「社会保険料の負担が重いので、社員に独立してもらって一人親方として外注したい」「一人親方に仕事を出すとき、契約書は必要?」——一人親方との取引について、こうしたご相談をいただくことがあります。

「偽装一人親方」が行政から厳しく指導されていることは、「【愛知県版】建設業許可の「社会保険加入要件」を行政書士が解説!」でも触れました。この記事では、一人親方に工事を発注する側の立場から、発注前の確認、契約の結び方、現場での扱いを、国土交通省の「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」などに沿って解説します。


1. なぜ一人親方が問題になっているのか

下請指導ガイドライン第1では、社会保険加入対策や労働関係法令の規制強化に伴い、法定福利費などの労働関係経費の削減を意図して、技能者を個人事業主化(一人親方化)する動きが進んでいると指摘しています。

こうした規制逃れの一人親方化は、技能者の処遇低下だけでなく、法定福利費をきちんと負担していない企業ほど競争上有利になるため、公平・健全な競争環境を損なうとされています(同第2(9))。

また、令和6年4月1日以降は建設業にも時間外労働の上限規制が適用されるため、請負人として扱うべき者かどうかをより適切に判断する必要があるとされています(同第1)。


2. 建設業界が目指す「一人親方の基本的な姿」

下請指導ガイドライン第1では、令和2年度の「建設業の一人親方問題に関する検討会中間取りまとめ」を踏まえ、一人親方の基本的な姿を次のように示しています。

請け負った工事に対し自らの技能と責任で完成させることができる現場作業に従事する個人事業主

技能としては、相当程度の年数の実務経験があり多様な立場を経験していること、専門工事の技術に加え安全衛生などの知識を身につけ、職長クラス(CCUSレベル3相当)の能力があることなどが望まれるとしています。

責任としては、建設業法や社会保険関係法令、事業所得の納税など各種法令を守ること、適正な工期・金額で契約していること、請け負った工事を完遂すること、他社からの信頼や経営力があることなどが望まれるとしています。


3. 形式が請負でも、実態が雇用なら建設業法の請負契約ではない

下請指導ガイドラインでは、一人親方との契約の形式が請負契約であっても、実態が元請企業の指揮監督下で労務を提供し、労務の提供として対価が支払われるものであれば、建設工事の完成を目的とした請負契約にはあたらず、建設業法の適用を受けないとしています(第2(9)・第4(1))。

監理技術者制度運用マニュアル(二-一(2))でも、「請負契約」は仕事の完成を約束し結果に報酬を支払う契約であり、使用者の指揮命令に従って労務を提供し、完成のリスクを負わない「雇用」とは区別される、と説明しています。

さらに、事業主が労務関係経費の削減を意図して、それまで雇用していた労働者と個人事業主として請負契約を結ぶことは、実態に照らして労働者にあたる場合、偽装請負として職業安定法などの労働関係法令に抵触するおそれがあるとされています(下請指導ガイドライン第2(9))。


4. 実態が雇用労働者と疑われる3つの例

下請指導ガイドライン第2(9)では、実態が雇用労働者なのに一人親方として仕事をさせていることが疑われる例として、次の3つを挙げています。

  1. 年齢が10代の技能者で、一人親方として扱われている
  2. 経験年数が3年未満の技能者で、一人親方として扱われている
  3. 働き方自己診断チェックリストで確認した結果、雇用労働者にあてはまる働き方をしている

1と2については、未熟な技能者の処遇改善や技能向上の観点から、ひとまず雇用関係へ誘導していく方針とされています。

これらに該当する場合、元請企業は、その建設企業に雇用契約の締結、働き方に合った社会保険の加入、法定福利費の確保を促すこととされています。再三の指導に応じず改善が見られない場合は、その建設企業の現場入場を認めない取扱いとされています。

なお、令和8年度以降、経験年数やCCUSレベルが一定未満の技能者が一人親方として扱われている場合など、「適正でない一人親方」の目安を策定することを目指すとされています。


5. 逆のパターンにも注意

下請指導ガイドライン第2(9)では、雇用契約を結んでいないのに自社の社員として扱うことも適正ではないとして、次の例を挙げています。

  • 請負契約を結び社会保険にも加入していないが、会社のヘルメット・ユニホーム・名刺などを支給され、表向きは社員と呼ばれている
  • 雇用契約を結んでおらず社会保険にも加入していないが、作業員名簿上は社員(雇用)とされている

これらは、働き方の実態をチェックリストで確認し、実態に合った扱い(労働者にあたるなら雇用契約を結び、各種法令を遵守)にすべきとされています。


6. 働き方自己診断チェックリストの使い方

下請指導ガイドラインの別紙4「働き方自己診断チェックリスト」は、現場作業に従事する際の実態を確認するためのもので、次の者が使うことを想定しています。

記入者使い方
雇用契約を結ばずに建設工事に従事する一人親方契約する工事ごとに、その工事を完成させる際の働き方を確認する。契約相手の建設企業名・担当者名を記入
一人親方と直接請負契約を結ぶ建設企業工事を発注する前に、その一人親方の働き方を確認する。一人親方の氏名を記入

確認の結果、「B」が多くあてはまる場合は雇用契約の締結を検討することとされています。記入者は元請企業などにチェックリストを提出し、電子媒体での提出も可能です。


7. 一人親方と契約するときの注意点

7-1. 発注前に働き方を確認

一人親方と契約する前に、チェックリストで働き方を確認し、労働者にあたる働き方と認められる場合は、雇用契約の締結と社会保険の加入を行うこととされています(下請指導ガイドライン第2(9))。正社員だけでなく、工期に合わせた期間の定めのある契約社員とすることもあり得るとされています。

7-2. 見積書・契約書を必ず交わす

元請企業が直接一人親方と請負契約を結ぶ場合は、建設業法を守って取引の適正化に努め、見積書を事前に交わすこと、請負契約書を書面で交付することを徹底することとされています(同第2(9))。請負金額は、雇っている同種の社員の賃金に必要経費を加えた適切な報酬が支払われるよう努めるべきとされています。

建設業法令遵守ガイドライン(第12版)2-1章(1)でも、従業員を使用しない個人などの「特定受託事業者」への業務委託で給付内容・報酬額・支払期日などの明示が求められていることを踏まえ、元請は個人事業主である建設業者との取引で契約書面を提示することが求められる、としています。

7-3. 一人親方側も材料費等記載見積書を

国土交通省の通知「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」(令和7年12月16日)では、下請負人は材料費等を適切に反映した請負代金で一人親方と書面で契約すること、一人親方も自ら負担すべき材料費等を見積もり、材料費等記載見積書を事前に交わすことが求められています。

7-4. 下請の一人親方も確認対象

一人親方として下請企業と請負契約を結んでいるため雇用保険に加入していない作業員がいる場合、元請は下請企業に対し、一人親方との関係を記載した再下請負通知書と請負契約書の提出を求め、契約内容が適切か確認するとともに、一人親方本人に現場での働き方を確認することとされています(下請指導ガイドライン第2(9))。

7-5. 安全面の指導には従う

一人親方には現場作業の進め方などに裁量がありますが、元方事業者には労働安全衛生法などに違反しないよう関係請負人を指導する義務があるため、その指導には従う必要があるとされています(同第4(2))。


8. まとめ

  • 形式が請負でも、実態が雇用なら建設業法上の請負契約にはあたらず、偽装請負のおそれもある
  • 10代、経験3年未満、チェックリストで雇用にあてはまる一人親方は要注意
  • 発注前にチェックリストで働き方を確認し、必要なら雇用契約へ
  • 一人親方と契約する場合も、見積書と書面の請負契約書を交わす

「外注している一人親方の扱いが適切か確認したい」「一人親方との契約書を整えたい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。

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