「急ぎの案件だから、明日までに見積りを出してほしい」「図面はまだ固まっていないけど、とりあえず金額だけ教えて」——元請の担当者として、こんな依頼を下請業者さんにしていないでしょうか。

実は、建設業法では下請に見積りを依頼する段階から、元請が守るべきルールが決められています。見積りの期間が短すぎるだけで、はっきり「違反」とされる事例もあります。

この記事では、元請が下請に見積りを依頼するときのルールを、国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン(第12版)」に沿って整理します。


1. 見積依頼のルールはなぜあるのか

建設業法第20条第3項では、建設工事の注文者は、契約を結ぶ前に工事の具体的な内容を示し、そのうえで建設業者が見積りをするために必要な期間を設けなければならない、と定めています。

この規定のねらいについて、建設業法令遵守ガイドライン(第12版)1章は、次のように説明しています。

  • 契約の内容となる重要な事項を、あらかじめ下請に示すこと
  • 見積落としなどが起きないよう、検討する期間を確保すること
  • そのうえで下請が請負代金の計算や、契約するかどうかの判断をできるようにすること

つまり、「中身をきちんと見せる」「考える時間を与える」の2つがセットで求められているわけです。


2. 元請が示さなければならない「見積条件」

2-1. 契約書に書く事項のうち「請負代金以外のすべて」

元請が下請に示さなければならない内容は、建設業法第19条第1項で契約書に書くことが義務付けられている事項のうち、請負代金の額を除くすべての事項です(建設業法令遵守ガイドライン第12版 1章(1))。工事内容、工期、工事をしない日・時間帯を定める場合はその内容、前払金や出来高払の時期・方法などが含まれます。

2-2. 「工事内容」として最低限示すべき8項目

ガイドラインでは、「工事内容」について元請が最低限示すべき事項として、次の8つを挙げています(同1章(1))。

No.示すべき事項
①工事名称
②施工場所
③設計図書(数量等を含む)
④下請工事の責任施工範囲
⑤下請工事の工程と、下請工事を含む工事全体の工程
⑥見積条件、他の工種との関係部位、特殊部分に関する事項
⑦施工環境・施工制約に関する事項
⑧材料費、労働災害防止対策、建設副産物(建設発生土や産業廃棄物)の運搬・処理に関する元請・下請間の費用負担区分

まだ決まっていない事項がある場合は、「未確定である」ことをはっきり示さなければなりません。正当な理由がないのに具体的な内容を示さないと、建設業法第20条第3項違反になります(同1章(1))。

2-3. 口頭ではなく「書面やメール」で

ガイドラインでは、見積りを依頼するときは口頭ではなく、書面やメールなどで内容を示すべきだとしています。また、材料・機器・図面・書類・運搬・足場・養生・片付け・安全など、作業内容を明確にしておくべきだとされています(同1章(3))。

見積依頼と見積書のやり取りは、書面やメールで行い、元請・下請の双方が内容を確認して保管することが適切とされています(同1章(3))。


3. 法律で決まっている「最低限の見積期間」

3-1. 予定価格に応じた3段階

見積期間は、建設業法施行令第5条の9で次のように決められています。

工事1件の予定価格見積期間
500万円未満1日以上
500万円以上5,000万円未満10日以上
5,000万円以上15日以上

やむを得ない事情があるときは、10日・15日の期間は5日以内に限って短縮できます(同条ただし書)。

3-2. 期間の数え方

この期間は、下請に契約内容を示した日から、契約を結ぶ日までの間に設けなければならない期間です。ガイドラインでは、6月1日に契約内容を示した場合の例として、次のように説明しています(同1章(4))。

  • 500万円未満の工事 → 6月3日以降に契約
  • 500万円以上5,000万円未満の工事 → 6月12日以降に契約
  • 5,000万円以上の工事 → 6月17日以降に契約

なお、下請が期間の満了を待たずに自分から見積書を出してきた場合は別です。また、この期間はあくまで最短の期間で、十分な期間を設けることが望ましいとされています。

3-3. 「見積期間3日」は違反になる

ガイドラインでは、次の行為を「建設業法上違反となる行為事例」として挙げています(同1章)。

予定価格が700万円の下請契約を結ぶ際、見積期間を3日として見積りを行わせた場合

700万円の工事なら10日以上が必要なので、3日では足りません。

また、「できるだけ早く」のようなあいまいな期間の設定や、期間を設けないまま見積りをさせることも、違反のおそれがある行為とされています。


4. 違反となる・違反のおそれがある行為の例

ガイドラインの事例を、違反の度合いごとにまとめます(建設業法令遵守ガイドライン第12版 1章)。

違反となる行為

  • 予定価格700万円の工事で、見積期間を3日とした(第20条第3項違反)
  • 地下埋設物による土壌汚染を知りながら下請に伝えず、そのまま見積り・契約させた(第20条第3項・第20条の2第1項違反)

違反のおそれがある行為

  • 不明確な工事内容など、あいまいな見積条件で見積りをさせた
  • 「できるだけ早く」など、あいまいな見積期間を設定した、または期間を設けなかった
  • 見積条件について質問されたのに、回答しなかった・あいまいに答えた
  • 通常必要と認められる材料費・労務費などを著しく下回るような見積りの変更を求めた

望ましくない行為(下請側)

  • 材料費・労務費などの数量や単価の内訳がない見積書を出した
  • 法定福利費・安全衛生経費などの内訳を書かずに見積書を出した

5. 元請から下請へ「伝えなければならない情報」

令和6年の建設業法改正で、契約前に工期や請負代金に影響する事象の情報を通知する義務が加わりました(建設業法第20条の2)。

元請から下請へ通知しなければならないのは、次のような事象が起きるおそれがあると認めるときです(建設業法施行規則第13条の16第1項)。

  • 地盤の沈下、地下埋設物による土壌の汚染など、地中の状態に起因する事象(埋蔵文化財の調査などを含む)
  • 騒音、振動など、周辺環境への配慮が必要な事象

元請がこうした情報を知りながら下請に通知しなかった場合は、同条第1項違反となります(建設業法令遵守ガイドライン第12版 1章(2)ア)。通知は書面やメールで行い、双方で保存しておくことが望ましいとされています。

※下請から元請への通知(資材価格の高騰など)については、「資材高騰時の請負代金の変更協議」の記事で詳しく解説しています。


6. 追加工事の見積りにも同じルールが適用される

見落としがちなのが、追加工事や変更工事の見積りです。

ガイドラインでは、追加工事などで工期や請負代金が変わる場合も、追加工事に着手する前に書面やメールで見積りを依頼すること、当初契約と同じ注意点を守ることを求めています(同1章(7))。見積期間についても、追加工事の見積依頼で同じように設けなければならないとされています(同1章(4))。


7. よくあるご質問

Q1. 口頭で工事内容を伝えて見積りを頼むのはダメですか?

A. ガイドラインでは、口頭ではなく書面やメールなどで示すべきだとされています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 1章(3))。後からのトラブルを避けるためにも、図面や条件をまとめた書面で依頼しましょう。

Q2. 急ぎの工事なので、見積期間を短くできませんか?

A. やむを得ない事情があるときは、10日・15日の期間を5日以内に限って短縮できます(建設業法施行令第5条の9ただし書)。ただし、500万円未満の工事の「1日以上」は短縮の対象外です。

Q3. 下請に見積書を出してもらう義務はありますか?

A. 建設業者は、注文者から請求があったときは、契約が成立するまでに見積書(材料費等記載見積書)を交付しなければなりません(建設業法第20条第4項)。見積書の中身については「材料費等記載見積書と労務費に関する基準」の記事で解説しています。


8. まとめ|見積依頼の段階から法令遵守を

下請への見積依頼で押さえるべきポイントは、次のとおりです。

  • 請負代金以外の契約事項を、書面やメールで具体的に示す
  • 予定価格に応じて、1日・10日・15日以上の見積期間を設ける
  • 地盤や周辺環境に関する「おそれ情報」は、契約前に下請へ通知する
  • 追加工事の見積りでも同じルールを守る

「うちの見積依頼の書式は大丈夫だろうか」「社内のルールを整えたい」とお考えの元請企業様は、ぜひ当事務所へご相談ください。建設業法令遵守の観点から、見積依頼書や社内フローの見直しをお手伝いいたします。

建設業許可の取得・維持の全体像は、建設業許可ガイドもあわせてご覧ください。