「うちは特定建設業許可を持っているけど、下請に120日の手形を出しても大丈夫?」「資材屋さんへの支払も60日以内にしないといけないの?」——手形のサイト(期間)について、こうした質問をよくいただきます。

令和6年11月から、建設業法上の「割引困難な手形」の運用が変わり、手形期間60日が新しい基準になりました。この記事では、このルールが「どの取引に適用されるのか」を中心に整理します。

※特定建設業者の義務の全体像は、特定建設業許可を取得するには?の記事もあわせてご覧ください。


1. ルールの中身

建設業法第24条の6第3項は、特定建設業者は、自らが注文者となった下請契約の下請代金の支払について、支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならない、と定めています。

国土交通省の通知「手形期間の短縮について」(令和6年4月30日)により、令和6年11月1日以降に交付される手形期間が60日を超える手形は、この「割引困難な手形」に該当するとして、同項違反のおそれがあるものとされました。それまでは120日超が基準でした。


2. 対象になる取引・ならない取引

「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」No.9〜11をもとに、対象かどうかを整理します。

2-1. 対象になる取引

次の条件をすべて満たす取引が対象です(建設業法第24条の6第1項・第3項、建設業法施行令第7条の2)。

  • 支払う側(注文者)が特定建設業者であること
  • その特定建設業者が注文者となった建設工事の下請契約であること
  • 受け取る側(下請負人)が、特定建設業者でも資本金4,000万円以上の法人でもないこと

2-2. 対象にならない取引

ケース理由
特定建設業許可を持っているが、自社が下請として取引している自社が注文者ではない(よくあるご質問 No.9)
一般建設業許可業者が元請として取引している注文者が特定建設業者ではない(同 No.9)
資材の購入代金の支払建設工事の請負ではなく売買契約(同 No.11)

ただし、対象外の取引であっても、「手形期間の短縮について」では、手形期間を60日以内に短縮する、下請代金の支払をできる限り現金にするなど、サプライチェーン全体で支払手段の適正化に努めることが求められています。


3. 60日を超えたら直ちに罰則?

「よくあるご質問」No.10では、60日を超えたことをもって直ちに「割引困難な手形」と認定されるわけではないが、許可行政庁により「割引困難な手形」のおそれがあると認定された場合は指導の対象になる、と説明されています。

建設業法令遵守ガイドライン(第12版)11章でも、手形期間60日を超える長期手形を交付した場合は「割引を受けることが困難である手形の交付」と認められる場合があり、その場合は第24条の6第3項に違反するとしています。

なお、第24条の6第3項は、許可行政庁の指示処分の根拠となる規定(建設業法第28条第1項)からは除かれており、違反の事実が独占禁止法第19条にも違反すると認められるときに、公正取引委員会への措置請求の対象となる仕組みです(建設業法第42条)。


4. 手形で払うときの注意点

4-1. 労務費相当分は現金で

下請代金のうち労務費に相当する部分は、現金で支払うよう適切な配慮をしなければなりません(建設業法第24条の3第2項)。国土交通省の通知「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」(令和7年12月16日)では、少なくとも労務費相当分(社会保険料の本人負担分を含む)は現金払とし、手形等による支払は慎むこととされています。

4-2. 割引料を下請に負担させない

同通知では、手形等で支払う場合、現金化にかかる割引料などのコストを下請の負担にしないよう、これを勘案した下請代金の額を十分協議して決めることとされています。協議の際、元請は「支払期日に現金で払う場合の金額」「手形で払う場合の金額と割引料等のコスト」を示すこととされています。

4-3. ファクタリング等の一括決済方式

「手形期間の短縮について」では、ファクタリングなどの一括決済方式についても、サイトを60日以内にすること、加入は下請事業者の自由な意思によること、三者契約によることを徹底するよう求められています。


5. 約束手形の利用廃止に向けた流れ

前述の令和7年12月16日の通知では、次のような動きが紹介されています。

  • 振興基準で、約束手形をできる限り利用しないよう努めること、サプライチェーン全体で約束手形の利用廃止に向けた取組を進めることとされている
  • 令和8年の約束手形の利用廃止等に向けた取組を促進する旨が閣議決定されている
  • 建設業界でも、発注者を含めた関係者全体で、前金払等の充実、振込払・電子記録債権への移行、支払期間の短縮などに取り組むことが重要とされている

また、令和8年1月1日から、改正後の「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)により、製造委託等の代金について手形の交付が禁止されています。建設工事の請負契約には取適法は適用されませんが、資材の製造委託などの取引では注意が必要です(建設業法令遵守ガイドライン第12版 10-2章・14-5章)。取適法との関係は「建設工事と中小受託取引適正化法・独占禁止法の適用範囲の違い」の記事で解説しています。


6. まとめ

  • 令和6年11月以降、特定建設業者が下請に60日超の手形を交付すると「割引困難な手形」として違反のおそれ
  • 対象は「特定建設業者が注文者」「建設工事の下請契約」「下請が資本金4,000万円未満など」の取引
  • 自社が下請の立場の取引や、資材の売買契約は対象外(ただし短縮の努力は求められる)
  • 労務費相当分は現金で、割引料は下請に負担させない

「自社の支払条件がルールに合っているか確認したい」「支払手段を見直したい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。

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