「祖父の代から家が建っている土地なのに、登記簿を取ったら地目が『畑』になっていた」
「実家を売ろうとしたら、不動産会社に『地目が田なので、このままでは売れないかもしれない』と言われた」

このようなご相談は、相続や不動産の売却をきっかけに寄せられることが多いです。

登記簿の地目が「田」「畑」のままだと、買主が決まっても所有権移転登記の段階で問題になることがあります。農地として扱われれば、売買に農地法の許可が必要になるためです。こうした場面で使われるのが、農業委員会の「現況証明」(いわゆる非農地証明)です。

当サイトの「登記地目が『非農地』でも農地法の対象?現況主義の実務リスク」では、「登記は非農地だが現況は農地」というパターンを解説しました。この記事はその逆で、「登記は農地だが、現況は長年宅地」という土地について、次の点を解説します。

  • 現況証明を受けるための要件
  • 証明できる土地・できない土地
  • 必要書類と申請の流れ

※本記事では、当事務所がある愛知県の「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(以下「愛知県ハンドブック」)が示す基準(「現況証明の処理の基準について」平成18年2月15日 17農振1078 愛知県農林水産部長)を例に解説します。基準や様式は市町村・都道府県によって異なることがあるため、実際の申請前には必ず農地のある農業委員会に確認してください。


現況証明とは?─ 「もう農地ではない」ことを証明する手続き

農地かどうかは「現況」で判断される

農地法上の「農地」とは「耕作の目的に供される土地」をいい(農地法第2条第1項)、農地かどうかは登記簿の地目ではなく土地の現況で判断されます(現況主義)。

逆にいえば、登記簿上は「田」「畑」でも、現実に農地でなくなっていれば農地法上の農地ではありません。ただし、そのことを登記簿や第三者に示すには、公的な裏付けが必要です。そこで使われるのが現況証明です。

現況証明の定義

愛知県ハンドブックは、現況証明を次のように定義しています。

現況証明とは、登記簿の地目が「田」、「畑」、「牧場」である土地について、現況が農地又は採草放牧地以外のものとなってしまったこと及び今後も農地として利用される見込みのないことを証明する事実行為をいう。(愛知県ハンドブック 6 現況証明関係 第1の1)

さらに、次のただし書きが付いています。

これは「現況証明ができる基準」に明確に合致する場合に限り証明するもので、証明する機関が明確でないと判断する場合は、証明できない。(同上)

「たぶん農地ではない」程度では証明されないという点を、まず押さえておきましょう。

国の通知でも位置付けられている手続き

国の「農地法の運用について」(平成21年12月11日 21経営第4530号・21農振第1598号)は、農業委員会の役割として次のように定めています。

農業委員会は、農地の所有者から当該農地が農地に該当しないことの証明を依頼された場合は、(中略)農地に該当するか否かの判断を行うこと。(「農地法の運用について」第4(2))

所有者からの依頼による証明は、国の運用通知でも想定されている手続きです。


現況証明ができる基準─ 5つの要件をすべて満たす必要がある

愛知県ハンドブックでは、次の(1)〜(5)をすべて満たすことが必要とされています(6 現況証明関係 第1の4)。

No.要件ポイント
(1)願出地の現況が農地等以外であること現地確認で判断
(2)次のア・イのいずれかに該当することア 願出前20年間以上継続して農地等以外として利用されている
イ 災害その他人為的でない理由で農地等以外になり、復元が著しく困難
アの「20年」は民法第162条(取得時効)の趣旨を踏まえた期間
(3)(2)を裏付ける証明書類があることアなら公的機関の証明書等、イならその旨を明らかにする書類
(4)農用地区域(青地)内の土地は、農用地区域から除外されていること青地のままでは証明不可
(5)農地法第51条の処分(違反転用に対する処分)を受けた土地は、処分を受けた者による願出でないこと違反転用者本人の願出は不可

ポイント①:「20年以上」を公的書類で示せるか

実務で最も重要なのは(2)アと(3)の組み合わせです。20年以上前から宅地などとして使われていたことを、公的な書類で裏付けられるかが勝負になります。

愛知県ハンドブックが例示している証明書類は次のとおりです(6 現況証明関係 第2の2(2)⑥)。

  • 固定資産税(家屋)評価額等証明書
  • 建物の登記事項証明書(建築時期の記載があるもの。願出日から3か月以内発行の全部事項証明書)
  • 国土地理院の航空写真(願出日から20年以上前に撮影され、撮影日の証明があり、状況が判別できるもの)
  • その他公的機関が発行する土地の状況に関する資料(20年以上前の状況が判別できるもの)

建物が登記されていて、その建築時期が20年以上前であれば、比較的スムーズに進むことが多いです。建物が未登記の場合は、固定資産税の家屋評価証明や航空写真で補うことを検討します。

ポイント②:青地(農用地区域)の土地は先に除外が必要

(4)のとおり、農業振興地域整備計画の農用地区域(いわゆる青地)に含まれている土地は、農用地区域から除外されていなければ証明されません。証明できない場合の通知例にも「願出地が、農業振興地域整備計画における農用地区域内にあり、又、除外見込みがないため」という理由が挙げられています(愛知県ハンドブック 様式2号)。

自分の土地が青地かどうかの調べ方は、「開発予定の農地が青地か白地か調べる方法」をご覧ください。


証明できる土地・できない土地─ 具体例で確認

愛知県ハンドブックには、土地の種類ごとの留意事項が示されています(6 現況証明関係 第1の5(2))。

建物の敷地の場合

  • 敷地の周囲が住宅・工場、川、よう壁・ブロック塀などで区画され、境界がはっきり分かる場合は、敷地全体が証明の対象(建物への進入通路、家庭菜園を含む)
  • 境界が分からない場合は、建物面積÷敷地面積がおおむね2割以上となる範囲で分筆すれば証明の対象になる
  • 「家庭菜園」は、住宅の一角で自家消費用の野菜等を栽培する程度(例えば10㎡程度の小面積)で、住宅の使用に影響しないもの
  • 分家住宅等を建てる際に分筆で住宅敷地にならなかった土地(耕作・管理されている土地)は農地

「母屋の横の広い畑も一緒に証明してほしい」というご相談がありますが、耕作されている部分は農地です。証明の対象にはなりません。

駐車場・資材置場の場合

駐車場や資材置場等の土地は区画形質の変更が容易であり、20年間以上継続して農地以外に利用されていることを公的に証明するのが困難であることから、原則として現況証明の対象とならない。(愛知県ハンドブック 6 第1の5(2)イ)

駐車場や資材置場は建物がないため、20年以上の利用を公的書類で示すのが難しいのが実情です。このため原則として対象外とされています。

山林・荒れ地の場合

ここは誤解が多いところです。

  • かつて耕作していたが今は耕作していない休耕地や、耕作する意思がない耕作放棄地は、現況証明はできない
  • 雑草・雑木・竹などが生い茂った藪(やぶ)は農地であり、現況証明はできない
  • 所有者が植林した樹木(松・ひのき・杉等)が成木となり、周辺の山林と外見上まったく区別がつかない状態が20年以上続いていると公的資料で確認できる場合などは、対象になりうる(目安:2,000本/ha程度の生育した樹木が林立)

「長年放置して荒れているから農地ではない」と考える方は多いのですが、現況証明の基準では、藪や耕作放棄地は農地として扱われます。

なお、山林化した耕作放棄地については、農業委員会が利用状況調査の結果に基づいて「非農地判断」を行う別の仕組みがあります。こちらは「山林化した耕作放棄地の「非農地判断」と地目変更登記」で解説しています。


誰が申請できる?─ 願出者の範囲

愛知県ハンドブックでは、願出ができる者を次のとおりとしています(6 現況証明関係 第1の2)。

  • 原則:土地所有者(所有権を登記している者に限る)
  • 所有者が死亡している場合:その相続人
  • 共有物の場合:共有者の一部の者からの願出でもよい(相続人の共有になっている場合も、相続人の一部からの願出でよい)

代理人(行政書士など)に手続きを委任する場合は、委任状を添付します。相続登記が済んでいない場合は、戸籍謄本や遺産分割協議書、法定相続情報一覧図の写しなどで相続関係を示す必要があります。


必要書類と申請の流れ

必要書類

愛知県ハンドブック(6 現況証明関係 第2の2)に示された書類は次のとおりです。

書類注意点
現況証明願出書(様式1号)農業委員会が証明する場合2部、知事が証明する場合3部
位置図土地に不案内な人でもたどり着ける程度のもの
公図の写し隣接地の地目(現況地目)を記入する
土地利用図・建物配置図土地の形状と利用状況。建物は建築面積を記入
土地の登記事項証明書願出日から3か月以内に発行されたもの(登記情報提供サービスのプリントアウトも可)
現況写真願出日から3か月以内の撮影。東西南北から各1枚、計4枚(撮影できない方向がある場合でも最低2方向)
20年以上農地等以外であることを証明するもの家屋評価証明、建物登記事項証明、航空写真など
災害等によることを証明するもの災害による自然かい廃の場合
委任状行政書士等に委任する場合
戸籍謄本・遺産分割協議書・法定相続情報一覧図等所有者死亡・相続登記未了の場合

申請の流れ

  1. 事前相談:農業委員会で、証明の見込みや必要書類を確認
  2. 書類の収集・作成:特に「20年以上」の裏付け資料を集める
  3. 現況証明願出書の提出:土地のある市町村の農業委員会へ
  4. 現地確認:農業委員会(または知事)が現況を確認
  5. 証明書の交付:基準に「明確に合致」すると判断されれば、願出書に証明が付されて交付される
  6. 証明できない場合:理由を付した通知(様式2号)が届く

愛知県ハンドブックによれば、現況証明は平成18年4月1日から各市町村の農業委員会で行えることになっています(6 現況証明関係 第3)。


証明後にやること─ 地目変更登記

現況証明はあくまで「農地ではない」ことを農業委員会が証明するものです。登記簿の地目は自動では変わりません。証明書を得たら、法務局で地目変更登記を行うのが一般的な流れです(登記手続は土地家屋調査士の業務です)。


証明できなかったら?─ 農地法の手続きで対応する

基準に合わない場合について、愛知県ハンドブックは次のように定めています。

土地の現況が、農地等以外と判断される場合でも現況証明ができる基準に合致せず、その証明ができない事案については、農地法上の規制の中で処理するよう指導を行う。(愛知県ハンドブック 6 第1の5(2))

たとえば、「20年も経っていない」「過去に無断で宅地にした」といった場合は、現況証明ではなく、農地法第4条・第5条の許可(追認的な許可を含む)などの手続きを検討することになります。無断転用の状態にある土地の手続きについては、「無断転用が見つかったら?追認許可・原状回復命令の流れ」をご覧ください。


まとめ─ 「20年以上」と「公的な裏付け」がカギ

  • 登記は「田・畑」でも、現況が長年宅地等なら現況証明(非農地証明)を受けられる場合がある
  • 愛知県の基準では、20年以上継続して農地以外であること(または災害による自然かい廃)を公的書類で証明することが必要
  • 建物敷地は証明しやすい一方、駐車場・資材置場は原則対象外、藪・耕作放棄地は農地として扱われる
  • 青地は農用地区域からの除外が先に必要
  • 証明後は地目変更登記を忘れずに
  • 証明できない場合は、農地法の許可手続きで対応する

相続した実家の土地の売却前や、不動産取引の決済前など、お急ぎの案件もご相談ください。


参考資料

  • 農地法(令和7年6月1日施行版)第2条第1項、第51条
  • 「農地法の運用について」の制定について 第4
  • 愛知県農業水産局農政部農業振興課「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(令和7年3月)6 現況証明関係(現況証明の処理の基準について 平成18年2月15日 17農振1078 愛知県農林水産部長)