「契約書のひな形を探していたら、『民間工事標準請負契約約款』に甲と乙があった。どちらを使えばいいの?」「下請との契約書は自社で作ったもので大丈夫?」——契約書の整備を考えている事業者様から、こうした質問をいただきます。

建設工事の請負契約書のひな形として、中央建設業審議会が作成・勧告している「標準請負契約約款」があります。この記事では、その種類と使い分け、下請契約で押さえておきたい条項を解説します。


1. 標準請負契約約款とは

建設業法第34条第2項では、中央建設業審議会は、建設工事の標準請負契約約款などを作成し、その実施を勧告できると定めています。

国土交通省の資料や通知などで言及されている主な約款は、次の3つです。

約款想定される取引
公共工事標準請負契約約款公共工事の発注者と受注者の間の契約
民間工事標準請負契約約款(甲)・(乙)民間工事の発注者と受注者の間の契約
建設工事標準下請契約約款元請負人と下請負人の間の契約

発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第8版)には公共工事標準請負契約約款と民間工事標準請負契約約款(甲)が、建設業法令遵守ガイドライン(第12版)には建設工事標準下請契約約款が、関連条文として収録されています。


2. 民間約款の「甲」と「乙」の違い

「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」No.20では、次のように説明されています。

  • 「甲」:比較的規模の大きい工事を想定
  • 「乙」:戸建てなど規模の小さい工事を想定

具体的な金額の目安があるわけではないため、内容を確認して、施工する内容に合った約款を使うよう案内されています。

自由に使ってよいのか

同 No.21では、「民間工事標準請負契約約款」は自由に利用できると回答されています。


3. 下請契約は「標準下請契約約款」に準拠するのが基本

3-1. ガイドラインの考え方

建設業法令遵守ガイドライン(第12版)2-1章(5)では、建設業法第18条(対等な立場での公正な契約)の趣旨を踏まえ、下請契約では建設工事標準下請契約約款またはこれに準拠した内容の契約書で契約することが基本だとしています。

同(8)では、下請に一方的に義務を課すものや、元請の裁量が大きく下請に過大な負担を課す内容など、標準下請契約約款に比べて片務的な内容の契約は、不当に低い請負代金(建設業法第19条の3)につながる可能性が高く、適当ではないとしています。

「建設産業における生産システム合理化指針」でも、建設工事の開始に先立って、建設工事標準下請契約約款またはこれに準拠した内容の契約書で契約を締結することが求められています。

3-2. 準拠しないと違反になる条項

ガイドラインでは、請負代金額の変更について定めた標準下請契約約款第22条に相当する内容が規定されていない契約は、建設業法第19条第1項に違反するとしています(2-1章(5))。


4. 標準下請契約約款で押さえたい条項

ガイドラインや国土交通省の通知で言及されている条項を紹介します。

第16条(設計・施工条件の疑義)

設計や施工条件の疑義・相違を発見した下請は、直ちに書面で元請またはその監督員に通知して確認を求め、元請は直ちに調査して結果を書面で下請に通知する、とされています(ガイドライン2-2章(1))。

第17条(工期の変更)

元請は、工期を変更するときは、変更後の工期を通常必要と認められる期間に比べて著しく短い期間としてはならない、とされています。ガイドラインでは、当初契約でこの規定を明記しておくことが重要だとしています(3-1章(3))。

第22条(請負代金額の変更)

請負代金額の変更について定めた条項です。これに相当する内容がない契約は、前述のとおり違反となります。

第2条の2(コミットメント条項)

国土交通省の通知「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」(令和7年12月16日)では、建設工事標準請負契約約款が改正され、受注者が注文者に対し、雇用する技能者や直接の下請に適正な賃金・労務費を支払うこと等を約束し、必要に応じて注文者が支払に関する書類の提出を求めることができる条項(コミットメント条項)が新設されたと紹介されています。

ガイドラインでは、条文(A)を選択した場合の下請負人の義務として、次の4つを挙げています(10-2章)。

  1. 雇用する技能者に適正な賃金を支払うこと
  2. 直接の下請契約の相手方に適正な労務費を支払うこと
  3. コミットメント条項を含む下請契約を締結すること
  4. ①〜③を実施したことに関する書面を提出すること

なお、この条項は元請に直接の契約関係のない二次下請の労務費の確認・指導を求めるものではなく、二次下請のコミットメント違反について元請の責任が問われるものではないとされています。

請負代金内訳書

同通知では、改正後の建設工事標準請負契約約款で、受注者が注文者に提出する請負代金内訳書に、法定福利費の事業主負担分に加え、材料費、労務費、安全衛生経費、建退共の掛金を内訳明示することとされたと紹介されています。


5. 約款を使うときの注意点

  • 約款はあくまで標準的なひな形であり、個々の工事の内容に合わせて確認・調整が必要です
  • 建設業法第19条第1項の記載事項がすべて盛り込まれているか確認しましょう
  • 一般的には元請の方が立場が強いため、元請から適切な内容の契約書面を提示することが望ましいとされています(ガイドライン2-1章(1))

6. まとめ

  • 公共工事・民間工事(甲・乙)・下請の3種類の標準約款がある
  • 民間約款の「甲」は比較的大規模、「乙」は戸建てなど小規模な工事を想定しており、自由に利用できる
  • 下請契約は標準下請契約約款またはこれに準拠した契約書が基本
  • 代金変更の第22条に相当する内容がない契約は違反
  • 令和7年の改正で、コミットメント条項や請負代金内訳書の内訳明示が加わった

「自社の契約書が標準約款とどう違うのか確認したい」「コミットメント条項を導入すべきか相談したい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。

関連記事:建設工事請負契約書の法定記載事項/著しく短い工期の禁止とは?/資材高騰時の請負代金の変更協議