令和6年に改正された建設業法が、令和7年12月12日に全面施行されました。その中でも、建設業者の日々の実務に直結するのが「材料費等記載見積書」と「労務費に関する基準」です。
「見積書の書き方まで法律で決まったの?」「一式見積りはもう使えないの?」——そんな疑問をお持ちの方に向けて、この記事では新しい見積ルールを、法令と国土交通省の資料に沿って整理します。
1. 材料費等記載見積書とは
1-1. 建設業法第20条第1項の努力義務
改正後の建設業法第20条第1項では、建設業者は請負契約を結ぶ際に、次の内容を記載した見積書(=材料費等記載見積書)を作成するよう努めなければならない、とされています。
- 工事の種別ごとの材料費
- 労務費
- 当該工事に従事する労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費
- その他工事の施工に必要な経費の内訳
- 工事の工程ごとの作業とその準備に必要な日数
金額だけでなく、「何日かかるか」も見積書に書くことが求められている点がポイントです。
1-2. 「不可欠な経費」の中身
「適正な施工を確保するために不可欠な経費」は、建設業法施行規則第13条の12で次の3つと定められています。
| 経費 | 内容 |
|---|---|
| 法定福利費 | 建設工事に従事する者の健康保険料などの事業主負担額 |
| 安全衛生経費 | 建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する経費 |
| 建設業退職金共済契約の掛金 | いわゆる建退共の掛金 |
1-3. 見積書に最低限示すべき内訳
建設業法令遵守ガイドライン(第12版)1章(5)では、下請負人が見積書に最低限明示するよう努めるべき事項として、次の6つを挙げています。
- 材料費(元請が支給する場合はその旨)
- 労務費
- 法定福利費(事業主負担分)
- 安全衛生経費
- 建設業退職金共済掛金
- 必要となる作業日数
ガイドラインでは、材料費・労務費の数量や単価の内訳がない見積書や、法定福利費・安全衛生経費の内訳がない見積書を出すことは「望ましくない行為」とされています(同1章)。
2. 見積書をめぐる3つのルール
材料費等記載見積書には、作成の努力義務のほかに、次のルールがセットで定められています。
ルール① 通常必要な額を「著しく下回る」見積りをしてはならない
見積書に書く材料費等の額は、通常必要と認められる額を著しく下回ってはなりません(建設業法第20条第2項)。受注したいがために、無理な安値の見積りを出すこと自体が規制の対象になっています。
ルール② 注文者は見積書の内容を考慮する
注文者は、見積書の内容を考慮するよう努めるものとされています。また、建設業者は注文者から請求があれば、契約成立までに見積書を交付しなければなりません(建設業法第20条第4項)。注文者の承諾を得れば、電子メールなどで提供することもできます(同条第5項)。
ルール③ 注文者は著しく下回る変更を求めてはならない
注文者は、見積書を交付した建設業者に対し、材料費等の額が通常必要な額を著しく下回るような変更を求めてはなりません(建設業法第20条第6項)。
発注者がこれに違反して契約を結んだ場合、一定額以上の工事(500万円以上、建築一式工事は1,500万円以上。建設業法施行令第6条の2)であれば、許可行政庁が発注者に勧告できる仕組みも設けられています(建設業法第20条第7項)。
3. 「労務費に関する基準」との関係
3-1. 労務費の「ものさし」になる基準
見積りの場面で「通常必要と認められる材料費等の額」かどうかを判断する際、労務費については、中央建設業審議会が勧告した「労務費に関する基準」(令和7年12月)が指標になるとされています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 1章(6))。
著しく下回るかどうかは、基準との乖離の状況、その理由、元請・下請の協議の状況などを総合的に考えて個別に判断されます。なお、労務費や労務単価が最低賃金を下回るほど低い場合は、当然に「著しい乖離」と判断されるとされています(同1章(6))。
3-2. 違反のおそれがある例
ガイドラインでは、次の行為を違反のおそれがある例として挙げています(同1章)。
下請負人が「労務費に関する基準」を踏まえ、適正な労務費を確保した見積りを出したのに、元請負人がその内容を尊重せず、通常必要な労務費を著しく下回るおそれのある見積りの変更を求めた場合
3-3. 国土交通省が示す様式例
「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」(令和7年12月16日 国土交通省通知)では、「『労務費に関する基準』の運用方針」(令和7年12月10日公表)の別紙として、専門工事業者向け見積書の「様式例」と「書き方ガイド」が示されていることが紹介されています。各専門工事業団体には、これを使った標準見積書の作成・活用が依頼されています。
また、同通知では、「労務費に関する基準」において、公共工事設計労務単価が経験・技能に応じた賃金として支払われた場合に考えられる「CCUSレベル別年収」が適正な賃金として位置づけられていることにも触れています。
4. 「作業日数」の見積りも重要
材料費等記載見積書には、工程ごとの作業日数も記載します。
ガイドラインでは、下請負人は「工期に関する基準」で考慮すべき事項とされている週休2日や猛暑日などの自然要因を踏まえて作業日数を見積もる必要があり、元請負人はその見積りを考慮するよう努めなければならないとしています(同1章(6))。特に近年の酷暑を踏まえ、猛暑日を考慮した作業日数の見積りが強調されています。
5. 見積書と打合せ記録は「10年保存」
令和7年12月12日からは、帳簿とあわせて保存すべき「営業に関する図書」に、次の2つが加わりました(建設業法施行規則第26条第5項第4号・第5号)。
- 材料費等記載見積書を作成したときは、その見積書
- 契約締結前に必要に応じて作成した、見積書の内容に関する注文者との打合せ記録(当事者が相互に交付したもの)
これらは、工事の目的物の引渡しから10年間保存しなければなりません(建設業法施行規則第28条第2項。建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問 No.12)。電子データでの保存も認められています(同規則第26条第8項)。
帳簿の保存義務の全体像は「建設業の帳簿の備付けと保存期間」の記事で解説しています。
6. 一人親方との取引でも見積書を
前述の国土交通省通知(令和7年12月16日)では、下請負人が一人親方と契約する際も、材料費等を適切に反映した請負代金で書面により契約すること、一人親方自身も材料費等を見積もって材料費等記載見積書を事前に交わすことが求められています。
7. よくあるご質問
Q1. 「一式」の見積書は違法になったのですか?
A. 材料費等記載見積書の作成は「努めなければならない」という努力義務です(建設業法第20条第1項)。ただし、内訳のない見積書はガイドラインで「望ましくない行為」とされていますし、注文者から請求されれば見積書の交付は義務になります(同条第4項)。できる限り内訳を明示した見積書を用意しておくことをおすすめします。
Q2. 元請として、下請に見積書の提出を求めるべきですか?
A. 社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインでは、元請負人は見積条件を示す際に、材料費等記載見積書を提出するよう明示しなければならないとしています。提出された見積書は尊重して契約することが求められます。
Q3. 見積書はどのくらいの期間保存すればよいですか?
A. 材料費等記載見積書と、その内容に関する打合せ記録は、引渡しから10年間の保存が必要です(建設業法施行規則第26条第5項・第28条第2項)。
8. まとめ
- 建設業者は、材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金・作業日数などの内訳を示した見積書の作成に努める
- 通常必要な額を著しく下回る見積りをしてはならず、注文者もそのような変更を求めてはならない
- 労務費の判断には「労務費に関する基準」が指標になる
- 見積書と打合せ記録は10年間保存する
新しい見積ルールへの対応は、見積書の書式や社内の保存ルールの見直しから始まります。「自社の見積書の様式をどう変えればよいか」「保存体制を整えたい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。
関連記事:下請への見積依頼のルール/建設業許可ガイド