「農地転用の許可を取ったのに、買主の資金繰りがつかず売買が白紙になってしまった」
「家を建てるつもりで4条許可を取ったが、事情が変わって計画をやめることにした。許可はそのままでいいの?」
こうしたご相談をいただくことがあります。
農地の許可は、取得後に計画をやめても自動的に消えるわけではありません。不要になった許可については、許可を受けた人の側から取消しを願い出る手続きが用意されています。
この記事では、愛知県の「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(以下「愛知県ハンドブック」)に掲載されている「農地法第3・4・5条の規定による許可(受理通知)の願いによる取消しの取扱いについて」(昭和54年12月20日 愛知県農地管理課長)に沿って、次の点を解説します。
- 取消しが認められる基準
- 取消し願いの手続きと書き方
- 一部だけ取り消す場合
※取消しの基準や様式は、都道府県・市町村によって異なることがあります。実際の手続きは、許可を受けた土地のある農業委員会に確認してください。
なぜ取消し願いが必要なのか
許可後の報告義務が続いてしまう
農地転用の許可には、工事の進捗状況や完了の報告など、事業計画どおりに事業を行うことを前提とした条件が付いています(農地法第4条第7項、農地法関係事務処理要領(以下「事務処理要領」)第4の1(6)ウ)。計画をやめたのに許可が残っていると、報告の督促や、事業計画どおり事業を行うようにとの指導・勧告の対象になりかねません(事務処理要領 第4の7(3))。
次の手続きの妨げになることも
事務処理要領は、事業実施の勧告を受けた者が、勧告に従って事業計画の過半を完了しない限り、新たに別の転用許可を申請しても許可しないことが望ましいとしています(第4の7(3)ウ(ア))。放置した許可が、将来の別の申請に影響する可能性もあるのです。
計画を中止したなら、けじめとして許可の取消しを願い出ておくことが大切です。
取消しが認められる4つの基準(愛知県の取扱い)
愛知県ハンドブックでは、取消しは次の(1)〜(4)をすべて満たす場合に行うとしています(9 農地法許可(受理)の願いによる取消関係 1)。
チェック:取消しの基準
(1) 地目が現況・登記簿とも農地であること(無断転用の追認許可処分については、取消しは行わない)
(2) 所有者(登記簿の甲区に記載されている者)が、許可等処分時の申請者本人(4条事案)又は譲渡人(3条・5条事案)であること
(3) 原則として、願出日が許可等の処分日から、3条事案は10年以内、4条・5条事案は5年以内であること
(4) 一部取消しも可能だが、その場合は当該部分の分筆がされていること。4条・5条許可事案については、事業計画変更承認の見込みがあること
基準(1):現況も登記も農地のまま
すでに造成工事を始めていて現況が農地でない場合や、登記の地目を変更してしまった場合は、取消しの対象になりません。「まだ何も手を付けていない」段階が前提です。
また、無断転用の追認許可(すでに転用してしまった土地について後から受けた許可)は、取消しの対象外とされています。
基準(2):所有者が元のまま
5条許可で売買する予定だったが、まだ所有権移転登記をしていない(登記簿上の所有者が売主のまま)ことが必要です。買主に所有権が移ってしまった後は、この取扱いの対象外です。
基準(3):期間
3条は許可から10年以内、4条・5条は5年以内が原則です。
基準(4):一部取消し
許可を受けた土地の一部だけを取り消す場合は、取り消す部分を分筆しておく必要があります。4条・5条の場合は、残る部分で事業を続けるための事業計画変更の承認見込みも必要です。
取消し願いの手続き
① 全部を取り消す場合
「取消し願い」(様式1)に、次の書類を添付して、土地のある市町村の農業委員会に提出します。
- 許可書又は受理通知書
- 願出地の登記事項証明書(全部事項証明に限る)
全部取消しの場合で許可書や受理通知書を紛失したときは、その旨を書面で明らかにすれば添付を省略できます(愛知県ハンドブック 9の2(1))。
② 4条・5条許可の一部を取り消す場合
「取消し願い及び事業計画変更願い」(様式2)に、許可書又は受理通知書と登記事項証明書(全部事項証明)を添付して、農業委員会に提出します(同(2))。
③ 届出(市街化区域)の受理を一部取り消し、計画を変更する場合
市街化区域の転用届出について、一部取消しと計画変更を希望する場合は、受理された届出の取消し願いと、新たな届出書(農地法第4条第1項第7号又は第5条第1項第6号の届出書)を提出します(同(3))。
取消し願いの書き方(愛知県の様式1)
様式1の主な記載事項は次のとおりです。
| 項目 | 記載のポイント |
| 願出者 | 譲受人と譲渡人の双方(5条の場合)の住所・氏名 |
| 対象の許可 | 許可日(受理日)、許可番号、条番号(4条・5条)、「許可」か「届出書受理」か |
| 1 土地の表示 | 所在・地番、地目、面積(㎡) |
| 2 取消しの理由 | 許可を受けた(届出をした)施設が不要となった理由を、許可(受理通知)後の状況の変化とあわせて記述 |
「取消しの理由」は、単に「計画中止のため」とするのではなく、許可後にどんな状況の変化があって施設が不要になったのかを具体的に書くことが求められます。
様式2(取消し願い及び事業計画変更願い)では、許可された土地と取消しの土地を分けて記載し、取消しの理由及び取消し後の事業計画を記載します。
取消し願いと「事業計画変更承認」の使い分け
| やりたいこと | 手続き |
| 計画を全部中止する | 取消し願い(様式1) |
| 計画を縮小し、一部を農地のまま残す | 取消し願い及び事業計画変更願い(様式2) |
| 用途・配置を変える、別の事業者に引き継ぐ | 事業計画変更承認(「農地転用許可後に事業計画・事業者を変更する「事業計画変更承認」の手続き」参照) |
取消しの基準に当たらない場合は?
たとえば、すでに造成を始めてしまって現況が農地でなくなっている、所有権移転登記を済ませてしまった、といった場合は、上記の取消しの取扱いの対象外です。
このような場合は、事業計画の変更を検討するか、あるいは許可どおりに事業を完了させることを検討することになります。許可条件に沿わない状態のまま放置すると、農地法第51条による処分(許可の取消し、原状回復命令など)の対象にもなりえます。状況に応じて、早めに許可権者・農業委員会に相談しましょう。
まとめ
- 計画をやめても許可は自動的に消えない。取消し願いで取り消してもらうのが基本
- 愛知県の基準では、現況・登記とも農地、所有者が元のまま、3条は10年以内・4条/5条は5年以内、一部取消しは分筆が必要
- 無断転用の追認許可は取消しの対象外
- 全部取消しは様式1、一部取消し+計画変更は様式2。許可書と登記事項証明書(全部事項)を添付
- 取消しの理由は、許可後の状況の変化とあわせて具体的に記載する
許可を取った後に計画が止まってしまった案件は、放置するほど対応の選択肢が狭まります。当事務所では、取消し願い・事業計画変更願いの作成から、関係者との調整までサポートします。
「取った許可、どうすればいい?」まずはご相談ください。
参考資料
・ 農地法(令和7年6月1日施行版)第3条、第4条第7項、第5条、第51条
・ 農地法関係事務処理要領の制定について 第4の1(6)ウ、第4の7(3)
・ 愛知県農業水産局農政部農業振興課「農地法関係許可申請等取扱ハンドブック(第八版)」(令和7年3月)9 農地法許可(受理)の願いによる取消関係