「元請に言われた金額で受けるしかない」「仕事を取るために、多少の赤字は覚悟で受注する」——建設業界では珍しくない話かもしれません。

しかし、建設業法では、原価を割り込むような請負代金での契約を規制しています。そして令和6年の改正で、この規制は受注者(請け負う側)にも及ぶことになりました。

この記事では、「不当に低い請負代金の禁止」のルールを、建設業法令遵守ガイドライン(第12版)に沿って解説します。


1. 建設業法第19条の3の2つのルール

建設業法第19条の3は、次の2つの項で構成されています。

条文対象内容
第1項注文者(発注者・元請など)自己の取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を結んではならない
第2項建設業者(受注者)正当な理由がある場合を除き、通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を結んではならない

第2項が、令和6年改正で加わった受注者側の規制です。国土交通省の通知「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」(令和7年12月16日)でも、「改正法により、建設工事の注文者に加え、当該建設工事の受注者についても、こうした請負契約を締結することが禁止された」と明記されています。


2. 「通常必要と認められる原価」とは

2-1. 原価に含まれるもの

ガイドラインでは、「通常必要と認められる原価」を次のように定義しています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 4章(3))。

当該工事の施工地域において当該工事を施工するために一般的に必要と認められる価格(直接工事費、共通仮設費及び現場管理費よりなる間接工事費、一般管理費(利潤相当額は含まない。)の合計額)

具体的には、下請負人の実行予算、再下請先や資材業者との取引状況、その地域の同種工事の請負代金の実例などから判断されます。

2-2. 法定福利費・安全衛生経費・副産物処理費も「原価」

次の費用も、「通常必要と認められる原価」に含まれるとされています(同14章)。

  • 社会保険・労働保険の保険料(法定福利費)
  • 建設業退職金共済の掛金
  • 労働災害防止対策に要する経費
  • 建設副産物の運搬・処理に要する経費

これらを一方的に削って契約し、その結果原価割れになれば、第19条の3違反のおそれがあります。


3. 注文者側の違反:「取引上の地位の不当利用」

3-1. 優越的な地位とは

第1項の違反となるには、注文者が「自己の取引上の地位を不当に利用」したことが必要です。ガイドラインでは、下請にとって取引の継続が難しくなると事業経営に大きな支障が出るため、著しく不利益な要請でも受け入れざるを得ないような場合をいい、大口取引先にあたる元請は優越的地位に該当する可能性が高いとしています(同4章(2)ア)。

3-2. 違反のおそれがある9つの事例

ガイドラインが挙げる、第19条の3第1項違反のおそれがある事例は次のとおりです(同4章)。

  1. 自社の予算額だけを基準に、協議せずに下請の見積額を大幅に下回る額で契約した
  2. 「契約しないなら今後の取引で不利に扱う」とほのめかし、従来の取引価格を大幅に下回る額で契約した
  3. 下請代金を増額しないまま追加工事をさせた
  4. 契約後に、取り決めた代金を一方的に減額した
  5. 合意なく「端数処理」と称して一方的に減額した
  6. 見積書に明示された法定福利費を一方的に削除した、または法定福利費を賄えない金額で契約した
  7. 発注者提出用に法定福利費を適正に見積もらせた見積書を作らせ、実際は法定福利費を削った見積書で契約した
  8. 契約単価を一方的に示し、合意なくその単価で積算した額で契約した
  9. 下請からの変更協議の申出に一方的に応じず、著しく低い額になった

3-3. 契約後の「変更」にも適用される

この規制は、当初契約だけの話ではありません。契約後に下請の責めによらない事情で工事内容や代金を変える必要が出たのに変更しない、一方的に減額する、協議に応じないといった行為で原価割れの金額を押し付けることも、第19条の3第1項に該当するとされています(同4章(4))。


4. 受注者側の違反:自ら原価割れで受けてはいけない

4-1. なぜ受注者も規制されるのか

ガイドラインでは、下請負人が自ら原価に満たない金額で契約し、さらに再下請をすると、再下請負人にも原価割れ工事を求める可能性が高くなり、重層下請構造全体で不公正な請負代金が連鎖的に広がる、と説明しています(同4章(5))。その結果、技能労働者の賃金支払いに影響が出ることが懸念されています。

4-2. 原価割れが許される「正当な理由」

受注者の原価割れ契約が許される「正当な理由」は、建設業法施行規則第13条の11で次の3つに限られています。

  1. 自らが保有する低廉な資材を建設工事に用いることができること
  2. 先端的な技術や蓄積された知識・技術・技能を活用することで、工事原価の低減が図られていること
  3. 原価に満たない金額で契約することについて、緊急の必要その他やむを得ない事情があること

「仕事がほしいから」「付き合いだから」は、この正当な理由にはあたりません。

4-3. 契約後も「適正な変更」を求める

契約後に下請の責めによらない事情で代金を変える必要が出た場合も、正当な理由がある場合を除き、原価割れにならないよう適正な契約変更を図らなければならず、元請に変更の協議を申し入れることが求められます(同4章(5))。


5. 違反した場合どうなるか

違反した場合の扱いは、第1項(注文者)と第2項(受注者)で異なります。

  • 第1項(注文者)の違反:建設業者が第19条の3第1項に違反し、それが独占禁止法第19条にも違反すると認められるときは、許可行政庁から公正取引委員会へ措置請求が行われることがあります(建設業法第42条。ガイドライン14-1章)。なお、同法第28条第1項の指示処分の根拠となる「この法律の規定」からは第19条の3第1項が除かれています。ただしガイドラインでは、指値発注や一方的な赤伝処理などについて、情状によっては同法第28条第1項第2号の「請負契約に関する不誠実な行為」に該当するおそれがあるとしています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 6章・9章)。
  • 第1項(注文者)の違反・発注者の場合:発注者(独占禁止法上の事業者にあたる者を除く)が第19条の3第1項に違反した場合、特に必要があると認めるときは、許可行政庁が発注者に勧告できます(建設業法第19条の6第1項)。
  • 第2項(受注者)の違反:第19条の3第2項は、第28条第1項で除外されている規定には含まれていません。そのため、同項に違反した建設業者は、許可行政庁による指示処分などの対象になり得ます(建設業法第28条第1項)。

一方的に原価割れの金額で契約させられた場合は、「駆け込みホットライン」から情報提供ができるとされています(建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問 No.37)。


6. まとめ

  • 注文者は、取引上の地位を不当に利用して原価割れの請負代金を押し付けてはならない
  • 令和6年改正で、受注者も正当な理由なく原価割れで請け負ってはならなくなった
  • 原価には法定福利費・安全衛生経費・副産物処理費なども含まれる
  • 契約後の変更局面にもこのルールは適用される

「赤字受注が常態化している」「元請との価格交渉をどう進めればよいか分からない」という事業者様は、まずは当事務所へご相談ください。法令やガイドラインに沿った交渉のポイントや、見積書・契約書の整え方をアドバイスいたします。

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