「下請との取引には下請法が適用されるんですよね?」「資材屋さんへの支払も建設業法の60日ルールの対象?」——建設業者の方から、こうした質問をよくいただきます。

実は、建設業の取引には、取引の種類によって適用される法律が異なるという特徴があります。令和8年1月からは下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」に改められ、用語も変わりました。

この記事では、建設業者が関わる主な法律の適用範囲を整理します。


1. 取引の種類と適用される法律

建設業法令遵守ガイドライン(第12版)などの記載をもとに整理すると、次のようになります。

取引の種類主に適用されるルール
建設工事の請負(元請・下請間を含む)建設業法(+独占禁止法)
建設工事に使う資材の製造委託、設計図などの作成委託取適法(旧下請法)の対象となり得る
資材の購入(売買契約)建設業法の下請代金の規定は適用されない
資材業者、建設機械・仮設機材の賃貸業者、警備業者、運送事業者などとの取引受託中小企業振興法・振興基準による配慮が求められる
従業員を使用しない個人(特定受託事業者)への業務委託特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律

2. 建設工事の請負には「取適法」は適用されない

ガイドラインでは、受託中小企業振興法について「建設工事の請負が適用されない取適法よりも、対象となる取引の範囲が広くなっている」と説明しています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 14-5章)。つまり、建設工事の請負契約そのものには取適法は適用されず、建設業法で規律されるという整理です。

そのため、元請・下請間の建設工事の取引では、見積り・契約書・支払期日・手形などのルールは建設業法の規定(第19条〜第24条の6など)で確認することになります。

2-1. 契約が「建設工事の請負」でない場合は取適法の可能性

「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」No.40では、振込手数料の一方的な差引きについて回答したうえで、「契約内容が建設工事請負契約に該当しない場合は、中小受託取引適正化法が適用される可能性があります」とし、公正取引委員会への確認を案内しています。

2-2. 資材の購入は建設業法の手形ルールの対象外

同 No.11では、建設業法の手形期間60日のルールの対象は「建設工事の請負契約に係る下請代金の支払い」であり、資材購入のような売買契約には適用されないと回答しています。


3. 独占禁止法との関係

3-1. 建設業法第42条の措置請求

建設業法第42条では、建設業者が次の規定に違反し、その事実が独占禁止法第19条(不公正な取引方法)にも違反すると認められるときは、許可行政庁が公正取引委員会に措置請求できると定めています(ガイドライン14-1章)。

  • 第19条の3第1項(不当に低い請負代金の禁止)
  • 第19条の4(不当な使用資材等の購入強制の禁止)
  • 第24条の3第1項(下請代金の支払)
  • 第24条の4(検査及び引渡し)
  • 第24条の6第3項・第4項(特定建設業者の手形・支払期日)

これらの規定は、建設業法第28条第1項の指示処分の根拠となる規定からは除かれており、独占禁止法と連携して是正を図る仕組みになっています。

3-2. 公正取引委員会の「認定基準」

公正取引委員会は、「建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準」を定めています。ガイドラインでは、次のような対応関係が示されています(14-1章)。

ガイドラインの項目認定基準の項目
追加・変更契約、工期変更、不当に低い請負代金、やり直し工事など不当に低い請負代金、不当減額
指値発注不当に低い請負代金
不当な使用資材等の購入強制購入強制
赤伝処理不当減額
支払保留・支払遅延注文者から支払を受けた場合の下請代金の支払、特定建設業者の下請代金の支払
長期手形交付手形の制限

3-3. 価格の据え置きと優越的地位の濫用

ガイドラインでは、公正取引委員会の考え方として、労務費や原材料費などのコスト上昇分について、明示的に協議しないまま価格を据え置くことや、値上げ要請に対して理由を書面等で回答せずに据え置くことが、独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の1つに該当するおそれがあると紹介しています(同5章(3))。

3-4. 通報者への報復は二重に禁止

下請が違反を通報したことを理由に取引停止などの不利益な取扱いをすることは、建設業法第24条の5で禁止されているほか、認定基準でも定められており、独占禁止法違反にも該当するとされています(同12章)。


4. 受託中小企業振興法・振興基準

受託中小企業振興法は、受託中小企業の育成・振興のための支援法で、取適法より対象取引の範囲が広いとされています(ガイドライン14-5章)。

建設工事の分野では、発注者・元請負人が「委託事業者」、元請負人・下請負人が「中小受託事業者」にあたり、建設資材の製造委託や設計図などの作成委託も該当するとされています。そのため、元請・下請間だけでなく、資材業者、建設機械・仮設機材の賃貸業者、警備業者、運送事業者などとの取引でも、振興基準に示す事項への配慮が求められています。

振興基準では、次のような点が定められていることが紹介されています(ガイドライン、「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」令和7年12月16日 国土交通省通知)。

  • 合意の有無にかかわらず、銀行口座への振込手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引いてはならない
  • ファクタリングなどで支払う場合は、支払期日までに代金の満額を受け取れるようにする
  • 約束手形をできる限り利用しないよう努める

5. 一人親方などとの取引

ガイドラインでは、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)で、従業員を使用しない個人などの「特定受託事業者」に業務委託をした場合、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面やメールで直ちに明示しなければならないとされていることを踏まえ、元請負人は個人事業主である建設業者との取引で、契約内容や条件を示した契約書面を提示することが求められる、としています(同2-1章(1))。


6. 「下請」という用語の見直し

前述の令和7年12月16日の通知では、令和8年1月1日施行の取適法で「下請」などの用語が見直されていること、建設業界でも取引の相手方を「協力会社」「パートナー」と呼ぶ動きがあることに触れています。


7. まとめ

  • 建設工事の請負契約は建設業法で規律され、取適法は適用されない
  • 資材の購入は売買契約で、建設業法の下請代金・手形の規定の対象外
  • 契約内容が建設工事の請負にあたらない場合は、取適法が適用される可能性がある
  • 支払遅延や不当減額などは、建設業法と独占禁止法の両面から是正が図られる
  • 資材業者・運送業者などとの取引でも、振興基準への配慮が求められる

「この取引にはどの法律が適用されるのか」「契約書の形式を見直したい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。

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