【企業向け】農地法第3条許可とは?一般法人の農業参入(農地借入)の手続きと要件を行政書士が解説
農地の売買や貸し借りに必要な「農地法第3条の許可」について行政書士が徹底解説。無許可の契約の効力と罰則、一般法人が農地を借りるための第3条第3項の3つの要件、定款と許可申請書(別添)の注意点をまとめました。
- 分野
- 農地転用
- 主な法令
- 農地法
- 公開日
- 2025年5月18日
- 更新日
- 2026年10月28日
目次
「新規事業としてスマート農業(野菜の生産など)を立ち上げたい」
「飲食業を展開しているので、自社農園で食材を内製化したい」
「建設業の閑散期に農業ビジネスへ参入し、社員の雇用を守りたい」
ところが、実際に農地を見つけて地主と交渉を始めた段階で、多くの企業がはじめて気づく現実があります。日本の法律上、一般の株式会社や合同会社が農地を「購入(所有権取得)」することは、原則として認められていないのです。
「では、農業参入は諦めるしかないのか」——そんな必要はありません。農地法には、厳格な審査(農地法第3条許可)をクリアした法人に農地取得を認める制度があるほか、「借りる(リース)」形式であれば一般法人でも合法的に農業参入できる「第3条第3項の特例」という強力な制度も設けられています。
本記事では、企業の農業参入に際して必ず直面する「農地法第3条」の基本ルールから、無許可契約が招く深刻な法的リスク、そして一般法人が農地を借りるための必須要件まで、法的根拠に基づいて体系的に解説します。新規事業を始めるための、実務的な法務ガイドとしてお役立てください。
👉 農地手続きの全体像を把握したい方へ
農地法3条・4条・5条の違いや「農振除外」など、実務上の基本マップを知りたい方は先に以下のまとめ記事をご覧ください。
▶ [農地転用ガイド]
1. 「農地法第3条許可」とは何か——企業が農地を活用するための大原則
企業が農業参入を検討する際、最初に立ちはだかるのが農地法第3条の規制です。この壁の正体と、その背景にある法の趣旨を正確に理解することが、適法な農業参入への第一歩となります。
農地法第3条の真の目的——「耕作しない者への流出」を防ぐ
農地法第3条は、農地を「農地のまま」売買・貸し借りする際のルールを定めた条文です。
よくある誤解として「農地への無断建築(乱開発)を防ぐための規制」と思われがちですが、それは農地法第4条・第5条(転用規制)の役割です。第3条の本質的な目的は異なります。すなわち、「資産保有や投資目的など、耕作する意思のない者に農地が渡り、放置・荒廃してしまうことを防ぐこと」にあります。
日本の農地は、一度荒廃すると元の優良農地に戻すことが極めて困難な、国民共有の有限資源です。農地法はこの認識のもと、農地を「効率的に利用できる者にのみ委ねる」という理念を貫いています。そのため農業委員会による第3条の許可審査では、企業に対して「取得した農地を全て効率的に利用し、農業を継続できるか(全部効率利用要件など)」が厳格に問われます。
⚠️ 知っておくべきこと——無許可契約では「権利そのものが発生しない」
実務上、企業の担当者の中には、次のような疑問を持つ方もいます。「役所の許可申請には時間がかかるので、とりあえず地主と契約だけ先に結んでおいてよいですか?」
結論として、契約を先に結んでも、許可を受けるまでは権利は移りません。契約だけで農地の引渡しや使用を進めることは、避けなければなりません。
農地法第3条第6項は明確に定めています。
「第1項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない」(農地法第3条第6項)
最高裁判所の判例においても、農地法第3条の許可は当事者間の契約の法律上の効力を完成させる「補充行為(認可)」に当たるとされています。厳密な法解釈を申し上げると、無許可で締結した契約が完全に消滅するわけではありません(たとえば相手方に許可申請への協力を求める権利は生じます)。しかし、最も肝心な「自社への所有権移転」「自社への賃借権設定」という効力は、許可がなければ生じないのです。
代金や賃料をいくら支払っても、法律上は「自社の土地」にも「正当に借りている土地」にもなりません。さらに、許可を受けないまま権利の設定や移転を行い、事実上農地を使用し始めた場合は、農地法第3条第1項の違反として、3年以下の拘禁刑(旧:懲役)または300万円以下の罰金という重大な刑事罰の対象になります(農地法第64条第1号)。法人の業務として違反した場合は、法人も300万円以下の罰金の対象になります(同法第67条第2号。法人の罰金が1億円以下になるのは、農地の転用(第4条・第5条)の違反などです)。
企業が農業参入する際は、必ず事前に緻密な計画を立て、正式な許可を得てから取引を完結させる——これが農地法務の大原則です。
2. 一般企業は農地を「買えない」——法人参入を阻む大きな壁
「新規事業として農業を始めるなら、まず自社名義で農地を買おう」——資金力や事業ノウハウをお持ちの企業ほど、そう考えがちです。しかし、ここに農地法の大きな壁が存在します。
農地の所有権取得が認められるのは、原則として「農家」か「農地所有適格法人」のみ
農地法第3条第2項第2号は、農地の所有権を取得できる法人を「農地所有適格法人」に厳格に限定しており、株式会社・合同会社・建設会社など一般の法人が農地を購入することは原則として不許可となっています。
なぜ一般企業は農地を買えないのか。その理由は、農地という国民共有の有限資源の性質にあります。営利を追求する一般企業が農地を所有した場合、農業部門の採算が悪化すれば撤退という判断に至ることもあります。その際、農地が手放されずに放置されれば耕作放棄地となり、転売・資産保有目的での取得に道を開くリスクが生じます。農地法は、「農業を主たる事業として継続的に耕作する法人」にのみ所有を認めることで、こうしたリスクを未然に防いでいるのです。
📌 農地を「所有」して大規模展開したい企業様へ
「リースではなく自社で農地を所有して本格的な農業ビジネスを展開したい」とお考えであれば、一般法人のままでは所有権取得は認められないため、農地法が定める厳格な要件(事業要件・議決権要件・役員要件など)をクリアした「農地所有適格法人」を新設するか、既存会社を適法に再編する必要があります。
ただし、ここで重要な実務上の制約があります。「一般企業が100%子会社として農地所有適格法人を設立することは、現行法上できません」(農地法第2条第3項第2号により、原則として農業関係者が議決権の過半数を保有することが要件となっているためです。農業経営発展計画の認定を受けた場合の特例でも、農業関係者が議決権の3分の1を超えて持つ必要があります。農業経営基盤強化促進法第16条の5)。
農地所有適格法人の設立要件については、以下の記事で詳しく解説しています(取引先の企業から出資を受ける場合の議決権要件の特例は「農地所有適格法人の議決権特例(農業経営発展計画の認定)」で解説しています)。
▶ 【別記事リンク】農地所有適格法人とは?設立の4要件と農地取得のステップ
3. 【解決策】一般企業でも農業参入できる——「第3条第3項の特例(農地借入)」
「買えないなら参入できない」と諦める必要はありません。農地法は、企業の農業参入に完全に門戸を閉ざしているわけではないからです。
「買う」は難しくても「借りる」なら一般法人も参入可能
平成21年(2009年)の農地法改正により、一定の要件を満たせば一般の法人でも農地を「借りる(賃貸借・使用貸借)」ことが可能となりました。これが「農地法第3条第3項の特例」です。
農地法は所有権取得については農地所有適格法人に限定していますが(法第3条第2項第2号)、「賃借権等の設定(リース方式)」に限っては、後述する安全装置(特例要件)を設けることを条件として、一般企業にも広く門戸を開いています。
一般法人が農地を借りるための「3つの必須要件」
一般企業がこの特例を活用して農地を借りるには、通常の許可基準に加え、以下の3つの特例要件(農地法第3条第3項各号)をすべて満たさなければなりません。
① 契約解除の特約が明記されていること(第1号要件)
借受後、法人が農地を適正に利用していないと認められる場合に、貸主が賃貸借契約等を解除する旨の条件を「書面による契約」に明記することが必要です。これは、法人が採算を理由に農地を放置・撤退するリスク(耕作放棄地の発生)を防ぐ、農地法上の重要な安全装置です。
② 地域の農業と適切な役割分担ができること(第2号要件)
農業は、地域や集落で一体となって取り組まれていることが多くあります。農業の維持発展に関する話合い活動への参加、農道・水路・ため池などの共同利用施設の取決めの遵守、獣害対策への協力など、その地域の農業ルールに協調し、継続的・安定的に農業経営を行える体制であることが求められます。新規参入企業には、地域の農村社会と良好な関係を築く姿勢が不可欠です。
③ 業務執行役員等の1名以上が「常時従事」すること(第3号要件)
企業の「業務を執行する役員(取締役等)」または「重要な使用人(農場長など農業部門の責任者)」のうち、最低1名以上が、その法人の農業に常時従事する体制を整えることが必要です。これは、法人の責任体制を明確にし、地域との円滑な調整機能を確保するための要件です。
なお、ここでいう「常時従事」の対象には、農作業そのものだけでなく、営農計画の作成・マーケティング・労務管理なども含まれます。
4. 農業参入でつまずきやすい「定款」と「営農計画書」の落とし穴
第3条第3項の特例要件を理解しても、それだけで農業委員会の許可が下りるわけではありません。実務上、多くの企業が最初の段階でつまずくのが「定款」と「営農計画書(事業計画)」の問題です。
定款の事業目的に「農業」の記載はありますか?
法人が農地を借りて農業を営む場合、会社の根本規則である「定款」および「登記事項証明書」の事業目的に、「農業」またはそれに類する目的(農作物の生産・加工・販売など)が記載されている必要があります。
農地法第3条の許可申請において、法人が権利を取得する場合は「定款又は寄附行為の写し」の添付が法令で義務付けられており(農地法施行規則第10条第2項第2号)、農業委員会はその記載内容から「この法人が農業を事業として行う権能を有しているか」を審査します。
定款に農業に関する記載がない場合は、株主総会を開催して定款変更を行い、法務局で変更登記を完了させてから許可申請に臨む必要があります。会社法上の手続きと農地法の手続きの両方を見据えて準備を進めることが大切です。
農業委員会の審査をクリアする「営農計画書」の作成
定款の問題をクリアした後に待ち受けるのが、営農の計画を書面にまとめる作業という、さらに高いハードルです。国の様式では許可申請書の「別添」に記載し、農業委員会によっては参考書類として「営農計画書」の提出を求められることもあります。
農地法の審査では、「取得した全ての農地を効率的に利用し、農業を継続できるか」が厳しく問われます。申請書には以下の内容を具体的に記載し、客観的な根拠をもって農業委員会を納得させなければなりません。
「誰が、どうやって、何を育て、どう売るのか」——これらを緻密かつ現実的な事業計画として文書化する必要があります。「具体的なことはこれから考えます」といった曖昧な内容では、農業委員会の許可は下りません。
5. まとめ
- 農地を売買・貸借するには、農業委員会の許可(農地法第3条第1項)が必要です。許可を受けないでした行為は、効力を生じません(同条第6項)
- 許可を受けずに権利の設定や移転を行うと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象になります(同法第64条第1号)
- 農地所有適格法人以外の法人は、農地の所有権を原則として取得できません(同法第3条第2項第2号)。賃貸借・使用貸借であれば、第3条第3項の特例の対象になります
- 特例の要件は、①適正に利用していない場合に契約を解除する旨の条件を書面の契約に付けること、②地域の他の農業者と適切に役割分担して継続的・安定的に農業経営を行うと見込まれること、③業務執行役員等の1人以上が耕作の事業に常時従事することの3つです
- 法人が権利を取得するときは、定款(または寄附行為)の写しを許可申請書に添付します(農地法施行規則第10条第2項第2号)
- 許可申請書の「別添」には、作付の予定、農機具の確保の状況、農作業に従事する者、周辺の農地への影響、地域との役割分担などを具体的に書きます
出典と確認日
次の資料にもとづいて書き、2026年10月28日に資料と照らして内容を確かめました。
- 農地法
- 農地法施行規則
- 農地法関係事務に係る処理基準について別紙1 第3の3・7・8(p.4〜9)
- 農地法関係事務処理要領の制定について別紙1 第1の1(p.1)、第10の1・8(p.42〜43)、様式例第1号の1・第10号の2
- 農業経営基盤強化促進法
制度は改正されることがあります。最新の内容は、各資料の発行元でご確認ください。
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