「遺言書で、長年手伝ってくれた甥に畑を遺したい。農業委員会の許可は要るの?」
「兄弟で遺産分割協議をして、田んぼを私が単独で相続することになった。これって許可が必要?」
「離婚にあたって、夫名義の農地を財産分与で受け取ることになった。登記できる?」

農地は、売買や贈与で所有者を変えるときに農業委員会の許可(農地法第3条第1項)が必要です。では、遺言・遺産分割・離婚の財産分与といった家族・相続がらみの場面ではどうでしょうか。

結論からいうと、「誰に」「どのような方法で」移るかによって、許可が要る場合と要らない場合に分かれます。ここを間違えると、所有権移転登記ができない、遺言どおりに農地が渡らない、といったトラブルにつながります。

この記事では、条文(農地法第3条第1項各号、農地法施行規則第15条)に沿って、次の3点を整理します。

  • 許可が必要なケース・不要なケースの見分け方
  • 許可が不要でも「届出」が必要なケース
  • 許可が必要な場合の申請方法(単独申請)

そもそも農地の権利移動には「3条許可」が原則必要

農地法第3条第1項は、農地について所有権を移転したり、賃借権などの権利を設定・移転したりする場合、当事者が農業委員会の許可を受けなければならないと定めています。

この許可は、当事者間の契約の効力を完成させる「補充行為」です。許可がなければ所有権移転の効力が生じません。愛知県の「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(以下「愛知県ハンドブック」)の参考資料でも、次のように説明されています。

許可を受けないと農地の所有権や賃借権を取得することができない。したがって、所有権を取得する場合であれば法務局に対して所有権移転登記を申請することもできない。(愛知県ハンドブック「用語等の解説・判例」2(1))

一方で、農地法第3条第1項ただし書と各号は、許可が不要となる例外を列挙しています。遺言や相続の場面で問題になるのは、主に次の2つです。

  • 農地法第3条第1項第12号(遺産分割、財産分与の裁判・調停、相続財産の分与の裁判)
  • 農地法第3条第1項第16号 → 農地法施行規則第15条第5号(包括遺贈、相続人に対する特定遺贈)

ケース別早見表─ 許可が要る?要らない?

取得の原因3条許可3条の3の届出根拠
相続(法定相続)不要必要3条は相続を対象としない/処理基準 第5(1)
遺産分割(協議・調停・審判)不要必要農地法3条1項12号
包括遺贈不要必要農地法施行規則15条5号
相続人に対する特定遺贈不要必要農地法施行規則15条5号
相続人以外に対する特定遺贈必要―施行規則15条5号の対象外
死因贈与・生前贈与必要―例外規定に該当しない
財産分与(裁判・調停による)不要必要農地法3条1項12号
相続財産の分与(特別縁故者、裁判による)不要必要農地法3条1項12号

以下、ポイントになる部分を順に解説します。


遺産分割は許可不要─ ただし届出は必要

条文の確認

農地法第3条第1項第12号は、次の場合を許可不要としています。

遺産の分割、民法第768条第2項(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与に関する裁判若しくは調停又は同法第958条の2の規定による相続財産の分与に関する裁判によつてこれらの権利が設定され、又は移転される場合(農地法第3条第1項第12号)

「遺産の分割」には、協議・調停・審判の区別が書かれていません。そのため、相続人同士の協議による遺産分割でも許可は不要です。

それでも「届出」は必要

許可が不要でも、それで手続きが終わるわけではありません。農地法第3条の3は、3条許可を受けずに農地の権利を取得した人に農業委員会への届出を義務付けています。ここで重要なのは、許可の例外のうち第12号と第16号は、届出義務の対象から外されていないという点です(農地法第3条の3の「同項各号(第十二号及び第十六号を除く。)」という括弧書き)。

つまり、遺産分割で農地を取得した人は、3条の3の届出が必要です。期限の目安は権利取得を知ってからおおむね10か月以内(処理基準 第5(2))、怠ると10万円以下の過料(農地法第69条)です。

相続の届出の詳細は「相続した農地の届出(農地法3条の3)の期限と書き方」で解説しています。


遺贈は「包括」か「特定」か、「相続人」か「相続人以外」かで分かれる

遺言によって財産を譲ることを「遺贈」といいます。農地の遺贈で許可が要るかどうかは、遺贈の種類と、受け取る人(受遺者)が相続人かどうかの組み合わせで決まります。

許可不要となる遺贈(農地法施行規則第15条第5号)

農地法施行規則第15条は、農地法第3条第1項第16号を受けて許可不要のケースを定めています。その第5号は次のとおりです。

包括遺贈又は相続人に対する特定遺贈により法第3条第1項の権利が取得される場合(農地法施行規則第15条第5号)

言葉の意味を補足しておきます。

用語の補足

  • 包括遺贈:「財産の3分の1を〇〇に遺贈する」のように、財産の全部または一定割合を譲るもの
  • 特定遺贈:「〇〇町〇番の畑を〇〇に遺贈する」のように、特定の財産を指定して譲るもの

したがって、次の遺贈は3条許可が不要です。ただし、いずれも3条の3の届出は必要です(処理基準 第5(1)が、届出対象の相続に「包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈」を含めています)。

  • 包括遺贈(受遺者が相続人かどうかを問わない)
  • 相続人に対する特定遺贈

許可が必要となる遺贈─ 「相続人以外への特定遺贈」

一方、相続人ではない人に、特定の農地を遺贈する場合は、施行規則第15条第5号のどちらにも当たりません。この場合は3条許可が必要です。

冒頭の「甥に畑を遺したい」というケースで、甥が法定相続人でなければ、これに当たります。許可が得られなければ、遺言があっても所有権移転の効力が生じません。

実務上の注意点
相続人以外への特定遺贈は、許可の審査で受遺者が農地法第3条第2項の要件を満たすかが問われます。要件は、取得後に農地の全部を効率的に利用して耕作すること、必要な農作業に常時従事することなどです(農地法第3条第2項)。受遺者が農業をしない方の場合は、許可が下りない可能性があります。遺言を作る段階で、受遺者の状況も踏まえて遺贈の方法を検討しておくことが大切です。


許可が必要な遺贈は「単独申請」ができる

3条許可の申請は、原則として譲渡人と譲受人の双方が連署して行います(農地法施行規則第10条第1項本文)。

ところが遺贈の場合、譲り渡す側(遺言者)はすでに亡くなっています。そのため施行規則は、遺贈その他の単独行為による場合は、連署でなくてもよいとしています。

その申請に係る権利の設定又は移転が強制競売、担保権の実行としての競売若しくは公売又は遺贈その他の単独行為による場合(農地法施行規則第10条第1項第1号)

では、誰が申請書に記載するのでしょうか。国の事務処理要領は、単独行為の場合について次のように定めています。

遺贈その他の単独行為によって農地等の権利が設定され又は移転される場合には、その単独行為をする者(例えば、遺贈の場合には、遺言者又はその相続人若しくは遺言執行者)(農地法関係事務処理要領 第1の1・要旨)

遺言執行者が選任されていれば遺言執行者が、いなければ遺言者の相続人が、単独行為をする者の立場で手続きに関わることになります。

添付書類

愛知県ハンドブックでは、4条・5条許可申請書の「申請者」欄の記載要領の中で、単独申請の場合の添付書類として次のものを挙げています(愛知県ハンドブック 1 農地法第4・5条関係)。

単独申請できることを証する書面(調停調書の写し、判決書謄本及び判決確定証明書、期日入札調書謄本、契約書(遺贈の場合。原本還付請求に応じる。))

3条許可でも、遺言書など単独申請の根拠となる書面の提出を求められるのが一般的です。具体的な添付書類は、農地のある市町村の農業委員会に事前に確認してください。


離婚の財産分与─ 「裁判・調停」によるものかが分かれ目

離婚の際の財産分与(民法第768条)で農地を取得する場合も、条文の書き方に注意が必要です。

農地法第3条第1項第12号が許可不要としているのは、「財産の分与に関する裁判若しくは調停」によって権利が移転される場合です。

条文上、ここに挙げられているのは家庭裁判所の審判・調停など、裁判手続による財産分与です。当事者同士の話し合い(協議離婚に伴う協議)による財産分与は、この号には書かれていません。協議による財産分与で農地を移す場合は、3条許可の要否について、事前に農業委員会へ確認することをおすすめします。

裁判・調停による財産分与で農地を取得した場合は、許可は不要ですが、遺産分割と同じく3条の3の届出が必要です(第12号は届出義務の対象から外されていないため)。


生前贈与・死因贈与は許可が必要

「元気なうちに子どもに農地を譲っておきたい」という生前贈与は、通常の権利移動です。3条許可が必要です。

「自分が死んだら農地を譲る」という死因贈与(贈与者の死亡で効力が生じる贈与契約)も、遺贈とは違って契約です。施行規則第15条第5号の「遺贈」には含まれていないため、許可の例外には当たりません。

同じく「死亡時に農地を渡す」目的でも、遺言(遺贈)か契約(死因贈与)かで結論が変わる点に注意してください。


転用目的なら「5条許可」の問題になる

ここまでの話は、農地を農地のまま取得する場合(3条)の話です。

相続や遺贈で取得した農地に家を建てる、駐車場にするなど、農地以外に転用する場合は、取得した後に改めて農地法第4条の許可(市街化区域は届出)が必要になります。また、転用を目的として農地を取得する場合は、農地法第5条の許可の問題になります。


まとめ─ 遺言書を作る前に「許可が要るか」を確認

  • 相続・遺産分割:3条許可は不要。ただし3条の3の届出が必要
  • 包括遺贈・相続人への特定遺贈:許可不要(施行規則15条5号)。届出は必要
  • 相続人以外への特定遺贈:3条許可が必要。受遺者が農地法3条2項の要件を満たさないと許可されないおそれがある
  • 許可が必要な遺贈は、遺言者の相続人や遺言執行者による単独申請ができる(施行規則10条1項1号)
  • 財産分与:許可不要とされているのは裁判・調停によるもの(農地法3条1項12号)
  • 生前贈与・死因贈与:3条許可が必要

特に、相続人以外の方に農地を遺したい場合は、遺言書の書き方次第で手続きの難しさが大きく変わります。遺言を作る段階から、許可の見通しを踏まえて検討しておくことをおすすめします。

「この遺言・この分け方で、農地の手続きはどうなる?」まずはご相談ください。

三澤行政書士事務所では、3条許可申請や3条の3の届出の書類作成・提出を承っています。遺言や相続の内容に応じて、農地法上必要な手続きを整理してご案内します。


参考資料

  • 農地法(令和7年6月1日施行版)第3条第1項・第2項、第3条の3、第69条
  • 農地法施行規則(令和7年7月28日施行版)第10条第1項、第15条、第18条
  • 農地法関係事務に係る処理基準について 第5
  • 農地法関係事務処理要領の制定について 第1
  • 愛知県農業水産局農政部農業振興課「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(令和7年3月)1 農地法第4・5条関係、用語等の解説・判例