地震や豪雨などの大規模な災害が発生すると、平時とは比較にならない量の廃棄物(災害廃棄物)が短期間に発生します。通常の許可手続きを経ていては迅速な処理が間に合わないことから、廃棄物処理法には、非常災害時に対応した特例規定が設けられています。
廃棄物処理法は、非常災害により生じた廃棄物を「非常災害廃棄物」と定義し、その処理の原則として、次の2点を掲げています(廃棄物処理法第2条の3)。
- 人の健康または生活環境に重大な被害を生じさせるものを含むおそれがあることを踏まえ、生活環境の保全及び公衆衛生上の支障を防止しつつ、適正な処理を確保することを旨として、円滑かつ迅速に処理されなければならない
- 発生量が著しく多量であることを踏まえ、円滑かつ迅速な処理を確保するとともに、将来にわたって生ずる廃棄物の適正な処理を確保するため、分別、再生利用等によりその減量が図られるよう、適切な配慮がなされなければならない
また、国、地方公共団体、事業者その他の関係者は、この原則にのっとり、適切に役割を分担するとともに、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならないとされています(同法第4条の2)。
非常災害時における許可の特例
廃棄物処理法では、非常災害により生じた廃棄物の処理を迅速に行うため、環境大臣や都道府県知事、市町村長等から処理の委託や指定を受けた者について、通常であれば必要となる処理業の許可を受けていなくても、一定の要件のもとで処理を行うことができる特例が定められています。これにより、災害発生直後の混乱した状況の中でも、必要な処理能力を機動的に確保できる仕組みとなっています。
産業廃棄物処理業の許可が不要となる者
産業廃棄物の収集運搬業・処分業の許可を要しない者として、施行規則は次の者を定めています(廃棄物処理法施行規則第9条第13号・第14号、第10条の3第9号・第10号)。
- 環境大臣または都道府県知事が自ら支障の除去等の措置(いわゆる代執行)を講ずる場合に、その委託を受けて、委託に係る産業廃棄物のみの収集運搬・処分を行う者
- 災害その他やむを得ない事由により、緊急に生活環境の保全上の支障の除去または発生の防止のための措置を講ずるため、環境大臣または都道府県知事が特に必要があると認める場合に、環境大臣または都道府県知事が定める期間に、産業廃棄物を適正に収集運搬・処分・再生する能力がある者として指定された者(産業廃棄物処理基準に従い、指定された産業廃棄物の処理を業として行う場合に限る)
2の「指定」は、期間を定めて行われ、処理の緊急性に鑑み基準をそのまま適用することが適当でないと環境大臣が認めた場合には、環境大臣が指定する基準の適用が除外される仕組みも設けられています(施行規則第9条第14号括弧書き)。特別管理産業廃棄物についても同様の規定があります(施行規則第10条の11第5号・第6号、第10条の15第3号・第4号)。
これらの者に委託する場合、排出事業者の委託先として認められる者にも含まれます(施行規則第8条の2の8第3号、第8条の3第3号)。
市町村から委託を受けた「非常災害廃棄物処理受託者」
災害廃棄物の多くは一般廃棄物として市町村が処理責任を負います。市町村から非常災害廃棄物(特別管理一般廃棄物を除く)の収集・運搬・処分の委託を受けた「非常災害廃棄物処理受託者」は、市町村が委託する場合の基準(一般廃棄物処理委託基準)に従う場合に限り、その非常災害廃棄物の処理を他人に再委託することができます。再受託者が一般廃棄物処理計画に従って更に委託するときも同様です(廃棄物処理法第6条の2第3項)。特別管理一般廃棄物である非常災害廃棄物についても同様の規定があります(同条第5項)。
平時は一般廃棄物の処理の再委託は原則として認められないため(一般廃棄物収集運搬業者・処分業者の再委託禁止。同法第7条第14項)、災害時に限った重要な特例です。
特例が適用される背景
大規模災害の発生時には、被災地域内の処理業者だけでは対応しきれず、広域的な応援体制が必要になることが少なくありません。非常災害時の特例は、こうした状況を踏まえ、国・地方公共団体が主体となって処理体制を構築できるようにするための規定であり、法律・施行令の改正を通じて、より実効性のある災害対応の仕組みへと整備が進められてきました。近年の法改正では、非常災害廃棄物に関する規定が複数の条文にわたって整備されており、平時の処理体制だけでは対応しきれない大規模災害への備えが、法制度上も重視されていることがうかがえます。
令和8年改正で加わった規定
令和8年6月19日公布の廃棄物処理法改正(令和8年法律第43号)では、その一部として、非常災害廃棄物に関する規定が公布から3か月以内の政令で定める日に施行されることとされました(同法附則第1条第2号)。令和8年9月16日施行の廃棄物処理法には、次のような規定が設けられています。
- 都道府県と処理業者等との協定:都道府県は、一般廃棄物収集運搬業者・処分業者その他の非常災害廃棄物の適正な処理を行うことができる者(これらを主たる構成員とする団体を含む。「非常災害廃棄物適正処理業者」)との間で、知事の求めに応じて区域内の非常災害廃棄物を処理すること等を内容とする協定を締結するよう努める(廃棄物処理法第5条の6の2第1項)
- 都道府県間・市町村との協定:都道府県は、区域内の市町村や隣接する都道府県との間で、非常災害廃棄物の処理に関する知識を有する者の派遣等を内容とする協定を締結するよう努める(同条第2項)
- 市町村と処理業者等との協定:市町村は、非常災害廃棄物適正処理業者との間で、市町村長の求めに応じて処理の委託を受けること等を内容とする協定を締結するよう努める(同法第6条の4)
- 非常災害廃棄物最終処分場の設置者の指定:都道府県知事は、一定の基準に適合する一般廃棄物最終処分場や、一般廃棄物処理施設としても設置されている産業廃棄物最終処分場の設置者を、申請に基づき「非常災害廃棄物最終処分場の設置者」として指定できる。指定を受けた設置者は、非常災害時に市町村から処分の委託を求められたときは、正当な理由がある場合を除き受託しなければならず、一方で定期検査は不要となる(同法第9条の3の4)
- 国による情報提供等:国は、非常災害廃棄物の適正な処理の円滑かつ迅速な実施に関する情報・技術的知識の市町村・都道府県への提供、調査研究・技術開発を推進する(同法第23条の2の2)
処理業者にとっては、平時に自治体と協定を結んでおくことが、災害時の協力の前提となる制度設計になっています。
平常時の許可制度との違いを理解しておく重要性
この特例はあくまで非常災害時という限定的な状況に適用されるものであり、平常時には通常どおり産業廃棄物処理業の許可が必要です。処理業者としては、特例の対象となる場面と、通常の許可が必要な場面の違いを正しく理解しておくことが、いざというときの円滑な対応につながります。自社が被災地域での災害廃棄物処理に協力する可能性がある場合には、通常の委託契約とは異なる法的枠組みで動くことになる点を、平時から把握しておくとよいでしょう。
処理施設に関する特例
非常災害時には、処理施設についても次のような特例があります。
- 産業廃棄物処理施設での一般廃棄物の処理:産業廃棄物処理施設の設置者は、処理する産業廃棄物と同様の性状を有する一般廃棄物を処理する場合、あらかじめ届け出れば一般廃棄物処理施設の設置許可を受けずに処理できますが、非常災害のために必要な応急措置として処理する場合は、処理を開始した後、遅滞なく届け出れば足ります(廃棄物処理法第15条の2の5)
- 非常災害に係る一般廃棄物処理施設の設置:市町村から非常災害廃棄物の処分の委託を受けた者(再受託者を含む)が、その処分を行うための一般廃棄物処理施設(最終処分場を除く)を設置しようとするときは、設置許可に代えて、所定の書類と生活環境影響調査の結果を添えた都道府県知事への届出で足りるとされています(同法第9条の3の3第1項)。繊維くずの破砕施設など生活環境保全上の支障が生ずるおそれの少ない施設として政令で定めるものは、生活環境影響調査の書類も不要です(同項括弧書き)
- 市町村の施設の事前協議:市町村は、非常災害時に非常災害廃棄物の処分のため設置が必要な一般廃棄物処理施設を一般廃棄物処理計画に定める際、あらかじめ都道府県知事に協議して同意を得ることができます(同法第9条の3の2)
排出事業者としても知っておきたいポイント
災害により事業所や工場が被災した排出事業者にとっても、この特例の存在は無関係ではありません。市町村や都道府県が災害廃棄物の処理主体となる場合、通常の産業廃棄物の処理委託とは異なる手順・窓口で廃棄物の搬出が行われることがあります。平時からの備えとして、自社が所在する自治体の災害廃棄物処理計画の有無や、災害発生時の廃棄物搬出に関する案内窓口を確認しておくことも、事業継続計画(BCP)の一環として有用です。都道府県・市町村の廃棄物処理計画には、非常災害時における施策に関する事項を定めることとされています(廃棄物処理法第5条の5第2項第5号、第6条第2項)。
事業場外での応急的な保管
建設工事に伴い生ずる産業廃棄物を事業場の外の300平方メートル以上の場所で保管する場合、通常は事前の届出が必要ですが、非常災害のために必要な応急措置として保管を行う場合は事前届出が不要とされ、保管をした日から起算して14日以内に届け出れば足ります(廃棄物処理法第12条第3項・第4項、施行規則第8条の2の3・第8条の2の7)。特別管理産業廃棄物についても同様です(同法第12条の2第3項・第4項)。ただし、事後の届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合は、20万円以下の過料の対象になります(同法第33条第1号)。
電子マニフェストの例外
電子マニフェストの使用義務者であっても、天災その他やむを得ない事由により電子情報処理組織を使用した登録・報告が困難な場合は、紙マニフェストの交付が認められます(施行規則第8条の31の4第1号)。国の通知は、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象によってインターネット回線を使用することができない場合や、電力会社による長期間の停電を例示しています(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の施行について(通知)」(平成30年3月30日環循適発第18033010号・環循規発第18033010号)第一3(1))。この場合は、マニフェストの備考・通信欄にその理由を記載する必要があります(施行規則第8条の21第1項第12号)。
まとめ
非常災害時の特例は、災害廃棄物の迅速な処理を可能にするための重要な仕組みです。ポイントを整理すると次のとおりです。
- 非常災害廃棄物は「生活環境の保全を図りつつ円滑かつ迅速に」「分別・再生利用で減量」が処理の原則
- 環境大臣・都道府県知事の委託(代執行)や、災害時に期間を定めた指定を受けた者は、産業廃棄物処理業の許可なく処理できる
- 市町村から非常災害廃棄物の委託を受けた者は、基準に従えば再委託が可能
- 令和8年9月施行の改正で、自治体と処理業者等との協定、非常災害廃棄物最終処分場の指定などの規定が加わった
- 応急措置としての場外保管は14日以内の事後届出、電子マニフェストは天災等の場合に紙で代替可能
平時の許可制度との違いを踏まえつつ、処理業者・排出事業者のいずれの立場でも、災害対応に関する法制度の動向に日頃から注目しておくとよいでしょう。
出典:
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(令和8年9月16日施行)(第2条の3、第4条の2、第5条の5、第5条の6の2、第6条、第6条の2、第6条の4、第7条、第9条の3の2〜第9条の3の4、第12条、第12条の2、第15条の2の5、第23条の2の2、第33条)
- 令和8年6月19日法律第43号 附則
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(第8条の2の3、第8条の2の7、第8条の2の8、第8条の3、第8条の21、第8条の31の4、第9条、第10条の3、第10条の11、第10条の15)
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の施行について(通知)(平成30年3月30日環循適発第18033010号・環循規発第18033010号)
