「開発候補地の農地が、今誰に貸されているのか、遊休農地なのかを事前に知りたい」
「農地を貸すことになった。賃料の相場はどうやって調べればいい?」

用地を探している事業者の方や、農地の貸し借りを考えている方から、こうしたご相談をいただきます。

農業委員会は、一筆ごとの農地の情報を記録した農地台帳と、農地に関する地図を作成し、インターネットなどで公表することが法律で義務付けられています(農地法第52条の2・第52条の3)。また、地域の賃料の目安になる賃借料情報も提供しています(農地法第52条)。

ただし、公表される情報には範囲の制限があり、「何でも分かる」わけではありません。この記事では、次の点を解説します。

  • 農地台帳に記録される事項
  • 公表される範囲・されない範囲
  • 賃借料情報の見方
  • 調査で使うときの注意点

農地が青地か白地か(農振の区分)の調べ方は、「開発予定の農地が青地か白地か調べる方法」で解説しています。本記事はそれとは別に、農業委員会が作る農地台帳・地図・賃借料情報に焦点を当てます。


農地台帳とは?─ 一筆ごとの農地の記録

法律で定められた記録事項

農業委員会は、その所掌事務を的確に行うため、(中略)一筆の農地ごとに次に掲げる事項を記録した農地台帳を作成するものとする。(農地法第52条の2第1項)

農地台帳に記録される事項は、次のとおりです(農地法第52条の2第1項、農地法施行規則第101条)。

区分記録事項
所有者所有者の氏名・名称、住所、所有者の国籍等(法人は設立準拠法の国、役員等の情報)、法人所有者の主要株主等
土地所在、地番、地目、面積
権利賃借権等の権利の種類・存続期間、権利者の氏名・住所、借賃等の額
権利の設定方法3条許可によるものか、農地バンクの農用地利用集積等促進計画によるものか、特定農地貸付けによるものか 等
耕作者耕作者の氏名・名称と整理番号
遊休農地遊休農地に関する措置の実施状況
貸付け等の意向所有者が貸したい・売りたい意思を表明した場合、その旨(公表について所有者の同意がある場合に限る)
その他省令で定める事項

作成上の留意点(運用通知)

国の「農地法の運用について」(以下「運用通知」)は、農地台帳の作成について次のように定めています(第6の1(1))。

チェック:農地台帳の記録のポイント

  • 地目・面積は登記簿の内容を記録し、現況が異なることを把握している場合は、その現況も併せて記録することが適当
  • 借賃等は、1年間の借賃の額に加え、10アール当たりに換算した額も記録することが適当
  • 共有の農地は、共有持分を有する全員の情報と、判明していれば各自の持分割合を記録することが適当

公表される範囲─ 農地法第52条の3と施行規則第104条

公表は法律上の義務

農業委員会は、農地に関する情報の活用の促進を図るため、(中略)農地台帳に記録された事項(公表することにより個人の権利利益を害するものその他の公表することが適当でないものとして農林水産省令で定めるものを除く。)をインターネットの利用その他の方法により公表するものとする。(農地法第52条の3第1項)

農業委員会は、農地に関する情報の活用の促進に資するよう、農地台帳のほか、農地に関する地図を作成し、これをインターネットの利用その他の方法により公表するものとする。(同第2項)

運用通知は、この公表について、公表が適当でないものとして省令で定めるものを除き、各市町村の個人情報保護条例等の規定にかかわらず、必ず行わなければならないとしています。一方で、市町村が条例で手数料を定めることは妨げないとしています(運用通知 第6の2)。

公表されないもの(農地法施行規則第104条第1項)

農地の区分公表しない事項
市街化区域内の農地全ての事項(=公表されない)
それ以外の農地・所有者の住所
・賃借権等の権利者の住所
・借賃等の額
・所有者の国籍等、法人所有者の主要株主等の情報、権利の設定方法の区分
・その他省令で定める一部の事項

公表の方法(同第2項)

公表は次の2つの方法で行われます。

  1. 公表すべき事項を記載した書面を市町村の事務所に備え置き、閲覧に供する
  2. 公表すべき事項をインターネット等で提供する。ただし、所有者や権利者の氏名・名称、耕作者の氏名・名称は除く

ポイント:ネットと窓口で出る情報が違う
インターネットで提供される情報からは、所有者・権利者・耕作者の氏名も除かれます。窓口での閲覧では氏名が確認できる場合がありますが、住所や借賃の額は公表対象外です。「ネットで所有者の住所を調べて直接交渉する」といった使い方はできないと考えておきましょう。

公表情報から読み取れること

市街化区域外の農地であれば、主に次のような情報が得られます。

  • その農地の所在・地番・地目・面積
  • 賃借権等が設定されているか、その種類と存続期間
  • 遊休農地に関する措置の状況
  • 所有者が同意している場合は、貸付け・売渡しの意向

開発の候補地選びでは、「その農地に賃借権などが設定されているか」「遊休農地の措置が取られているか」が、交渉の難易度やスケジュールを見通すうえで参考になります。賃借人がいる農地を転用する場合は、賃貸借の解約(農地法第18条)の手続きが必要になるためです(「貸している農地を返してもらうには?賃貸借の解約許可(農地法18条)」参照)。


賃借料情報─ 農地を貸し借りするときの目安

農業委員会が提供する「賃借料情報」

農業委員会は、農地の保有・利用状況や借賃等の動向などの情報を収集・整理・分析して提供します(農地法第52条)。運用通知は、その一つとして賃借料情報の提供を定めています。

農地の賃貸借契約を締結する場合の目安となるよう地域の実勢を踏まえた賃借料情報を提供すること。(運用通知 第5(1))

賃借料情報の作り方(運用通知 第5(1))

手順内容
ア 区分の決定どの作物(例:水稲、露地野菜、りんご)について提供するか、さらに中山間地・平坦地などの地理的条件、ほ場整備済みか、収量水準などを踏まえて区分を決める
イ データの収集3条許可申請書、農用地利用集積等促進計画の公告の写しなどから賃借料データを集める
ウ データの区分作物・地理的区分ごとに分類
エ 水準の計算親類間の取引や特殊な作物を前提とした取引など、明らかに特別な事情のあるデータを除いたうえで、平均額・最高額・最低額を求める
オ 情報の提供農業委員会のホームページや農業委員会だよりなどで提供。区分ごとに地図上に示すなど分かりやすく。集計に用いたデータ数、物納を金額換算している旨も記載

賃借料情報の見方

チェック:賃借料情報を使うときのポイント

  • 作物と地域区分が合っているかを確認する(水田と畑、平坦地と中山間地では水準が違う)
  • 平均額だけでなく、最高額・最低額も見て幅を把握する
  • データ数が少ない区分は、参考程度にとどめる
  • あくまで契約の目安。実際の賃料は、ほ場の条件(区画、水利、進入路など)や当事者の事情で決まる

農地の貸し借りの手続きについては、「農地バンク(農地中間管理機構)で農地を貸す・借りる手続きと3条許可との違い」もあわせてご覧ください。


調査で使うときの注意点

① 公表情報は「現況」と一致するとは限らない

運用通知は、現況が登記簿と異なることを把握している場合は現況も記録することが適当、としています。ただし、台帳は申請・届出や農業委員会の調査で得た情報に基づいて記録されるものです(農地法第52条の2第3項)。最新の現地の状況と一致しているとは限りません。現地確認は欠かせません。

② 農地かどうかの最終判断は「現況」

農地法上の農地かどうかは、登記簿の地目でも台帳の記載でもなく、土地の現況で判断されます。台帳に載っていないから農地ではない、とは限りません。詳しくは「開発事業者必見|登記地目が「非農地」でも農地法の対象?「現況主義」の実務リスク」をご覧ください。

③ 市街化区域の農地は公表されない

市街化区域内の農地は、台帳の事項が公表されません(農地法施行規則第104条第1項第1号)。市街化区域の農地の調査は、登記簿・公図や、農業委員会への個別の問い合わせが中心になります。

④ 所有者との交渉には別ルートが必要

公表情報からは所有者の住所は分かりません(インターネットでは氏名も除かれます)。所有者との交渉が必要な場合は、登記事項証明書で登記名義人を確認するのが基本です。相続登記がされていない農地では、相続人の調査が必要になることもあります。


まとめ

チェック:この記事のまとめ

  • 農業委員会は、一筆ごとの農地台帳と農地地図を作成し、インターネット等で公表する義務がある
  • 台帳には、所有者、地目・面積、賃借権等の設定状況、耕作者、遊休農地の措置の状況、(同意があれば)貸付け・売渡しの意向などが記録される
  • 市街化区域の農地は非公表。それ以外でも、所有者・権利者の住所、借賃等の額などは非公表。インターネットでは氏名も除かれる
  • 賃借料情報は、作物・地域区分ごとに平均・最高・最低額が示される、貸し借りの目安
  • 台帳は現況と一致するとは限らない。現地確認と登記の確認が欠かせない

当事務所では、開発候補地の事前調査として、農地台帳・農振の区分・登記簿・現地の状況を突き合わせ、転用や取得の見通しを整理するお手伝いをしています。


  • 農地法(令和7年6月1日施行版)第52条、第52条の2、第52条の3
  • 農地法施行規則(令和7年7月28日施行版)第101条、第104条
  • 「農地法の運用について」の制定について 第5、第6