「父が生前に農地を買っていて、農地法の許可も取っていたらしい。でも所有権移転登記がされておらず、許可書も見つからない」
「何十年も前に5条許可を受けて家を建てたが、登記の手続きに許可書が必要と言われた」

相続の整理や、古い取引の登記を進める場面で、こうしたご相談をいただきます。

農地の売買などは、農地法の許可がなければ所有権移転の効力が生じず、登記もできません。そのため登記には、許可があったことを示す書面が必要になります。許可書をなくしてしまった場合に使うのが、許可権者が発行する「許可(受理)された旨の証明」です。

この記事では、愛知県の「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(以下「愛知県ハンドブック」)に掲載された「不動産登記申請書に添付する許可書等の取扱いについて」(昭和55年12月2日 55農管360 愛知県農地林務部長)に沿って、次の点を解説します。

  • 許可証明の仕組み
  • 証明を出す機関と、証明できる期間
  • 請求できる人と、証明願の書き方

※取扱いは都道府県・市町村によって異なることがあります。実際には、許可を受けた土地のある農業委員会に確認してください。


なぜ登記に「許可があったことを示す書面」が必要なのか

愛知県ハンドブックは、3条許可の性質を次のように説明しています。

農地を買ったり、借りたりする場合には、売り手や貸し手と売買契約や賃貸借契約を結ぶだけでは足りず、農地法3条1項に基づいて農業委員会(又は知事)の許可を受ける必要がある。許可を受けないと農地の所有権や賃借権を取得することができない。したがって、所有権を取得する場合であれば法務局に対して所有権移転登記を申請することもできない。(愛知県ハンドブック「用語等の解説・判例」2(1))

このように、農地法の許可は当事者間の契約の効力を完成させる「補充行為」です(最判昭和38年11月12日)。許可が効力発生要件になっています。

そのため、農地の所有権移転登記を申請する際には、許可があったことを示す書面を添付する必要があります。通常は許可書(指令書)を使いますが、紛失している場合は、許可権者による許可証明で代えることになります。


証明を出す機関─ 許可を出したところ

愛知県ハンドブックでは、証明者を次のとおり整理しています(8 農地法許可(受理)証明関係 1)。

証明者対象
農業委員会長農地法第3条の許可、第4条第1項第7号の届出、第5条第1項第6号の届出(市街化区域の転用届出)など、農地法の規定や県の事務処理特例条例により市町村・農業委員会が処理することとされている事務
県知事農地法第4条・第5条の許可など、知事が処理することとされている事務で、事務処理特例条例による市町村への委任がされていないもの

許可(受理)をした機関が証明するのが原則です。愛知県では、事務処理特例条例により知事の権限が移譲されている市町村もあるため、どの機関が許可したか(許可書の写しや控えがあれば許可番号・許可者を確認)をまず把握することが大切です。


証明できる期間─ 申請書が保存されている間

原則として、1の証明者が証明願の内容に関する申請書を保存している期間。
注)知事が証明するものについては、農地法第3条は10年、農地法第4条・第5条は5年。なお、この期間以前のものについても証明できる場合がある。(愛知県ハンドブック 8の2)

許可証明は、行政側に申請書が保存されていることが前提です。知事が証明するものの場合、保存期間の目安は3条が10年、4条・5条が5年です。それ以前のものでも証明できる場合があるとされていますが、古い許可ほど証明が難しくなる可能性があります。

実務上のポイント
許可を受けたのに登記をしていない案件は、できるだけ早く登記を済ませることが大切です。時間が経つほど、許可書の紛失、当事者の死亡、行政側の記録の保存期間の経過などで、手続きが難しくなります。


請求できる人─ 許可を受けた人又はその一般承継人

許可処分を受けた者又はその一般承継人に限る。なお、許可処分を受けた者の相続人等の一般承継人の場合は、その一部の者からの願出でもよい。また、願出手続を代理人に委託する場合は、願出書に代理人の住所氏名を併記することとし、併せて委任状を添付すること。(愛知県ハンドブック 8の3)

チェック:請求できる人
– 許可処分を受けた者(許可申請の当事者)
– その一般承継人(相続人、合併後の法人など)。相続人の一部の者からでも願出できる
– 代理人(行政書士等)に依頼する場合は、願出書に代理人の住所氏名を併記し、委任状を添付

冒頭のケースのように、許可を受けた父が亡くなっている場合は、相続人の一人から願い出ることができます。相続人であることは、戸籍謄本などで示すことになります。



よくあるケースと注意点

許可は受けたが、登記前に売主が亡くなった

許可によって権利移転の効力は完成しています。登記の手続きに必要な書類(売主側の相続人の協力など)は、登記の専門家(司法書士)にご相談ください。許可証明の請求自体は、許可を受けた当事者又はその一般承継人が行えます。

そもそも許可を受けたかどうか分からない

許可証明は、実際に許可があったことを証明するものです。記録が見つからず、許可がなかったことが分かった場合は、改めて許可を受ける必要があります。すでに農地以外の用途になっている場合は、無断転用の問題として整理が必要になることもあります(「無断転用が見つかったら?追認許可・原状回復命令の流れ」参照)。

許可書を紛失したまま取消しを願い出たい

許可を取り消したい場合(計画中止など)で、全部取消しのときは、許可書を紛失した旨を書面で明らかにすれば、許可書の添付を省略できる取扱いがあります(愛知県ハンドブック 9。「農地転用・3条許可を取り消したいときの「取消し願い」」参照)。


まとめ

  • – 農地の権利移転は許可が効力発生要件。登記には許可があったことを示す書面が必要
  • – 許可書を紛失したら、許可権者に「許可(受理)された旨の証明」を願い出る
  • – 証明者は、3条許可・転用届出は農業委員会長、4条・5条許可は知事(権限移譲の有無で異なる)
  • – 証明できるのは原則として申請書の保存期間中(知事証明の目安:3条10年、4条・5条5年)
  • – 請求できるのは許可を受けた者又はその一般承継人(相続人の一部からでも可)
  • – 許可から時間が経つほど証明は難しくなる。許可を受けたら早めに登記を

古い農地取引の整理は、許可の有無の確認、行政記録の調査、相続関係の整理が絡み合う作業です。当事務所では、許可証明の願出の代理や、許可がなかった場合の対応策の検討をサポートします。なお、登記手続き自体は司法書士の業務となります。

「昔の農地の許可、どうなっているか分からない」まずはご相談ください。


参考資料
– 農地法(令和7年6月1日施行版)第3条、第4条、第5条
– 愛知県農業水産局農政部農業振興課「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(令和7年3月)8 農地法許可(受理)証明関係、9 農地法許可(受理)の願いによる取消関係、用語等の解説・判例