地震や豪雨などの災害が起きたとき、地域の建設業者は復旧の最前線に立つことになります。「契約書を交わす前に、すぐ現場に入ってほしい」と頼まれることもあるでしょう。

この記事では、災害時の建設工事について、建設業法やガイドラインで明記されているルールを整理します。

本記事の範囲について
本記事は、国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン、「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」、監理技術者制度運用マニュアル、社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン、建設業法・同施行令に明記されている範囲に限って解説します。災害対応全般の実務(災害協定の結び方、各種補助制度、災害査定の手続きなど)は、本記事の範囲外とします。


1. 契約書の交付時期の例外

1-1. 原則は「着工前」

建設業法第19条第1項では、建設工事の請負契約の当事者は、契約内容を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付しなければならないと定めています。

建設業法令遵守ガイドライン(第12版)2-1章(1)では、この契約書面の交付は、「災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として下請工事の着工前に行わなければならない」としています。発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第8版)2-1章でも、同様に「災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として工事の着工前」としています。

1-2. 追加・変更工事も同じ

追加工事や変更工事に伴う契約変更についても、ガイドラインでは、「災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として追加工事等の着工前に契約変更を行うことが必要」としています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 2-2章(1))。

1-3. 例外はあくまで「着工前」の原則に対するもの

ガイドラインが示しているのは、着工前に交付するという原則の例外です。書面で契約すること自体が不要になるわけではありません。緊急で着工した場合でも、状況が落ち着いたら速やかに契約書面を交わしておくことが、後の代金トラブルを防ぐうえで重要です。


2. 営業停止期間中でも災害時の緊急工事はできる

「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」No.28では、営業停止期間中にできる行為の一つとして、「災害時における緊急を要する建設工事の施工」を挙げています。

営業停止期間中にできること・できないことの全体は、「営業停止期間中にできること・できないこと」の記事で解説しています。


3. その他、資料に明記されている災害時の取扱い

3-1. 契約書の「天災その他不可抗力」の条項

建設業法第19条第1項第7号では、契約書に「天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め」を記載することが求められています。災害で工期や損害に影響が出た場合は、この定めに従って協議することになります(建設業法令遵守ガイドライン第12版 2-1章(6))。

3-2. 現場技術者の雇用関係の要件の例外

公共工事では、元請の専任の技術者などについて、入札申込日などの前に3か月以上の雇用関係が必要とされています。監理技術者制度運用マニュアル(二-四(3)①)では、震災等の自然災害の発生またはそのおそれにより、最寄りの建設業者が即時に対応することが、その後の被害の発生や拡大を防ぐうえで最も合理的であって、その建設業者に要件を満たす技術者がいない場合など、緊急の必要その他やむを得ない事情がある場合は、この限りではないとしています。

3-3. 自然災害で工事が中止している期間の技術者の専任

監理技術者制度運用マニュアル(三(3)①)では、自然災害の発生などにより工事を全面的に一時中止している期間は、元請の技術者の現場への専任を要しない期間とされています(発注者との間で書面により明確になっていることが必要)。

この期間に限り、発注者の承諾があれば、同じ発注者の他の工事(元の工事の専任を要しない期間内に完了するもの)の専任技術者として従事することもできます。その際は、元の工事で災害などの非常時にどう対応するか(同じ会社の別の技術者が対応するなど)について、発注者の承諾を得る必要があります(同 三(3)③)。

3-4. 社会保険未加入の作業員の入場

社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン(第2(5))では、保険加入が確認できない作業員は原則として現場入場を認めない取扱いとしつつ、その例外となる「特段の理由」の一つとして、災害時等の緊急対応時の工事であり円滑な施工に著しい支障が生じる懸念がある場合を挙げています。ただし、入場を認めた場合も、加入指導は引き続き行うこととされています。

3-5. 経営事項審査を受けていない建設業者が請け負える応急工事

公共性のある施設・工作物に関する工事で政令で定めるものを発注者から直接請け負おうとする建設業者は、経営事項審査を受けなければなりません(建設業法第27条の23第1項)。ただし、この「政令で定める工事」を定めた建設業法施行令第45条では、対象から除かれる工事として、堤防の決壊、道路の埋没、電気設備の故障その他施設や工作物の破壊・埋没等で、放置すれば著しい被害を生ずるおそれのあるものによって必要を生じた応急の建設工事などを定めています。

3-6. 建設業者団体の役割

建設業法第27条の40では、建設業者団体は、災害が発生した場合に、被災地域の公共施設などの復旧工事が円滑かつ迅速に行われるよう、復旧工事を施工する建設業者と地方公共団体などとの連絡調整、資材や建設機械の調達に関する調整などの措置を講ずるよう努めなければならないとされています。

3-7. 入札での評価

地方公共団体向けの「発注者別評価点の活用による資格審査マニュアル」や総合評価方式のマニュアルでは、地域貢献の評価項目の例として、災害発生時の活動実績や防災協定の締結状況が挙げられています。入札での評価については「【愛知県版】公共工事入札制度の基礎知識!」もご覧ください。


4. まとめ

場面資料に明記されているルール
契約書の交付災害時等でやむを得ない場合は、「着工前」の原則の例外(書面契約自体は必要)
追加・変更工事同上
営業停止中災害時の緊急を要する工事は施工できる
契約書の条項天災その他不可抗力による工期変更・損害負担の定めを記載
技術者の雇用関係震災等で緊急の必要がある場合は、3か月要件の例外
技術者の専任自然災害で全面中止中の期間は専任不要
社会保険未加入作業員災害時の緊急対応は入場を認める「特段の理由」になり得る
経営事項審査放置すれば著しい被害を生ずるおそれのある応急工事は対象外

災害時は、スピードが最優先になりがちです。だからこそ、平時から契約書のひな形や、緊急時の社内ルールを整えておくことが大切です。「災害時の契約や書類の扱いを事前に整理しておきたい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。

関連記事:営業停止期間中にできること・できないこと/建設工事請負契約書の法定記載事項/追加工事・変更工事の契約書の交わし方