「農業委員会から『農地における利用の意向について』という書類が届いた。何のこと?」
「遠方に住んでいて、相続した畑は草が伸び放題。何か言われるのかな」

このようなご相談を、農地を相続した方や、実家を離れて暮らしている方から多くいただきます。

この書類は、農地法に基づく「利用意向調査」です。放置しておくと、農業委員会の「勧告」を経て固定資産税・都市計画税が引き上げられるなど、所有者にとって不利益な結果につながることがあります。

この記事では、「農地法の運用について」(平成21年12月11日 21経営第4530号・21農振第1598号、以下「運用通知」)と農地法第30条〜第41条に沿って、次の点を解説します。

  • 利用意向調査が届く仕組み
  • 回答の選択肢と、その後の流れ
  • 勧告による固定資産税等への影響
  • 勧告を避ける・撤回してもらうためにできること

利用意向調査が届くまでの流れ

ステップ1:毎年の「利用状況調査」

農業委員会は、毎年1回、区域内のすべての農地の利用状況を調査しなければなりません(農地法第30条第1項)。運用通知では、実施時期を「毎年8月頃」とし、農地台帳・農地地図を使って一筆ごとに調査するとしています(運用通知 第3の1(1)(2))。

道路からの目視で雑草の繁茂を確認した場合は、現地で写真を撮って記録します。最近では、人工衛星やドローンの画像を使った調査も認められています(運用通知 第3の1(2)ウ・エ)。

ステップ2:「遊休農地」の判定

調査の結果、次のいずれかに当たる農地が遊休農地とされます(農地法第32条第1項)。

区分内容運用通知による判断の目安
1号遊休農地 現に耕作されておらず、引き続き耕作されないと見込まれる農地 「現に耕作の目的に供されておらず」とは、過去1年以上作物の栽培が行われていないこと。
「引き続き耕作されないと見込まれる」かは、草刈り・耕起など、いつでも耕作できる状態に保つ管理(維持管理)が行われているかで判断
2号遊休農地周辺の農地に比べて利用の程度が著しく劣っている農地作物がまばら・偏って植えられていないか、必要な管理がされているか等で判断(ウメ・クリ等も含む)

(運用通知 第3の1(3)ア・イ)

ポイント:「作っていない」だけでは遊休農地にならないことも
作物を植えていなくても、定期的に草刈りや耕起をして、いつでも耕作できる状態に保っていれば、「引き続き耕作されないと見込まれる」には当たらないと判断されることがあります(運用通知 第3の1(3)ア(イ))。すぐに耕作できない事情があっても、維持管理をしておくことが最初の防衛策です。

なお、森林の様相を呈するなど再生利用が困難な農地は、遊休農地ではなく「非農地判断」の対象になります(運用通知 第3の1(3)ウ)。こちらは「山林化した耕作放棄地の「非農地判断」と地目変更登記」で解説しています。

ステップ3:「利用意向調査」の発出

遊休農地と判定されると、農業委員会は所有者(貸している場合は借りている人)に対して利用意向調査を行います(農地法第32条第1項)。

運用通知では、判定後直ちに、農地法施行規則で定める様式「農地における利用の意向について」を発出します。回答期限は1か月以内の範囲で設定されます(運用通知 第3の3(1))。


利用意向調査の「回答」と、その後の流れ

調査票では、その農地を今後どうするか、意思を表明します。主な選択肢とその後の流れは次のとおりです(農地法第34条〜第36条、運用通知 第3の5・6)。

回答(意思の表明)その後の流れ
自ら耕作する表明から6か月経過後に現地確認。耕作が再開されていなければ勧告
農地バンク(農地中間管理機構)に貸したい農業委員会から機構へ通知され、機構から借受けの協議が申し入れられる
売りたい・貸したい(自分で相手を探す) 表明から6か月経過後に確認。権利の設定・移転が行われていなければ勧告
利用する意思がない 表明から1か月以内に勧告
回答しない調査の発出から6か月経過後に現地確認のうえ、1か月以内に勧告

注意:回答しないのが一番不利
回答期限までに回答がない場合、農地利用最適化推進委員などが直接訪問して意向を確認することとされています(運用通知 第3の3(1))。それでも意思表明がなければ、6か月経過後に勧告の対象になります(農地法第36条第1項第4号)。「よく分からないから放っておく」は避けましょう。


「勧告」とは何か─ 農地バンクとの協議を促すもの

農地法第36条の勧告は、正確には「農地中間管理機構(農地バンク)と、農地中間管理権の取得に関して協議すべきこと」の勧告です。要するに「自分で使わないなら、農地バンクに貸すことを話し合ってください」という勧告です。

勧告を受けると何が起こる?

① 固定資産税・都市計画税が上がる

運用通知は、利用意向調査の段階で所有者に次のことを周知するよう定めています。

利用意向調査を行う際には、所有者等に対し、勧告がなされた場合には、当該勧告の対象となった農地の固定資産税及び都市計画税の評価額が引き上げられ、固定資産税額及び都市計画税額が増えることとなることを周知すること。(運用通知 第3の3(1))

勧告を行った農地については、農業委員会から市町村の税務部局に、所有者名・所在・地番・面積・勧告日・理由などが提供されます(運用通知 第6の1(2)ア)。

② 相続税・贈与税の納税猶予が打ち切られる

相続税や贈与税の納税猶予制度を受けている農地は、特に注意が必要です。

贈与税及び相続税の納税猶予制度の適用を受けている農地については、法第36条第1項に基づく農地中間管理機構との協議の勧告があった場合には納税猶予の期限が確定する(運用通知 第3)

納税猶予を受けている農地が勧告を受けると、猶予されていた税額の納付期限が来てしまいます。さらに運用通知は、納税猶予を受けている農地については、通常なら勧告の対象外となる事情があっても、第36条第1項各号に当たれば「必ず勧告を行うこと」としています(運用通知 第3の6(2)イ)。

③ 農地バンクからの「裁定」の申請につながる

勧告から2か月以内に農地バンクとの協議が調わない場合などは、農地バンクは勧告から6か月以内に、都道府県知事に対して農地中間管理権(賃借権)の設定に関する裁定を申請できます(農地法第37条)。知事の裁定と公告があると、所有者と農地バンクの間で賃借権の設定契約が結ばれたものとみなされます(農地法第40条第2項)。存続期間の上限は40年です(農地法第39条第3項)。

令和6年の法改正では、地域計画の区域内の遊休農地について、農地バンクによる裁定申請の手続きが迅速化・義務化されました(農林水産省「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律について」令和6年7月、p.9)。


勧告の対象外になる場合

運用通知では、次の場合は「正当の事由」があるものとして勧告の対象にしないとしています(運用通知 第3の6(2)ア)。

チェック:勧告の対象にならない主な場合

  • その農地が農業振興地域の外にある(農地法第35条・第36条の規定上、対象外)
  • 農地バンクが、その農地は機構の借受け基準に適合しないと通知した場合
  • 所有者から農地バンクに貸し付ける意思が表明され、それが継続している場合

ただし、前述のとおり納税猶予を受けている農地は、これらに当たっても第36条第1項各号に該当すれば勧告されます。


すでに勧告を受けてしまったら?─ 勧告の撤回

勧告後に次のいずれかに当たると、その時点で勧告が撤回されます(運用通知 第3の6(3))。

  • 利用状況調査などで、遊休農地が解消されたことが確認された
  • 農地バンクとの協議の結果、農地バンクが借り受けた
  • 裁定により農地バンクが農地中間管理権を取得した
  • その他、撤回すべき相当の事情がある

撤回された場合の税金について、運用通知は次のように定めています。

勧告を撤回した場合、勧告の撤回があった日の属する年の翌年の1月1日(当該勧告の撤回の日が1月1日である場合には、同日)を賦課期日とする年度分以降の固定資産税額及び都市計画税額の引き上げは行われなくなる(運用通知 第3の6(3))

たとえば年の途中で撤回されれば、翌年1月1日を賦課期日とする年度分から、引き上げがなくなります。


所有者ができる対策:実務上のポイント

  1. 1. 調査票には必ず期限内に回答する。無回答は勧告への近道
  2. 2. すぐに耕作できなくても、草刈り・耕起などの維持管理を続ける。遊休農地と判定されにくくなる
  3. 3. 自分で耕作しないなら、貸し出しを具体的に進める。農地バンクの利用も有力な選択肢
  4. 4. 売却を考えるなら早めに動く。「売りたい」と表明しても、6か月後に権利移転がなければ勧告の対象になる
  5. 5. 納税猶予を受けている農地は特に注意。勧告で猶予期限が確定してしまう

農地バンクへの貸し出しについては「農地バンク(農地中間管理機構)で農地を貸す・借りる手続き」で詳しく解説しています。


所有者が分からない遊休農地はどうなる?

相続登記がされておらず、農業委員会が相当な努力で探しても所有者(共有の場合は過半の持分を持つ者)が分からない場合は、利用意向調査の代わりに「公示」が行われます(農地法第32条第3項)。公示から2か月以内に所有者から申出がなければ、最終的に農地バンクが知事の裁定を受けて利用権を取得する道があります(農地法第41条)。

詳しくは「所有者が分からない農地を借りる方法:公示と農地バンクへの裁定」をご覧ください。


まとめ

  • 毎年の利用状況調査で遊休農地と判定されると、利用意向調査が届く
  • 回答しない、または意思どおりに利用されない(6か月経過)と、農地バンクとの協議の勧告が行われる
  • 勧告を受けると固定資産税・都市計画税の評価額が引き上げられ、相続税・贈与税の納税猶予も期限が確定する
  • 勧告後も、遊休農地の解消や農地バンクへの貸付けで勧告は撤回される
  • まずは期限内に回答し、維持管理か貸し出しを具体的に進めることが大切

「利用意向調査が届いたけれど、どう答えればいいか分からない」「貸したいが相手が見つからない」という方は、お気軽にご相談ください。当事務所では、農地の状況を伺ったうえで、貸し出し・売却・転用など、それぞれの選択肢に必要な手続きをご案内します。


参考資料
– 農地法(令和7年6月1日施行版)第30条〜第41条
– 「農地法の運用について」の制定について 第3、第6
– 農林水産省経営局・農村振興局「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和6年7月)