「裁判所の競売物件情報で、安い農地を見つけた。入札してみたい」
「国税の公売に農地が出ている。資材置場にしたいけど、買えるの?」
不動産業者や個人の投資家の方から、こうしたご相談をいただくことがあります。
一般の不動産と違い、競売・公売に出た農地は、誰でも自由に入札できるわけではありません。競売や公売で農地を取得する場合でも、農地法の許可(3条・5条)が必要だからです。そのため、裁判所などは、入札者を「買受適格証明書」を持つ人に限定しています。
この記事では、愛知県の「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(以下「愛知県ハンドブック」)に沿って、次の点を解説します。
- 買受適格証明書とは何か
- 取得の手続きと添付書類
- 入札から所有権取得までの流れ
競売でも農地法の許可が必要
「競売だから許可不要」ではない
愛知県ハンドブックは、次のように説明しています。
農地が競売(公売を含む。以下同じ。)に付された場合でも、権利の移転及び設定並びに転用には許可が必要とされる。このため、裁判所は入札者を「買受適格証明書」を有する者に限定している。(愛知県ハンドブック 7 競売(公売)農地買受適格証明関係)
農地の所有権を取得するには、農地のまま使うなら3条許可、転用するなら5条許可(市街化区域は5条届出)が必要です。この原則は競売・公売でも変わりません。
競売・公売は「単独申請」ができる
農地法の許可申請は、原則として売主と買主の連署で行います。ただし、競売・公売による場合は例外として単独申請ができます(農地法施行規則第10条第1項第1号)。事務処理要領も、競売・公売によって権利を取得しようとする場合は買受人が申請者になるとしています(農地法関係事務処理要領 第1)。
債務者(元の所有者)の協力がなくても、買受人が自分で許可申請できる仕組みになっています。
買受適格証明書とは?
「許可が得られる見込み」を示す証明
この買受適格証明(書)は、農地法第3条又は第5条の許可が得られる見込みのあることを示すもので、競売への参加を希望する者(出願者)が許可権限を有するもの(3条・5条の別、出願者の住所及び競売土地の所在、競売土地の面積等により変わる。)に買受適格証明願を提出した結果、発行される。(愛知県ハンドブック 7)
入札する前の段階で、「この人がこの農地を取得することについて、許可が得られる見込みがある」ことを、許可権者があらかじめ証明するものです。
3条か5条かで審査が変わる
| 目的 | 証明の前提となる許可 | 主な審査内容 |
|---|---|---|
| 農地のまま耕作する | 3条許可 | 取得後に農地の全てを効率的に利用、必要な農作業に常時従事、周辺の農地利用に支障がない等(農地法第3条第2項) |
| 転用する(資材置場、住宅等) | 5条許可(市街化区域は5条届出) | 立地基準(農地区分)と一般基準(資力・信用、事業の確実性等) |
「転用目的で買いたいが、その農地が青地や第1種農地」という場合は、5条許可の見込みがなく、買受適格証明が出ないことになります。農地区分の調べ方は「開発予定の農地が青地か白地か調べる方法」をご覧ください。
農地のまま取得する場合の3条許可の要件は「【企業向け】農地法第3条許可とは?」で解説しています。
競売の流れと買受適格証明(愛知県ハンドブックから)
愛知県ハンドブックには、「競売手続きの流れと買受適格証明」の図解があります。これをもとに、全体の流れを整理します。
| No. | 手続き | ポイント |
|---|---|---|
| ① | 競売申立て | 債権者が申し立てる |
| ② | 競売開始決定 | 執行裁判所が差押えを宣言 |
| ③ | 差押登記 | 債務者の財産処分が禁止される |
| ④ | 執行裁判所から農業委員会に、現況が農地か否かの照会 | 登記官からの地目照会に準じて扱われる |
| ⑤ | 競売公告 | 新聞に掲載。現況が農地の場合、入札時に買受適格証明書が必要 |
| ⑥ | 買受適格証明願 → 買受適格証明書の交付 | 3条・5条の許可権限庁(5条届出の場合は受理の権限庁)が交付 |
| ⑦ | 入札 | ほとんどが期間入札。入札期間は1週間以上1か月以内の範囲で執行裁判所が定める |
| ⑧ | 開札 | 執行官が、買受適格証明書を持つ者の中から最高価買受申出人・次順位買受申出人を決める |
| ⑨ | 農地法3条・5条の許可申請(又は5条届出) | ⑥の権限庁で許可書(受理通知書)が交付される |
| ⑩ | 許可書(受理通知書)を執行裁判所に提出 | |
| ⑪ | 売却許可決定 | 執行裁判所 |
| ⑫ | 代金納付 → 所有権取得 → 登記 | 民事執行法第79条 |
ポイント:許可申請は2回ある
買受適格証明は、あくまで「許可の見込み」の証明です。開札で最高価買受申出人になった後、改めて3条・5条の許可申請(又は届出)を行い、許可書を裁判所に提出して、ようやく売却許可決定・代金納付に進みます。
買受適格証明願の手続き(愛知県の例)
提出先と部数
出願者は、競売にかかる土地の所在する市町村の農業委員会に、買受適格証明願を提出します。提出部数は次のとおりです(愛知県ハンドブック 7)。
| 証明者(許可権者) | 提出部数 |
|---|---|
| 愛知県知事 | 3部(正本1部、副本2部) |
| 農業委員会長 | 2部(正本1部、副本1部) |
3条の許可権者は原則として農業委員会、5条は都道府県知事(指定市町村の長、事務処理特例で権限移譲された市町村の場合はその市町村)です。証明者も許可権者に応じて変わります。
買受適格証明願の記載事項
愛知県ハンドブックの様式では、次の事項を記載します。
- 「下記の土地の競売(公売)に参加したいので買受人として適格であることを証明願います」
- 1 出願者の氏名・住所・職業(法人は名称、所在地、業務内容、代表者)→「別添許可申請書記載のとおり」又は「別添届出書記載のとおり」
- 2 競売(公売)を受けようとする土地の所在・地番・地目・面積、利用状況、通常収穫高、耕作者の氏名(届出の場合は利用状況・通常収穫高を除く)→ 同上
つまり、買受適格証明願には、実際の許可申請書(又は届出書)を添付し、その内容を引用する形になっています。
添付書類
- 競売(公売)参加の目的による農地法第3条第1項又は第5条第1項の許可申請書(第5条第4項の協議による場合はその協議書)、もしくは同法第3条第1項第13号又は第5条第1項第6号の届出書
- 裁判所が競売(公売)を実施する旨の公告をしたことを証する書面(裁判所が掲載する新聞公告の写しでも可)
- 3条許可の参加目的の場合は農地基本台帳
許可申請書に添付する書類(登記事項証明書、事業計画書、資金証明など)も、通常の申請に準じて準備することになります。5条の場合に必要な書類は「【法人向け】農地転用(4条・5条)の必要書類一覧」をご覧ください。
スケジュールに注意
競売の入札期間は、執行裁判所が1週間以上1か月以内の範囲で定めます(愛知県ハンドブック 競売手続きの流れ)。公告を見てから、入札期間の終了までに買受適格証明書を取得しなければなりません。
一方、農地法の許可申請は、農業委員会の総会の開催日に合わせて受付の締切日が決まっていることが多く、書類の準備にも時間がかかります(3条許可について国は、総会日と逆算した提出期限を設定・周知するよう農業委員会に求めています:「農地法第3条第1項の許可事務の迅速化及び簡素化について」令和3年8月10日 3経営第1330号)。
実務上のポイント
- 競売公告を見つけたら、すぐに農業委員会に買受適格証明の受付日程を確認する
- 農地区分・農振の状況を事前に調べ、許可の見込みがあるかを判断する
- 5条(転用目的)の場合は、事業計画・資金計画まで具体的に準備しておく
- 開札後の本申請(許可申請)のスケジュールも見込んでおく
参考:関係する国の通知
愛知県ハンドブックは、この手続きの根拠となる通達として、次のものを挙げています。
- 「民事執行法による農地等の売却の処理方法について」(平成28年3月30日 27経営3195・27農振2146 農林水産省経営局長・農村振興局長)
- 「国税滞納処分による農地等の公売の処理手続について」(昭和58年2月24日 58構改B203 農林水産省構造改善局長)
- 「農地等の競売に伴う競売適格証明の取扱いについて」(昭和46年8月27日 46農開131 愛知県農地部長)
まとめ
- 競売・公売でも、農地の取得には3条・5条の許可(又は5条届出)が必要
- 裁判所は入札者を買受適格証明書を持つ人に限定している
- 買受適格証明書は「許可が得られる見込み」の証明。3条なら耕作要件、5条なら立地基準・一般基準が見られる
- 手続きは、許可申請書(届出書)を添付した買受適格証明願を農業委員会に提出
- 開札後に改めて許可申請し、許可書を裁判所に提出してから代金納付・所有権取得
- 入札期間は短い。公告を見たらすぐに準備を
参考資料
- 農地法(令和7年6月1日施行版)第3条、第5条
- 農地法施行規則(令和7年7月28日施行版)第10条
- 農地法関係事務処理要領の制定について 第1
- 農地法第3条第1項の許可事務の迅速化及び簡素化について(令和3年8月10日 3経営第1330号)
- 愛知県農業水産局農政部農業振興課「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(令和7年3月)7 競売(公売)農地買受適格証明関係、参考資料「競売手続きの流れと買受適格証明」