「工事は終わったのに、元請が代金を払ってくれない」「一次下請が倒産しそうで、二次下請のうちに代金が入ってこない」——工事代金の未払いは、建設業者にとって経営を揺るがす深刻な問題です。
この記事では、工事代金を払ってもらえないときに、どこに相談すればよいのかを、国土交通省の「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」と建設業法の規定に沿って整理します。
1. まず「建設業法違反」か「民事上のトラブル」かを整理する
未払いの相談先は、問題の性質によって変わります。
| 問題の性質 | 主な相談先 |
|---|---|
| 元請の建設業法違反のおそれ(支払期日違反など) | 元請の許可行政庁、駆け込みホットライン |
| 債権債務の認識の食い違いなど、民事上の契約トラブル | 法テラス、弁護士、建設業取引適正化センター、建設工事紛争審査会 |
国土交通省のFAQ No.36では、特定建設業者の元請が引渡し後50日以内に支払を完了していない場合は建設業法第24条の6違反のおそれがあるとして、元請の許可行政庁への相談や「駆け込みホットライン」での情報提供を案内しています。一方で、「相互の債権債務の認識に齟齬があるなど民事上の契約トラブル」については、法テラスや弁護士、建設業取引適正化センターへの相談を案内しています。
支払期日のルールは「下請代金の支払期日はいつまで?」の記事で解説しています。
2. ケース別の相談の流れ
2-1. 元請が代金を払ってくれない
まずは契約書を根拠に元請と交渉します。元請に建設業法違反のおそれがある場合は、元請に許可を出している許可行政庁に相談できます(FAQ No.36・No.54)。
2-2. 二次下請だが、一次下請が払ってくれない
FAQ No.53では、次の順で対応するよう案内されています。
- まず一次下請に、契約書に基づいて代金の支払を求める
- それでも支払われない場合は、元請に状況を相談する
- それでも解決しない場合は、元請に許可を出している許可行政庁に相談する
なお、特定建設業者である元請には、下請が労働者への賃金の支払を遅滞した場合に、許可行政庁から賃金相当額の立替払などを勧告される仕組みもあります(建設業法第41条第2項)。
2-3. 口頭契約で代金を払ってもらえない
FAQ No.54では、契約書は交わしておらず口頭契約だが、請求や支払のやりとりはメッセージアプリなどで証拠が残っている、というケースについて、次のように回答しています。
- 契約書を交わしていないこと自体が双方で建設業法違反なので注意すること
- 今後は必ず書面で契約書を交わすこと
- 元請の建設業法違反については「駆け込みホットライン」の情報収集フォームで情報提供ができる
- 民事上の契約トラブルは、法テラスや弁護士、建設業取引適正化センターへ相談する
2-4. 発注者として、元請とトラブルになっている
FAQ No.52では、発注者が元請の施工や工期についてトラブルになっている場合、契約書を根拠に元請と交渉し、元請に建設業法違反のおそれがある場合は許可行政庁へ、民事上のトラブルは法テラスや弁護士へ相談するよう案内しています。
3. 建設工事紛争審査会とは
3-1. 制度の概要
建設工事紛争審査会は、建設工事の請負契約に関する紛争の解決を図るため、建設業法に基づいて設置されている機関です(建設業法第25条)。紛争についてあっせん・調停・仲裁を行う権限を持っています。
| 審査会 | 設置場所 |
|---|---|
| 中央建設工事紛争審査会 | 国土交通省 |
| 都道府県建設工事紛争審査会 | 各都道府県 |
3-2. どちらの審査会に申請するか(管轄)
主な管轄は次のとおりです(建設業法第25条の9)。
中央審査会
- 当事者の双方が国土交通大臣許可の建設業者
- 当事者の双方が建設業者で、許可をした行政庁が異なる
- 当事者の一方だけが建設業者で、それが国土交通大臣許可
都道府県審査会
- 当事者の双方がその都道府県知事許可の建設業者
- 当事者の一方だけが建設業者で、それがその都道府県知事許可
- 当事者の双方または一方が許可を受けずに建設業を営む者で、現場がその都道府県内にある(一定の場合)
当事者の合意があれば、管轄の審査会を決めることもできます(同条第3項)。
3-3. あっせん・調停・仲裁の違い
| 手続き | 担当 | 内容 | 開始の条件 |
|---|---|---|---|
| あっせん | あっせん委員 | 当事者の間をあっせんし、双方の主張の要点を確かめ、解決に努める(第25条の12) | 当事者の双方または一方の申請(第25条の11) |
| 調停 | 3人の調停委員 | 当事者の出頭を求めて意見を聴き、調停案を作成して受諾を勧告できる(第25条の13) | 当事者の双方または一方の申請 |
| 仲裁 | 3人の仲裁委員(うち1人以上は弁護士資格者) | 仲裁判断を行う。仲裁法が適用される(第25条の19) | 当事者双方の申請、または仲裁に付する合意に基づく一方の申請(第25条の18) |
仲裁では、当事者の申出により、相手方が持つ契約関係の文書・物件の提出を求めたり、工事現場などへの立入検査をしたりすることができます(第25条の20・第25条の21)。
調停と仲裁の手続きは非公開です(第25条の22)。
3-4. 申請の方法
申請は書面で、中央審査会へは国土交通大臣を、都道府県審査会へは都道府県知事を経由して行います(建設業法第25条の10)。申請書には、当事者の氏名・住所、許可行政庁と許可番号、あっせん・調停・仲裁を求める事項、紛争の問題点と交渉経過の概要などを記載し、証拠書類があれば添付します(建設業法施行令第13条)。一方からの仲裁申請には、仲裁に付する旨の合意を証する書面が必要です。
中央審査会の申請手数料は、求める事項の価額に応じて建設業法施行令第26条で定められています。都道府県審査会の手数料については、本記事の元にした資料の範囲外のため、各都道府県の案内をご確認ください。
3-5. 時効や訴訟との関係
- あっせん・調停が打ち切られた場合、通知を受けた日から1か月以内に訴えを提起すれば、時効の完成猶予については、あっせん・調停の申請時に訴えを提起したものとみなされます(第25条の16)
- 訴訟中でも、審査会のあっせん・調停が行われているなどの場合、当事者の共同の申立てにより、裁判所が4か月以内の期間を定めて訴訟手続を中止することができます(第25条の17)
4. 契約書の「紛争の解決方法」を確認する
建設業法第19条第1項第15号では、請負契約書に「契約に関する紛争の解決方法」を記載することが求められています。いざというときにどの手続きを使うかは、契約書の定めも確認しましょう。仲裁は当事者の合意が前提になるため、契約時の定めが重要です。
5. 未払いを防ぐために
- 着工前に契約書(追加工事も書面)を交わす
- 見積書・打合せ記録・請求のやりとりを保存する
- 検査日・引渡し日を記録する(元請は帳簿に記載する義務がある)
6. まとめ
- 建設業法違反の問題は許可行政庁や駆け込みホットライン、民事上のトラブルは法テラス・弁護士・建設業取引適正化センター・紛争審査会
- 二次下請の未払いは、一次下請→元請→許可行政庁の順で相談
- 建設工事紛争審査会では、あっせん・調停・仲裁を利用できる
- 口頭契約は双方が建設業法違反。まずは書面契約の徹底を
「未払いの相手方に建設業法違反がないか整理したい」「紛争審査会の申請書類を準備したい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。