「県の環境担当の方から、来週事業場に立ち入りたいと連絡があった」
「廃棄物の処理状況について報告書を出すよう文書が届いた。出さないとどうなる?」
産業廃棄物に関わる事業者であれば、許可業者か排出事業者かを問わず、行政の立入検査や報告徴収を受ける可能性があります。これらは単なる「お願い」ではなく、拒否や虚偽報告には罰則がある、法律に基づく調査です。許可業者の場合は、拒否すれば事業停止処分の対象にもなり得ます。
この記事では、立入検査と報告徴収の法的な位置づけ、対象となる人や場所、行政が確認できる範囲、そして拒否した場合の罰則・行政処分を、国の「行政処分の指針」に沿って解説します。
第1章|報告徴収・立入検査とは
2つの調査権限
都道府県知事には、廃棄物処理法の施行に必要な限度で、次の2つの調査権限が与えられています。
| 権限 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 報告徴収 | 事業者、処理業者、処理施設の設置者その他の関係者に対し、廃棄物の処理や施設の構造・維持管理に関し、必要な報告を求める | 廃棄物処理法第18条第1項 |
| 立入検査 | 職員に、事業者、処理業者その他の関係者の事務所、事業場、車両、船舶その他の場所や処理施設のある土地・建物に立ち入らせ、帳簿書類その他の物件を検査させ、試験に必要な限度で廃棄物を無償で収去させる | 同法第19条第1項 |
国は「積極的な活用」を求めている
国の「行政処分の指針について(通知)」(平成30年3月30日環循規発第18033028号。以下「指針」)は、報告徴収も立入検査も、拒否等に罰則が適用されるなど法的効果を伴う処分であることから、積極的に活用するよう都道府県に求めています。報告を求める際・立入検査を行う際には、拒否・虚偽報告・妨害等に対して刑罰が科され得ることを相手方に明示することとされています(指針第6の1、第7の1)。
また指針は、違反行為の疑いが生じたときは、報告徴収を行政指導として行うのではなく、法的効果を伴う第18条に基づいて行い、立入検査も任意の行政調査としてではなく第19条に基づいて行うよう求めています(指針第2の3(1)①)。「任意のお願いだから断ってもよい」と考えるのは誤りです。
第2章|誰が対象になるのか
許可業者だけではない
指針によれば、報告徴収・立入検査の対象は、排出事業者、処理を業とする者、処理施設の設置者、その他の関係者と幅広く、「産業廃棄物の収集、運搬若しくは処分を業とする者」には、許可業者に限らず、二以上の事業者による処理の特例の認定業者、再生利用認定業者・広域認定業者、許可不要とされている者、さらには無許可業者も含まれるとされています(指針第6の2(1)、第7の2(1))。
「その他の関係者」には、不適正処理に関与しているものの自らは廃棄物の処理を行っていない者が広く含まれ、例えば次の者が該当するとされています(指針第6の2(1))。
- 自らの土地で不適正処理が行われることを承諾または黙認するなどして協力している土地の所有者・管理者・占有者
- 不適正処理を斡旋・仲介したブローカー
- 不適正処理を行った者に資金提供を行った者
「廃棄物ではない」と主張しても対象になり得る
廃棄物であることの疑いのある物の収集・運搬・処分を業とする者に対しても、報告徴収・立入検査を行うことができます。指針は、占有者が廃棄物ではないと主張している物であっても、通常その物がどのように取り扱われているかなどから、社会通念に照らして廃棄物である可能性があると判断できる場合には、「廃棄物であることの疑いのある物」として報告徴収を実施して差し支えないとしています(指針第6の2(1))。「有価物だから産廃の規制は関係ない」という主張で調査を拒むことはできません(有価物と廃棄物の判断については「産業廃棄物収集運搬業の許可は必要?」参照)。
他県の事業所にも立ち入られることがある
都道府県知事が立入検査を行わせることのできる事務所・事業場等は、その都道府県の区域内にあるものに限られないとされています(指針第7の2(2))。他の都道府県の区域内にある事務所等に立ち入る際は、特に許可業者の場合、その都道府県と事前に十分協議することとされています(同)。
第3章|立入検査で確認される範囲
指針は、立入検査で行えることを具体的に示しています(指針第7の2(3))。
- 帳簿書類その他の物件の検査
- 試験の用に供するのに必要な限度での廃棄物の無償収去(サンプルの採取)
- 立入検査の目的を達成するために必要な限度での写真撮影
- 「帳簿書類」には、経理的基礎を判断するための貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表、有価取引の真偽や事業支配の該当性を判断するための預金通帳・入出金伝票その他会計書類も含まれる
- 「その他の物件」には、えん堤、遮水シートなど処理施設そのものも含まれ、ボーリング調査や掘削調査も実施できる
立入検査を行う職員は、身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければなりません(廃棄物処理法第19条第3項、証明書の様式は廃棄物処理法施行規則第14条)。また、立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとされています(同条第4項)。
許可業者が日頃から整えておきたい書類
立入検査では、法令で作成・保存が義務付けられている書類が確認の中心になります。許可業者であれば、例えば次のものです。
- 帳簿(1年ごとに閉鎖し5年間保存)(施行規則第10条の8。「産廃収集運搬業者の帳簿の記載事項と保存方法」参照)
- マニフェスト・その写し(5年間保存)(施行規則第8条の30・第8条の30の2)
- 委託契約書(再委託した場合)、排出事業者の承諾書面
- 処理困難通知・廃止通知の写し(5年間保存)
- 許可証(車両には写し)
排出事業者であれば、委託契約書と添付書面(契約終了から5年間保存)、マニフェストの写し(5年間保存)が中心になります(施行令第6条の2第5号、施行規則第8条の4の3・第8条の21の2・第8条の26)。
行政書士の実務ポイント
立入検査の連絡を受けてから慌てて書類を探すと、保存漏れや記載漏れが目立ってしまいます。帳簿・マニフェスト・契約書を年度ごと・委託先ごとにファイリングし、「どこに何があるか」を担当者以外でも答えられるようにしておくことが、最大の備えです。
第4章|拒否・虚偽報告の罰則と行政処分
罰則
次の行為は、30万円以下の罰金の対象です(廃棄物処理法第30条第7号・第8号)。法人にも罰金刑が科されます(同法第32条第1項第2号)。
- 報告徴収に対して報告をしない、または虚偽の報告をする
- 立入検査・収去を拒み、妨げ、または忌避する
「実質的な拒否」も拒否とみなされる
指針は、明示的・黙示的に報告を拒否する場合だけでなく、報告内容に著しい報告漏れがあるなど、意図的かつ実質的な報告の拒否と判断される場合には、報告拒否として扱って差し支えないとしています(指針第6の2(3))。立入検査についても、積極的に拒否しなくても、実質的に立入検査ができない状態を積極的に生じさせるなど実質的に拒否・忌避に該当すると判断される場合は、検査拒否・忌避として扱って差し支えないとされています。従業者等による事実上の拒否・妨害・忌避も処罰の対象になり得るとされています(指針第7の2(4))。
なお、立入検査の権限は、相手方が拒否した場合にその抵抗を排除してまで実施することは許されないとされていますが、その場合は捜査機関と協議のうえで告発を行うなど、厳正に対処することとされています(指針第7の2(4)、第6の2(2))。
許可業者は「初回でも事業停止」が相当とされる
許可業者にとって特に重要なのが、行政処分との関係です。指針は、次のように明記しています(指針第6の2(4)、第7の2(5))。
許可を受けた処理業者による報告拒否又は虚偽報告については、たとえ初めての違反であっても、その悪質性は高く、直ちに事業停止処分を課すのが相当であり、さらに度重なる報告拒否又は虚偽報告については、「情状が特に重いとき」に該当するものとして、業の許可を取り消すのが相当であること。
立入検査の拒否・妨害・忌避についても、同様に厳格な行政処分で対処することとされています(指針第7の2(5))。罰金30万円で済む話ではなく、許可そのものを失いかねない、という点を強く意識しておく必要があります(「産業廃棄物処理業の行政処分(取消し・停止)の指針とは」参照)。
第5章|立入検査の後に何が起きるか
立入検査や報告徴収で違反が判明した場合、次のような行政対応につながることがあります。
- 改善命令:保管基準や処理基準に適合しない保管・処理が行われた場合、処理方法の変更その他必要な措置を講ずるよう命じられる。聴聞・弁明の手続は不要で、履行期限は具体的な日で指定される(廃棄物処理法第19条の3、指針第8)
- 措置命令:生活環境の保全上の支障が生じ、または生ずるおそれがある場合、支障の除去等の措置を命じられる(同法第19条の5、指針第9)
- 事業停止・許可取消し:許可業者の違反行為の内容に応じて(同法第14条の3、第14条の3の2)
指針は、行政処分を行うためには違反行為の事実を行政庁として客観的に認定すれば足り、行為者の主観的意思など詳細な事実関係が不明であることを理由に処分を留保すべきでないとし、事実認定のために立入検査・報告徴収・関係機関への照会を積極的に活用するよう求めています(指針第1の4(1))。
第6章|立入検査への備えは行政書士へ
ポイントをまとめます。
- 報告徴収(法第18条)と立入検査(法第19条)は、拒否・虚偽報告に罰則がある法的な調査
- 対象は許可業者に限らず、排出事業者、無許可業者、土地所有者、ブローカーなど幅広い
- 帳簿書類には財務書類や預金通帳も含まれ、写真撮影や廃棄物の収去、掘削調査も行われ得る
- 著しい報告漏れや実質的な妨害も、拒否として扱われ得る
- 許可業者の報告拒否・虚偽報告は初回でも事業停止、度重なれば許可取消しが相当とされる
三澤行政書士事務所では、立入検査に備えた帳簿・マニフェスト・契約書の点検や、報告徴収への回答書類の整理をサポートしています。東海エリアの事業者様は、お早めにご相談ください。
出典:
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(第14条の3、第14条の3の2、第18条、第19条、第19条の3、第19条の5、第30条、第32条)
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(第6条の2)
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(第8条の4の3、第8条の21の2、第8条の26、第8条の30、第8条の30の2、第10条の8、第14条)
- 行政処分の指針について(通知)(平成30年3月30日環循規発第18033028号)