「現場で追加工事を頼まれて、口約束で施工した。後で請求したら、そんな金額では払えないと言われた」——追加工事をめぐるトラブルは、建設業の代金トラブルの典型です。
建設業法では、当初の契約だけでなく、追加工事や変更工事も書面で契約を変更しなければならないと定めています。この記事では、追加・変更契約の正しい交わし方を、建設業法令遵守ガイドライン(第12版)2-2章などに沿って解説します。
1. 追加・変更も「着工前に書面」が原則
建設業法第19条第2項は、請負契約の当事者は、契約内容のうち契約書の記載事項にあたるものを変更するときは、変更の内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならないと定めています。
ガイドラインでは、当初契約で内容を明確にしても、その後の変更が口約束で行われれば明確性・正確性が担保されず、紛争防止の観点から望ましくないため、災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として追加工事等の着工前に契約変更を行うことが必要だとしています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 2-2章(1))。
2. 違反となる6つの事例
ガイドラインでは、次の6つを建設業法第19条第2項違反となる事例として挙げています(同2-2章)。
- 価格変動時の契約変更の定めが、「契約後の増額や工期変更を認めない」など、実質的に契約変更の規定を置いていない
- 追加工事が発生したのに、元請が書面による変更契約をしなかった
- 追加工事について、着手後や終了後に書面で契約変更をした
- 追加工事を指示した元請が、発注者との契約変更が済んでいないことを理由に、下請契約の変更に応じなかった
- 下請の責任でないのに工期が短くなり、人員増などが必要になったのに、協議にも応じず一方的に変更契約をしなかった
- 代金が確定した契約について、納入時期の資材価格の下落を理由に、変更契約をしないまま一方的に減額した
また、違反の「おそれ」がある事例として、次の⑦も挙げられています。
- 下請が代金に影響する事象の発生を受けて変更協議を申し出たのに、元請が取引上の地位を不当に利用して一方的に協議に応じず、その結果、通常必要と認められる額に比べて著しく低い代金になった
②〜⑦(②〜⑤は必要な増額をしなかった場合、⑥は契約どおりに履行しなかった場合に限る)は、第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)に違反するおそれもあるとされています。
特に④の「発注者から追加代金をもらえていないから、下請の変更にも応じない」は、元請側でよくある対応ですが、ガイドラインでは合理的な理由のない一方的な対応として違反にあたるとされています(同2-2章(3))。
3. 金額・数量がすぐ決まらない場合の「3項目の書面」
現場では、追加工事の全体数量などが着工前には確定できないこともあります。その場合、ガイドラインでは、元請は次の3項目を記載した書面を、追加工事の着工前に下請と取り交わすこととしています(同2-2章(2))。
| No. | 記載事項 |
|---|---|
| ① | 下請に追加工事等として施工を依頼する工事の具体的な作業内容 |
| ② | 当該追加工事等が契約変更の対象となること、および契約変更等を行う時期 |
| ③ | 追加工事等に係る契約単価の額 |
そして、全体数量などの内容が確定した時点で、遅滞なく契約変更の手続きを行います。
この取扱いは、「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」No.22でも紹介されています。
4. 当初契約の段階で決めておくべきこと
ガイドラインでは、追加工事の協議をスムーズにするため、当初契約で、建設業法第19条第1項第6号の事項(設計変更や着手の延期・中止の申出があった場合の工期・代金の変更、損害の負担とその算定方法)をできる限り具体的に定めておくことが望ましいとしています(同2-2章(1))。
また、建設工事標準下請契約約款第16条では、設計や施工条件の疑義・相違を発見した下請は直ちに書面で元請に通知して確認を求め、元請は直ちに調査して結果を書面で通知するとされています。ガイドラインでは、お互いにこうした書面での通知を行うことが適切だとしています。
5. 注文書・請書で契約している場合の変更方法
注文書・請書で契約している場合の変更は、次のように行うことができます(同2-2章。「注文書及び請書による契約の締結について」2.)。
- 変更内容が注文書・請書の個別記載事項だけの場合:注文書・請書の双方に変更内容を明記し、注文者・請負者がそれぞれ署名または記名押印する(一定の要件を満たす基本契約がある場合は、署名・押印を省略できる場合があります)
- 個別記載事項以外も変わる場合:変更内容を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付する
注文書・請書による契約の要件は「注文書・請書で契約する場合の要件」の記事で詳しく解説しています。
6. 追加工事の見積りにもルールがある
追加工事で工期や代金が変わる場合、元請は着工前に書面やメールで見積りを依頼し、当初契約と同様に見積条件の提示や見積期間の確保を行う必要があります(同1章(4)(7))。
7. 契約書がないとどうなるか
「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」No.54では、口頭契約で代金を払ってもらえないという相談に対し、契約書を交わしていないこと自体が双方で建設業法違反であると注意を促しています。追加工事でも同じです。書面がなければ、後から追加分の代金を請求するときの根拠も弱くなってしまいます。
8. まとめ
- 追加・変更工事も、原則として着工前に書面で契約変更する
- 発注者との変更が済んでいないことは、下請の変更を拒む理由にならない
- 数量・金額が決まらないときは「作業内容」「変更の対象であることと時期」「契約単価」の3項目を書面で先に交わす
- 当初契約で、変更時の算定方法を具体的に決めておく
追加工事のトラブルは、書面1枚で防げることがほとんどです。「追加工事の合意書のひな形を作りたい」「現場で使える運用ルールを整えたい」という方は、ぜひ当事務所へご相談ください。