「うちの田んぼの隣が何年も荒れたまま。借りて耕作したいけど、登記名義人は何十年も前に亡くなっていて、相続人がどこにいるのか分からない」
「規模を拡大したいので、地域の遊休農地をまとめて借りたい。でも所有者不明の土地が点在していて話が進まない」
担い手農家や農業法人の方から、このようなご相談をいただくことがあります。
農地を借りるには、通常は所有者と契約を結び、農業委員会の許可を受けます(農地法第3条)。ところが、相続登記がされておらず所有者(相続人)が分からない農地では、契約の相手方がいません。そのままでは借りることができません。
こうした農地を地域で活用するために、農地法と農地中間管理事業法(以下「機構法」)には、「公示」と「都道府県知事の裁定」によって農地バンク(農地中間管理機構)が利用権を取得し、担い手に貸し出す仕組みが用意されています。
この記事では、次の点を解説します。
- 所有者不明農地の「公示」と「裁定」の流れ
- 共有農地で一部の所有者が分からない場合の扱い
- 借りたい側(近隣農家・法人)ができること
そもそも「所有者が分からない」とは?─ 探索の方法が決まっている
「分からない」と言えるためには、法令で定められた方法で探索したうえで、それでも判明しないことが必要です(農地法第32条第3項「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行つてもなお」)。
運用通知(「農地法の運用について」第3の3(2)ア)は、農業委員会が行う探索の方法を具体的に定めています。
- 登記所で登記事項証明書を取り、登記名義人の氏名・住所を確認
- その農地を現に占有している人、農地台帳から情報を持っていそうな人、分かっている他の所有者から聞き取り
- 登記名義人等の住所地の市町村で住民票(除票)を請求
- 死亡が判明したら戸籍謄本等を請求し、配偶者と子を確認。さらに戸籍の附票で住所を確認
- 法人なら法人の登記事項証明書で所在地や清算人を確認
- 判明した所有者と思われる人に簡易書留で書面を送付(同一市町村内なら訪問でも可)
- 送付後2週間経っても返信がなければ、不明者として扱う(それ以上の聞き取りや現地調査は不要)
なお、相続人の探索は配偶者と子までが対象とされており(運用通知 第3の3(2)ア(エ))、兄弟姉妹やおい・めいまで無制限に追いかけるものではありません。
「所有者」には相続で共有となった場合も含まれ、その場合は2分の1を超える持分を有する者が分からないかどうかで判断されます(運用通知 第3の3(2)ア)。
所有者不明の遊休農地─ 「公示」から「裁定」までの流れ
① 利用状況調査で遊休農地と判定
出発点は、農業委員会が毎年行う利用状況調査です(農地法第30条)。遊休農地と判定された農地は、通常なら所有者に利用意向調査が行われます(農地法第32条第1項)。
② 所有者が分からなければ「公示」
探索をしても所有者等(共有の場合は過半の持分を有する者)が分からない場合、農業委員会は次の事項を公示します(農地法第32条第3項)。
- その農地の所有者等を確知できない旨
- 農地の所在・地番・地目・面積、遊休農地のどの区分に当たるか
- 所有者等は、公示の日から2か月以内に、権原を証する書面を添えて農業委員会に申し出るべき旨
公示期間中に所有者等が申し出れば、その人に利用意向調査が行われます(農地法第32条第4項)。
③ 申出がなければ農地バンクへ通知
2か月以内に申出がないときは、農業委員会がその旨を農地中間管理機構(農地バンク)に通知します(農地法第41条第1項)。共有の農地で、申出の結果、判明している所有者の持分が2分の1を超えない場合も同じです。
④ 農地バンクが知事に裁定を申請
通知を受けた農地バンクは、通知の日から4か月以内に、都道府県知事に対してその農地を利用する権利(利用権)の設定に関する裁定を申請できます(農地法第41条第1項)。
⑤ 知事の裁定・公告で農地バンクが利用権を取得
知事は、所有者等で知れている人がいればその人にも通知し、2週間以上の期間を定めて意見書を出す機会を与えます(農地法第41条第2項で準用する第38条)。そのうえで裁定を行います。
裁定では、利用権の内容、始期、存続期間(上限40年)、借賃に相当する補償金の額などが定められます(農地法第41条第2項で準用する第39条)。裁定が公告されると、農地バンクが利用権を取得します(農地法第41条第4項)。
補償金は、所有者が分からないため農地バンクが供託する仕組みになっています(農地法第41条第5項)。
⑥ 農地バンクから担い手へ貸付け
農地バンクは取得した利用権に基づき、その農地を担い手に貸し付けます。借りたい側は、最終的に農地バンクから借りることになります。
| 段階 | 主体 | 期間 |
|---|---|---|
| 公示 | 農業委員会 | 所有者の申出期間:公示から2か月 |
| 農地バンクへの通知 | 農業委員会 | 申出がなかったとき |
| 裁定申請 | 農地バンク → 知事 | 通知から4か月以内 |
| 意見書提出の機会 | 知事 | 2週間以上 |
| 裁定・公告 | 知事 | 利用権の存続期間は40年以内 |
耕作者がいなくなる農地─ 亡くなった・遠方に転居した場合
遊休農地になる前でも、農地法第33条は、耕作者が不在になる(なることが確実な)農地について利用意向調査を行うとしています。農地法施行規則第78条は、次のような農地を挙げています。
- 所有者等で耕作していた人が死亡したもの
- 所有者等で耕作していた人が遠隔地に転居したもの
- 耕作していた人から、耕作の継続が困難で公示が必要である旨の申出があったもの
- 農地バンクの農地中間管理権などの残存期間が1年以下で、所有者を確知できないもの など
こうした農地でも所有者が分からなければ、同じように公示 → 農地バンクへの通知 → 裁定の流れに乗ります(農地法第33条第2項で準用する第32条第3項)。耕作していた高齢の所有者が亡くなり、相続人が分からない農地が、このルートの典型例です。
共有農地で「一部の人」が分からない場合─ 過半の同意ルール
所有者不明というより、「相続で共有になっていて、一部の相続人の居場所が分からない」というケースも多くあります。
利用意向調査は「分かっている人」の持分が過半なら実施
共有の農地で一部の所有者が分からない場合、農業委員会は、分かっている所有者の持分が2分の1を超えるときに限り、その人たちに利用意向調査を行います(農地法第32条第2項)。
農地バンクへの貸付けは「過半の同意」で可能
機構法でも、共有農地の扱いが整理されています。農地バンクを通じて賃借権・使用貸借権などを設定する農用地利用集積等促進計画では、存続期間が40年を超えないものであれば、所有者の同意は2分の1を超える共有持分を有する者の同意で足りるとされています(機構法第18条第5項第4号ただし書)。
さらに、農地バンクが促進計画を作る際に、2分の1以上の共有持分を有する者が分からない土地がある場合は、農業委員会に不確知共有者の探索を要請できる仕組みもあります(機構法第22条の2)。
ポイント
共有者全員の同意がそろわなくても、過半の持分を持つ相続人が「貸したい」と同意すれば、農地バンク経由で貸し出せる可能性があります。「一部の相続人と連絡が取れないから無理」と諦める前に、農地バンクや農業委員会に相談してみましょう。
借りたい側(近隣農家・担い手法人)ができること
- 農業委員会に申し出る:農地の周辺で農業を営み、その農地によって自分の営農条件に著しい支障が生じている(生じるおそれがある)人は、農業委員会に適切な措置を講じるよう申し出ることができます(農地法第31条第1項第2号)。支障の例としては、病害虫の発生、土石の堆積、鳥獣・草木の生息・生育などが挙げられています(運用通知 第3の2(1))。
- 地域計画に位置付けてもらう:市町村の地域計画(目標地図)で、その農地の受け手として位置付けられていると、農地バンクによる手続きが進めやすくなります。令和6年の法改正で、地域計画区域内の遊休農地については、農地バンクによる裁定申請が迅速化・義務化されました(農林水産省「食料の安定供給のための…改正する法律について」令和6年7月、p.9)。
- 農地バンクに借受けを希望しておく:裁定を経て利用権を得た農地バンクは、担い手に貸し付けます。日頃から農地バンクに借受けの意向を伝えておきましょう。
農地バンクから借りる手続きの全体像は、「農地バンク(農地中間管理機構)で農地を貸す・借りる手続き」で解説しています。
注意:個人間で勝手に耕作を始めるのはNG
「所有者が分からないし、荒れているから、とりあえず耕しておこう」と、無断で耕作を始めるのは避けてください。
農地の賃借権や使用貸借による権利を設定するには、3条許可や農用地利用集積等促進計画などの正規の手続きが必要です(農地法第3条第1項)。無断で使い始めても権利は得られませんし、後で所有者(相続人)が現れたときにトラブルになります。正規のルートで利用権を設定することが、結局は一番の近道です。
まとめ
- 所有者が分からない遊休農地は、農業委員会の探索 → 公示(2か月)→ 農地バンクへの通知 → 知事の裁定を経て、農地バンクが利用権(最長40年)を取得できる
- 探索は、登記・住民票・戸籍(配偶者と子まで)・簡易書留での照会など、方法が決まっている
- 耕作者の死亡・転居などで耕作者が不在になる農地も同じ仕組みの対象
- 共有農地は、過半の持分を持つ人の同意で農地バンク経由の貸付けが可能
- 借りたい側は、農業委員会への申出、地域計画への位置付け、農地バンクへの借受け希望で後押しできる
所有者不明農地の活用は、農業委員会・農地バンク・市町村が関わる長期戦になりがちです。当事務所では、農地の権利関係の調査や、関係機関への相談の段取りなどをサポートしています。
「隣の荒れた農地、どうにかできない?」まずはご相談ください。
参考資料
- 農地法(令和7年6月1日施行版)第3条、第30条〜第33条、第38条〜第41条
- 農地法施行規則(令和7年7月28日施行版)第78条
- 「農地法の運用について」の制定について 第3の2・3
- 農地中間管理事業の推進に関する法律(令和7年4月1日施行版)第18条、第22条の2
- 農林水産省経営局・農村振興局「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和6年7月)