調整と膨大な添付書類の作成を自社のみで行うことは多大なリソースの負担となり、一つの見落としや調整ミスが数か月単位のスケジュール遅延を招きます。許認可実務の専門家である行政書士にアウトソーシングすることで、設計・開発業務に専念しながら確実なプロジェクト進行が可能になります。

まとめ——地域計画の時代に、農地開発を安全に進めるために

「下限面積の廃止」という耳触りの良いニュースの裏側で、国は「地域計画(目標地図)」を通じて、優良農地を将来の担い手に集積・保全する動きを強力に推し進めています。

開発事業者がこれから農地を事業用地として検討する際、「その土地が地域計画の目標地図にどう位置付けられているか(あるいは今後位置付けられる予定か)」の事前調査が、プロジェクトの成否を分ける最重要事項となっています。

地域計画と整合しないまま用地取得を進めてしまえば、農振除外や農地法第5条許可の申請段階で「不許可」という最悪の結末を迎えかねません。

「検討中の候補地が、市町村の地域計画にどう影響されるか調査してほしい」「厳格化する農地転用実務において、初期段階からプロの意見を聞きながら計画を練りたい」

愛知県内の農地法務の最前線を知る当事務所が、貴社の「外部法務部」として、複雑化する法令の網を正確に読み解き、安全かつ確実な事業用地取得を強力にバックアップいたします。

「下限面積廃止で転用しやすくなった」は誤解です。

2023年改正は農業目的の権利取得の規制緩和であり、開発目的の転用規制は変わっていません。
むしろ「地域計画・目標地図」という新たな壁が加わり、用地取得前の事前調査が以前より重要になっています。
候補地が地域計画に位置付けられているか、取得前に確認させてください。

三澤祐喜 行政書士

三澤 祐喜|三澤行政書士事務所(愛知県)

行政書士

産廃処理業者に10年以上勤務した、おそらく日本でただ一人のバックグラウンドをもつ行政書士。
建設業・不動産業・運送業・廃棄物処理法・農地法——複雑に絡み合う法規制の現場にいたからこそ、他の事務所が手を引くほど複雑な案件に、私は静かに燃えます。
「他で断られた」「難しいと言われた」「複雑すぎて整理できない」——まず、ご連絡ください。
言われた書類を作るだけの「代行屋」ではなく、絡み合った法務課題を根本から解きほぐす社外パートナーとして、愛知県の経営者様の隣に立ち続けます。

愛知県行政書士会所属|第24191550号