「竣工日は動かせないから、残りの工程は詰めてやってほしい」「土日も作業すれば間に合うでしょう」——こうした工期の押し付けは、建設業法で禁止されている「著しく短い工期」にあたる可能性があります。

令和6年4月からは、建設業にも罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されています。工期の設定は、もはや現場の努力だけで何とかなる問題ではありません。

この記事では、著しく短い工期の禁止のルールを、建設業法令遵守ガイドライン(第12版)3章などに沿って解説します。


1. 建設業法第19条の5の内容

条文対象内容
第1項注文者通常必要と認められる期間に比べて著しく短い期間を工期とする請負契約を結んではならない
第2項建設業者(受注者)同上

令和6年改正で、注文者だけでなく受注者も著しく短い工期で契約してはならないとされました(「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」令和7年12月16日 国土交通省通知)。この規定は、すべての建設工事の請負契約に適用されます。


2. 「著しく短い」の判断基準

2-1. 単に「日数が短い」ではない

ガイドラインでは、「著しく短い期間」とは、単に定量的に短い期間を指すのではなく、「工期に関する基準」(中央建設業審議会勧告)などに照らして不適正に短く設定された期間をいうとしています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 3-1章(2))。

2-2. 総合的に判断される要素

具体的には、下請契約ごとに、次のような資料や事情をもとに総合的に判断されます(同3-1章(2))。

  • 工期基準で求められる元請・下請の責務の遂行状況
  • その工期で契約した事情、双方の工期に関する考え方
  • 過去の同種・類似工事の実績
  • 賃金台帳 など

そのうえで、「工期基準を踏まえていないために短くなり、下請が違法な長時間労働などの不適正な状態で施工することになっていないか」「過去の同種工事や下請の見積りより短く、その結果、違法な長時間労働などになっていないか」といった観点で判断されます。

2-3. 合意していても違反になるケース

ガイドラインでは、時間外労働規制を上回る違法な時間外労働を前提とした工期は、たとえ元請・下請が合意していても「著しく短い工期」と判断され、双方が第19条の5第1項・第2項に違反するおそれがあるとしています(同3-1章(2))。

「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」No.41でも、土日休みがまったく取れない工期設定の工事について、時間外労働規制に抵触する違法な長時間労働など不適切な状態で施工する場合は著しく短い工期に該当し、受注した場合も違反のおそれがあるとしています。


3. 違反となる・違反のおそれがある7つの事例

ガイドラインの事例は次のとおりです(同3-1章)。 違反のおそれがある行為(第19条の5第1項)

  • 1. 発注者から早期の引渡しを求められたため、下請に一方的にかなり短い期間を示し、その期間で契約した
  • 2. 「工期に関する基準」を考慮せず、複数の下請の見積りのうち最も短い工期を一方的に採用して契約した
  • 3. 下請が猛暑日などの不稼働日や休日を考慮して適切な工期を見積もったのに、元請がそれを尊重せず、かなり短い工期で契約した
  • 4. 工事の一時中止や前工程の遅れなど下請の責めによらない理由で工期を変更する際、かなり短い工期で契約した
  • 5. 設計変更や数量追加の指示、図面承認の遅れなど下請の責めによらない理由で工期が不足しているのに、工期変更や人員増をしなかった
  • 6. 下請が工期に影響する事象について変更協議を申し出たのに、一方的に協議に応じず、かなり短い工期になった

違反となる行為(第19条の5第1項または第2項)

  • 7. 時間外労働の上限規制に抵触するような長時間労働を前提とした短い工期で契約した

4. 契約後の工期変更にも適用される

第19条の5は、当初契約だけに適用されるわけではありません。契約後に下請の責めによらない理由で工期を変更する必要があるのに変更しない、変更後に著しく短い工期を新たに設定する、協議に応じずに短い工期を押し付ける、といったことも該当します(同3-1章(3))。

ガイドラインでは、工期の変更時は紛争が起きやすいため、当初契約で建設工事標準下請契約約款第17条(元請は工期変更の際、変更後の工期を著しく短い期間にしてはならない)の規定を明記しておくことが重要だとしています。


5. 下請も「自ら」短い工期で受けてはいけない

下請が自ら著しく短い工期で契約し、さらに再下請をすると、再下請にも短い工期を求める可能性が高くなり、重層下請構造全体で連鎖的に短い工期が広がる——ガイドラインはこう指摘しています(同3-1章(4))。

そのため、下請は著しく短い工期で契約してはならず、契約後に下請の責めによらない事情で工期変更が必要になった場合も、元請に協議を申し入れることが求められます。


6. 工期を決めるときに考慮すべき事項

「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」(建設業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議)では、工期設定にあたって、工事の規模・難易度・地域の実情・自然条件などに加え、次のような条件を適切に考慮するとしています。

  • 建設工事に従事する者の休日(週休2日に加え、祝日、年末年始、夏季休暇)
  • 労務・資機材の調達や調査・測量、現場事務所の設置などの「準備期間」
  • 施工終了後の自主検査、後片付け、清掃などの「後片付け期間」
  • 降雨日、降雪・出水期などの作業不能日数
  • 用地買収や建築確認など、工事着手前に発注者が対応すべき手続きの期間
  • 過去の同種類似工事で当初の見込みより長い工期を要した実績

同ガイドラインでは、受注者は「工期のダンピング」(その工期では適正な施工が通常見込まれない契約)を行わないこと、下請契約でも週休2日などを考慮した適正な工期を設定し、後工程にしわ寄せがいかないよう配慮することも求めています。

また、前述の国土交通省通知(令和7年12月16日)では、令和6年3月に改定された「工期に関する基準」で、受注者は時間外労働規制を守った適正な工期の見積りを作成して提出するよう努め、発注者はその見積りを確認し尊重することが盛り込まれたと紹介されています。


7. 契約書の「工事を施工しない日・時間帯」

建設業法第19条第1項第4号では、工事を施工しない日や時間帯を定めるときは、その内容を契約書に記載することとされています。定めない場合は記載不要です。

前述の通知では、天候などで予定外の施工が必要になる場合に備え、「天候等の影響によっては、協議のうえ、あらかじめ定めた工事を施工しない日・時間帯にも施工できる」旨を記載するなど、柔軟に対応することが示されています。


8. 発注者への勧告制度

建設業者と一定額以上(500万円以上、建築一式工事は1,500万円以上。建設業法施行令第5条の8)の請負契約を結んだ発注者が第19条の5第1項に違反した場合、特に必要があると認めるときは、許可行政庁が発注者に勧告でき、従わなければその旨を公表できます(建設業法第19条の6第2項・第3項)。


9. まとめ

  • 著しく短い工期での契約は、注文者も受注者も禁止されている
  • 「著しく短い」は、工期に関する基準などに照らして不適正かどうかで判断される
  • 違法な長時間労働を前提とした工期は、合意があっても違反
  • 契約後の工期変更にも適用され、下請も自ら短い工期で受けてはならない

「工期の押し付けで困っている」「時間外労働規制を踏まえた見積りや契約書の整え方を知りたい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。

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