「農地所有適格法人を作って農地を取得した。その後、何か手続きは必要なの?」
「出資者が変わることになった。適格法人の要件に影響する?」

農業法人の経営者の方から、こうしたご相談をいただきます。

当サイトの「【行政書士が解説】農地所有適格法人とは?設立の4要件と農地取得のステップ」では、設立時の要件と農地取得までの流れを解説しました。この記事では、その「後」の話として、次の点を解説します。

  • 設立後に毎年求められる報告義務
  • 要件を欠くおそれがあるときの勧告
  • 要件を満たさなくなったときの国による買収

農地所有適格法人の要件は、設立時だけでなく、農地を所有・利用している間ずっと満たし続ける必要があるものです。


毎事業年度の報告義務(農地法第6条)

報告が必要な法人

農地所有適格法人であつて、農地若しくは採草放牧地(中略)を所有し、又はその法人以外の者が所有する農地若しくは採草放牧地(中略)をその法人の耕作若しくは養畜の事業に供しているものは、農林水産省令で定めるところにより、毎年、事業の状況その他農林水産省令で定める事項を農業委員会に報告しなければならない。(農地法第6条第1項)

農地を所有している、または借りて耕作している農地所有適格法人は、毎年、農業委員会に報告しなければなりません。適格法人でなくなった法人やその一般承継人も、同様に報告が必要です。

報告の期限と提出先

法第6条第1項の規定による報告は、毎事業年度の終了後3月以内に、次条に掲げる事項を記載した報告書を当該農地所有適格法人が現に所有し、又は所有権以外の使用及び収益を目的とする権利を有している農地又は採草放牧地の所在地を管轄する農業委員会に提出してしなければならない。(農地法施行規則第58条第1項)

たとえば3月決算の法人なら、6月末までが期限です。複数の市町村に農地がある場合は、それぞれの農業委員会に提出します。

報告しないと過料

第6条第1項の規定に違反して、報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、30万円以下の過料に処する。(農地法第68条)

事務処理要領は、期限までに報告書の提出がなかった場合、農業委員会が書面で速やかに報告を求めるとしています(農地法関係事務処理要領 第5の1(2)ア)。


報告書の記載事項と添付書類

記載事項(農地法施行規則第59条)

№記載事項
1法人の名称、主たる事務所の所在地、代表者の氏名
2所有し、又は借りている農地・採草放牧地の面積
3当該事業年度に行った事業の種類及び売上高
4構成員の氏名(名称)とその有する議決権
5構成員からその法人に権利を設定・移転した農地等の面積
6構成員が農地中間管理機構を経由して法人に貸している農地等の面積(該当する場合)
7構成員の、その法人の農業への従事状況
8構成員が法人に農作業を委託している場合の状況(該当する場合)
ほか役員の農業・農作業への従事状況など

報告書の様式は、国の事務処理要領の様式例第5号の1が基本です。

添付書類(農地法施行規則第58条第2項)

  • 定款の写し
  • 農事組合法人・株式会社は、組合員名簿又は株主名簿の写し
  • 承認会社(投資円滑化法)が構成員の場合は、その証明書面と株主名簿の写し
  • その他参考となるべき書類(損益計算書の写し、出勤記録の写し、総会議事録の写し等)

「その他参考となるべき書類」を求める場合については、申請者の負担軽減に配慮するよう、事務処理要領が農業委員会に求めています(事務処理要領 第5の1(1)イ)。

実務上のポイント
報告書は、農業委員会が適格法人の要件を満たしているかを毎年チェックする資料です。事業要件(売上高の過半が農業か)、議決権要件(農業関係者の議決権が過半か)、役員要件(法人の農業に常時従事する構成員が役員の過半を占める、役員又は一定の使用人のうち1人以上が農作業に一定日数以上従事する)を、決算の数字と株主名簿で説明できるように整理しておきましょう。


要件を欠くおそれがあるとき─ 農業委員会の勧告

勧告

農業委員会は、前項前段の規定による報告に基づき、農地所有適格法人が第2条第3項各号に掲げる要件を満たさなくなるおそれがあると認めるときは、その法人に対し、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。(農地法第6条第2項)

たとえば、農業以外の事業の売上が伸びて事業要件を割りそうな場合や、株主構成の変化で議決権要件が危うくなっている場合などです。勧告は様式例第6号の勧告書で行われ、勧告した翌年には是正状況が確認されます(事務処理要領 様式例の記載要領)。

農地の譲渡のあっせん

勧告を受けた法人から、所有する農地等の所有権を譲り渡したい旨の申出があったときは、農業委員会はその譲渡のあっせんに努めなければなりません(農地法第6条第3項)。


要件を満たさなくなったとき─ 国による買収

国が農地を買収する

農地所有適格法人が農地所有適格法人でなくなつた場合において、その法人若しくはその一般承継人が所有する農地若しくは採草放牧地があるとき、又は(中略)その法人若しくはその一般承継人の耕作若しくは養畜の事業に供されているものがあるときは、国がこれを買収する。(農地法第7条第1項)

適格法人の要件を満たさなくなると、法人が所有する農地だけでなく、法人が借りて耕作している他人の農地も、国の買収の対象になります。

ただし、次の土地は買収の対象外です(同項ただし書)。

  • 法人が権利を取得した時に農地・採草放牧地以外の土地であったもの など
  • 農地法第3条第3項(いわゆる解除条件付き貸借)の規定の適用を受けて設定された使用貸借・賃借権に係るもの

買収の手続きの流れ

段階内容根拠
① 公示・縦覧農業委員会が、買収すべき農地等の所有者・所在・地番・面積等を公示し、1か月間縦覧 農地法第7条第2項
② 通知土地の所有者に通知同第3項
③ 要件回復の届出公示の翌日から3か月以内に、法人が要件をすべて満たすに至った旨を届け出、真実と認められれば公示は取り消され、買収されない同第5項・第7項
④ 買収要件が回復しない場合、国が買収同第1項

勧告を受けていた場合は3か月の猶予

買収すべき農地等が、第6条第2項の勧告に係るものであるときは、勧告の日(又は譲渡の申出の日)の翌日から3か月間、公示をしないこととされています(農地法第7条第4項)。その間に3条許可や18条許可の申請があれば、処分があるまでは公示されません。

勧告を受けたら、3か月以内に要件を回復するか、農地の譲渡・賃貸借の解約などの整理を進めることが重要です。

賃貸人から賃貸借を解約されることも

法人が借りている農地の貸主(構成員など)は、法人が適格法人でなくなった場合などに、知事の許可を得て賃貸借を解約できるとされています(農地法第18条第2項第5号)。


【令和6年改正】種類株式と議決権要件

令和6年の農地法改正では、議決権要件について次の明確化が行われました。

農地所有適格法人について、拒否権付株式を発行している場合には、その種類株主総会においても農業関係者が議決権の過半を占めるべきことを明確化(法の施行から1年間は経過措置)(農林水産省「食料の安定供給のための…改正する法律について」令和6年7月、p.6)

現在の農地法第2条第3項第2号も、株主総会に「会社法第108条第1項第8号に掲げる事項についての定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会を含む」と明記しています。出資を受け入れる際に種類株式を使う場合は、この点も要件確認が必要です。

また、同改正では、食品事業者等との連携による出資を受けるための議決権要件の特例(農業経営発展計画の認定)も創設されました。詳しくは「食品事業者の出資を受ける農地所有適格法人の議決権特例(農業経営発展計画の認定)」をご覧ください。


要件を守るためのチェックポイント

  • – 決算期ごと:農業(関連事業を含む)の売上が過半か(事業要件)
  • – 株主・社員の変動時:農業関係者の議決権が過半か。種類株式を発行していないか、発行しているなら種類株主総会でも過半か(議決権要件)
  • – 役員の交代時:法人の農業に常時従事する構成員が役員の過半を占めているか、役員又は一定の使用人(常時従事者)のうち1人以上が農作業に一定日数以上従事しているか(役員要件、農地法第2条第3項第3号・第4号)
  • – 毎事業年度終了後3か月以内:農業委員会への報告書の提出

株主の相続や、事業の多角化による売上構成の変化など、経営上の自然な変化で要件を割り込むことがあります。重要な変更の前には、要件への影響を確認しておくことをおすすめします。


まとめ

  • – 農地を所有・利用する適格法人は、毎事業年度終了後3か月以内に農業委員会へ報告(怠ると30万円以下の過料)
  • – 報告書には、売上高、構成員の議決権、農業への従事状況などを記載し、定款・株主名簿を添付
  • – 要件を欠くおそれがあれば勧告。勧告後3か月間は買収の公示が猶予される
  • – 要件を満たさなくなると、所有農地・借入農地が国による買収の対象に。公示後3か月以内の要件回復の届出で買収を免れる道がある
  • – 令和6年改正で、種類株主総会でも農業関係者の過半が必要であることが明確化された

当事務所では、農地所有適格法人の毎年の報告書の作成、出資・役員変更の前の要件チェック、勧告を受けた場合の対応策の検討までサポートします。

「うちの法人、要件は大丈夫?」定期的なチェックのご相談もお受けしています。


参考資料
– 農地法(令和7年6月1日施行版)第2条第3項、第3条第3項、第6条、第6条の2、第7条、第18条、第68条
– 農地法施行規則(令和7年7月28日施行版)第58条、第59条
– 農地法関係事務処理要領の制定について 第5の1、様式例第5号の1・第6号
– 農林水産省経営局・農村振興局「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和6年7月)