「取引先の食品メーカーから出資を受けて、設備投資をしたい。でも、農地所有適格法人の議決権要件があるから、出資を受けられる割合に限りがある」

規模拡大を目指す農業法人の経営者の方から、こうしたご相談をいただくことがあります。

農地所有適格法人(株式会社)は、農業関係者が総株主の議決権の過半を占めることが要件です(農地法第2条第3項第2号)。そのため、取引先などから大きな出資を受けにくいという事情がありました。

そこで、令和6年の法改正により、農業経営基盤強化促進法に「農業経営発展計画」の認定制度が設けられました。農林水産大臣の認定を受けた法人は、食品事業者等からの出資について、議決権要件の特例を受けることができます。

この記事では、改正後の農業経営基盤強化促進法(以下「基盤法」)と、農林水産省の説明資料に沿って、次の点を解説します。

  • 特例の内容(議決権の割合)
  • 申請できる法人の要件
  • 認定の要件と手続き
  • 認定後の制約(農地の権利移動・転用、報告義務)

農地所有適格法人の基本的な要件は「【行政書士が解説】農地所有適格法人とは?設立の4要件と農地取得のステップ」で解説しています。

制度の趣旨

基盤法の基本要綱は、この制度(認定経営発展法人制度)の趣旨を次のように説明しています。

認定経営発展法人制度は、将来にわたる国民に対する食料の安定供給の確保に向け、地域の人と農地の受け皿となる農地所有適格法人の経営基盤の強化を促進するため、農地所有適格法人が出資による食品事業者等との連携措置を通じて農業経営を発展させるための計画を農林水産大臣が認定し、認定を受けた農地所有適格法人に対して、農地法第2条第3項第2号に規定する議決権要件の特例措置を講じようとするものです。(農業経営基盤強化促進法の基本要綱 第10の1)

背景には、「農外企業の農業参入については引き続きリース(借入れ)が基本」としつつ、農地所有適格法人の一部に取引企業との連携による経営発展を図るニーズがある、という認識があります(農林水産省「農地法制の見直しの方向性について」令和5年12月14日、3)。

特例の内容─ 議決権要件がどう変わる?

通常の農地所有適格法人認定経営発展法人(特例)
農業関係者の議決権 総株主の議決権の過半総株主の議決権の1/3超
追加の要件―農業関係者+提携事業者の議決権の合計が1/2超

(基盤法第16条の5、農林水産省「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律について」令和6年7月、p.7)

説明資料は、例として次の構成を示しています。

  • 農業関係者:1/3超
  • 食品事業者等:(農業関係者と合わせて1/2超となる範囲で)
  • その他:残り

「農地法制の見直しの方向性について」は、この1/3超を「特別決議の拒否権を持つ1/3超」と説明しています(同 3①カ)。つまり、農業関係者だけで株主総会の特別決議を否決できる水準が確保されます。後述するとおり、農地の権利移転・転用や取締役の選解任は特別決議事項とすることが要件になっているため、農業関係者が拒否権を持つ形で、農地の適正な利用が担保される仕組みです。

拒否権付株式を発行する場合

「農地法制の見直しの方向性について」は、「経営の支配に関わる株式を発行する場合にあっては、そのうち農業者が過半を持たねばならない」としています(同 3①キ)。基盤法第16条の5の読替え規定も、種類株主総会については、その種類の株式の総株主の議決権の過半を農業関係者等が占めることを求める形になっています。

申請できる法人の要件

基盤法第16条の2第1項は、申請できる法人を次のとおり定めています。

チェック:申請できる法人の要件

  • 1. 農地所有適格法人であって、株式会社であること
  • 2. 認定農業者(基盤法第12条第1項の認定)として、5年以上の期間認定を受けている、又は受けていたこと(期間は農林水産省令で5年:基盤法施行規則第15条の8)
  • 3. 市町村の地域計画に、農業を担う者として記載されていること
  • 4. 定款に次の定めがあること
    ・農用地の所有権・使用収益権の設定・移転、農地の転用の決定は、株主総会の決議によらなければならないこと
    ・取締役の選任・解任の決定と、上記の決定についての株主総会の決議は、会社法第309条第2項の決議(特別決議)によらなければならないこと

実績のある認定農業者で、地域計画に担い手として位置付けられた法人に限られます。新設の法人がいきなり利用できる制度ではありません。

出資できる「提携事業者」

特例の対象となる出資者は、法人と物資又は役務の取引を行う相手方です。具体的には、法人がその農業経営に必要な物資の供給や役務の提供を受ける相手、又は法人の農業経営に係る物資の供給や役務の提供を行う相手です(基盤法第16条の2第1項)。認定を受けるには、その取引の相手方が法人の農業経営の健全な発展に資するものとして省令で定める要件に該当することが必要です(同条第3項第2号)。

改正の検討段階の資料では、出資者の要件を「取引実績のある食品事業者、地銀ファンド」と説明していました(令和6年7月資料 p.7。「詳細は検討中」との注記あり)。また「農地法制の見直しの方向性について」は、「農業者と農業上の取引実績が十分にある食品事業者・地銀ファンドに限定する」としていました。具体的な範囲は省令で定められているため、実際の申請では、基盤法施行規則と国の基準を確認してください。

農業経営発展計画の内容

計画には、次の事項を記載します(基盤法第16条の2第2項)。

No. 記載事項
1売上高の増加、収益性の向上等の農業経営の発展に関する目標
2取引の相手方(提携事業者)の事業内容その他の事項
3提携事業者から現に受けている出資の額・受けようとする出資の額
4取引の推進その他、目標を達成するためにとるべき措置
5法人が所有・利用している農用地、それについて権利を設定・移転しようとする場合、転用しようとする場合の内容
6法人がこれから権利を取得しようとする農用地、転用のために取得しようとする農用地の内容
7その他省令で定める事項(計画期間、株主の議決権、農作業への従事状況など)

基本要綱は、5・6の権利取得・転用の予定について、認定を受けた後遅滞なく権利を取得し又は転用する予定のもののみを記載することとしています(基本要綱 第10の2)。

申請書の添付書類(基盤法施行規則第15条の7)

  • 定款の写し、株主名簿の写し
  • 認定農業者の認定を受けている(いた)期間を記した書類
  • 法人が担い手として記載されている地域計画の写し
  • 取引の相手方が法人の場合、その株主名簿の写し又は主要株主等(議決権5%以上)の情報
  • 計画に転用を記載する場合は、位置図・登記事項証明書、施設の配置図、資力・信用を証する書面、土地改良区の意見書など
  • 計画に農地の権利取得を記載する場合は、登記事項証明書など

認定の要件と手続き

農林水産大臣が認定する

申請先は農林水産大臣です(基盤法第16条の2第1項)。大臣は、次の要件に該当すると認めるときに認定します(同条第3項)。

  • – 法人が担い手として記載されている地域計画の達成に資すること
  • – 取引の相手方が、法人の農業経営の健全な発展に資する者として省令で定める要件に該当すること
  • – 出資・取引などの措置が、目標の達成のために適切であること
  • – 措置が継続的に講じられると見込まれることなど、省令の基準に適合すること
  • – 法人が、耕作に供すべき農用地の全てを適正に利用していること、権利移転・転用が計画の達成に支障を及ぼすおそれがないこと
  • – その他、大臣が定める基準に適合すること

農業委員会・都道府県知事等の同意

計画に農地の権利取得(3条許可が必要なもの)が含まれる場合、大臣はあらかじめ農業委員会に協議し、同意を得なければなりません(基盤法第16条の2第4項)。農業委員会は、農地法第3条第2項の不許可事由に当たらないと認めるときに同意します(同条第5項)。

計画に転用(4条・5条許可が必要なもの)が含まれる場合は、あらかじめ都道府県知事等に協議し、同意を得る必要があります。知事等は、同意しようとするときは農業委員会の意見を聴かなければなりません(同条第6項)。知事等は、農地法の4条・5条の不許可事由に当たらないと認めるときに同意します(同条第8項)。

認定されると3条・4条・5条の許可があったとみなされる

同意を得た部分について、認定された計画に従って権利を取得・転用する場合は、農地法第3条・第4条・第5条の許可があったものとみなされます(基盤法第16条の4)。

認定後の制約─ 「国が都度確認」する仕組み

計画外の権利移動・転用は認定取消しの対象

説明資料は、認定後の監督措置として、「認定後の農地の権利移転・転用には計画の変更を要し、国が、都道府県等にも協議した上で都度認定」としています(令和6年7月資料 p.7)。

基盤法第16条の3第3項は、次の場合に大臣が認定を取り消すことができるとしています。

  • – 農地所有適格法人でなくなったとき
  • – 認定農業者・地域計画・定款の要件に該当しなくなったとき
  • – 耕作に供すべき農用地の全てを適正に利用していないとき
  • – 変更の認定を受けないで、農用地の権利を設定・移転し、農地を転用し、又は農用地の権利を取得したとき
  • – 偽りその他不正の手段で認定を受けたとき
  • – 報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき
  • – 勧告に従わなかったとき

計画を変更する場合は、原則として大臣の変更の認定が必要です。軽微な変更は届出で足ります(基盤法第16条の3第1項・第2項)。

毎年の報告義務

認定経営発展法人は、毎年、取引の推進等の措置の実施状況などを農林水産大臣に報告しなければなりません(基盤法第16条の6第1項)。大臣は、必要に応じて報告を求め、措置が講じられていない場合などには勧告することができます(同条第2項・第3項)。

通常の農地所有適格法人としての農業委員会への毎年の報告(農地法第6条)も、引き続き必要です(「農地所有適格法人の毎年の報告義務と、要件を満たさなくなったときのリスク」参照)。

懸念への対応措置

「農地法制の見直しの方向性について」は、農外企業の関与増加への懸念に対応するため、次のような措置も掲げていました。

  • 特例の認定後も地域と連携して国が監視し、必要に応じ指導・農地買収
  • 出資する食品事業者の株主構成の変更を把握し、事業変更等があれば再審査
  • 出資者の株主構成の変動に備えた議決権を回復する手法の周知
  • 外為法に基づく事前審査による外資の出資把握、事後モニタリング

まとめ

  • 令和6年改正で、農業経営発展計画の大臣認定を受けた農地所有適格法人は、農業関係者1/3超+(農業関係者+提携事業者)1/2超で議決権要件を満たせる
  • 申請できるのは、株式会社で、認定農業者5年以上、地域計画に担い手として記載、定款で農地の権利移転・転用・取締役選解任を特別決議事項としている法人
  • 認定は農林水産大臣。権利取得・転用を含む場合は農業委員会・都道府県知事等の同意が必要で、認定により3条・4条・5条の許可があったものとみなされる
  • 認定後は、計画外の権利移動・転用は認定取消しの対象。毎年の大臣への報告も必要

食品事業者等との資本提携は、農業法人の成長の大きなチャンスである一方、定款の設計、株主構成、農地の権利関係、地域計画との整合性など、事前に整理すべき論点が多くあります。当事務所では、農地法・基盤法の観点から、計画づくりと必要書類の整理をサポートします。

「取引先から出資を受けたい」まずはご相談ください。


参考資料
– 農業経営基盤強化促進法(令和7年4月1日施行版)第16条の2〜第16条の7
– 農業経営基盤強化促進法施行規則(令和7年4月1日施行版)第15条の7〜第15条の9
– 農業経営基盤強化促進法の基本要綱 第10
– 農地法(令和7年6月1日施行版)第2条第3項、第6条
– 農林水産省経営局・農村振興局「農地法制の見直しの方向性について」(令和5年12月14日)
– 農林水産省経営局・農村振興局「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和6年7月)