「元請の指示どおりに施工したのに、後から『やり直して』と言われた。費用はこちら持ちなのか?」——下請業者の方からよく聞く悩みです。
建設工事では、施工後に手戻り(やり直し)が発生することがあります。そのとき、費用を誰が負担するのかは大きな問題です。建設業法令遵守ガイドライン(第12版)8章では、この点についてはっきりした考え方を示しています。
1. 原則:下請の責任でなければ元請が負担
ガイドラインでは、元請が下請工事の施工後にやり直しを依頼する場合、やり直しが下請の責めに帰すべき理由によるものでない限り、その費用は元請が負担する必要があるとしています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 8章(1))。
そもそも元請には、下請と十分に協議し、明確な施工指示をするなど、手戻りが起きないように施工することが求められています。
2. 下請が負担すべき場合は「2つ」に限られる
元請が費用を全く負担せずに、下請にやり直しを求めることができるのは、次の場合に限られます(同8章(4))。
- 下請の施工が、契約書面に明示された内容と異なる場合
- 下請の施工に瑕疵等がある場合
2-1. 契約と違う・瑕疵があるとは言えないケース
さらにガイドラインでは、次の場合には、元請が費用の全額を負担せずに「契約と違う」「瑕疵がある」としてやり直しを求めることは認められないとしています(同8章(4))。
- 下請が施工内容をはっきりさせるよう求めたのに、元請が正当な理由なく明確にしないまま作業を続けさせ、後から「契約内容と違う」とした場合
- 下請が施工内容について確認を求め、元請が了承した内容どおりに施工したのに、後から「契約内容と違う」とした場合
つまり、元請の指示や了承に従って施工した結果のやり直しを、下請の責任にすることはできないということです。
3. 下請の責任でないやり直しには「契約変更」が必要
下請の責めに帰すべき理由がないのに、施工後にやり直しを依頼する場合、元請は速やかに必要な費用について十分に協議し、契約変更をしなければなりません(同8章(2))。
契約変更をしないままやり直し工事をさせた場合は、建設業法第19条第2項(契約内容の変更は書面で行う)に違反します。追加・変更契約の書面の交わし方については「追加工事・変更工事の契約書の交わし方」の記事で解説しています。
4. 違反となる対応
4-1. 一方的な費用負担の押し付け
ガイドラインでは、次の行為を違反のおそれがある事例として挙げています(同8章)。
元請負人が、元請負人と下請負人の責任及び費用負担を明確にしないままやり直し工事を下請負人に行わせ、その費用を一方的に下請負人に負担させた場合
これは建設業法第19条第2項、第19条の3第1項に違反するおそれがあり、同法第28条第1項第2号(不誠実な行為)に該当するおそれもあるとされています。
やり直し費用を押し付けた結果、当初工事とやり直し工事を合わせた下請代金が「通常必要と認められる原価」に満たなくなれば、取引依存度などによっては、不当に低い請負代金の禁止(第19条の3第1項)違反のおそれがあります(同8章(3))。
4-2. 別業者にやらせて代金から差し引く
赤伝処理の章でも、責任や費用負担を明確にしないまま別の専門工事業者にやり直し工事をさせ、その費用を一方的に下請代金から減額する行為が、違反のおそれがある事例として挙げられています(同9章)。
5. トラブルを防ぐための実務ポイント
ガイドラインの考え方を踏まえると、次のような対応がトラブル予防に役立ちます。
下請側
- 施工内容があいまいなときは、着手前に確認を求め、その回答を書面やメールで残す
- 元請の了承を得た内容・日時を記録しておく
元請側
- 施工内容・範囲を契約書や図面で明確にしておく
- やり直しを依頼するときは、原因と費用負担を協議し、書面で契約変更する
中小建設企業のための内部統制向上ガイドラインでも、担当者が急病で交代した際に設計変更の了解記録が引き継がれず、自社負担でやり直し工事をすることになった事例が紹介されています。発注者との確認事項は、記録を残すだけでなく共有・引継ぎのルールを決めておくことが大切です。
6. まとめ
- 下請の責任でないやり直しの費用は、元請が負担するのが原則
- 下請が費用を負担すべきなのは「契約と違う施工」「瑕疵がある施工」の場合に限られる
- 元請の指示や了承に従った施工は、後から「契約と違う」とは言えない
- 下請の責任でないやり直しには、書面による契約変更が必要
「やり直し費用の負担で元請ともめている」「自社の指示の出し方や記録の残し方を見直したい」という方は、当事務所へお気軽にご相談ください。