「契約後に資材価格が上がって、このままでは赤字になる」「元請に増額をお願いしても、契約金額は変えられないと言われた」——資材や労務の価格上昇が続くなか、こうした相談が増えています。

令和6年の建設業法改正では、価格変動に備えるための仕組みとして、契約前の「おそれ情報」の通知と、契約後の変更協議のルールが整備されました。この記事では、その内容を法令とガイドラインに沿って解説します。


1. 仕組みの全体像

段階内容根拠
契約書価格等の変動に基づく工事内容・請負代金の変更とその算定方法を記載する建設業法第19条第1項第8号
契約前受注者は、資材高騰などのおそれがあると認めるときは、注文者に通知する同法第20条の2第2項
契約後通知した事象が発生したら、受注者は変更協議を申し出ることができる同条第3項
契約後注文者は、正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応じるよう努める同条第4項

2. 契約書の「価格変動条項」

2-1. 必ず記載する事項

建設業法第19条第1項第8号では、契約書に「価格等の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め」を記載することが求められています。

建設業法令遵守ガイドライン(第12版)2-1章(2)では、算定方法の書き方として、「(元請負人と下請負人が)協議して定める」とするほか、合意のうえで「協議に当たっては、工事に係る価格等の変動の内容その他の事情等を考慮する」旨を書くことが考えられる、としています。

2-2. 「変更しない」は違反

この事項を契約書に書かないことはもちろん、書いていても「変更しない」「変更を認めない」のように協議を前提としない規定である場合は、建設業法第19条第1項に違反するとされています(同2-1章(2))。

「建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問」No.16でも、この第8号の書き方について国土交通省の資料が案内されています。


3. 契約前の「おそれ情報」の通知

3-1. 通知が必要な事象

受注者(下請から見れば自社)が通知しなければならないのは、次の事象が天災その他不可抗力により発生するおそれがあると認めるときです(建設業法施行規則第13条の16第2項)。

  1. 主要な資機材の供給の不足・遅延、または資機材の価格の高騰
  2. 特定の建設工事の種類における労務の供給の不足、または価格の高騰

「主要」かどうかは、工事で数量的・使用頻度的に大部分を占めるか、工事原価で大きな比重を占めるか、などで判断されます(建設業法令遵守ガイドライン第12版 1章(2)イ)。

3-2. 根拠情報をセットで

通知には、事象の状況を把握するための「根拠情報」を添える必要があります。ガイドラインでは、根拠情報として次のような一定の客観性のある資料を挙げています(同1章(2)イ)。

  • メディア記事、資材業者の記者発表
  • 公的主体や業界団体が作成・更新する統計資料
  • 下請業者や資材業者から出された、過去の同種工事の見積書など価格の上昇がわかる資料

一方、1社の資材業者の「口頭」だけの情報のように、注文者が真偽を確認しにくいものは根拠情報にあたりません。通知の際は、資機材の種類や価格の基準日とともに、情報源を明示する必要があります。なお、把握している範囲の公表資料を示せば足り、新たな調査までは不要とされています。

3-3. 通知の方法

通知は書面で行います。見積書を作成するときは、情報を記載した書面を添付して見積書を交付します(建設業法施行規則第13条の17第2項)。ガイドラインでは、見積書の交付時などにあわせて書面やメールで行い、双方で保存しておくことが望ましいとしています。

3-4. 通知するかどうかは受注者の判断

おそれ情報を通知するか、どの範囲を通知するかは、工事の内容や工期に応じて受注者が判断してよいとされています。ただし、条文の書きぶりから、通知から事象の発生までには相当の期間があると解されるため、工期の比較的短い工事でこうしたおそれが生じることは一般的には想定しにくい、ともされています(同1章(2)イ)。


4. 契約後の変更協議

4-1. 注文者には誠実な協議の努力義務

通知した事象が契約後に実際に発生した場合、受注者は変更協議を申し出ることができ、注文者は正当な理由がある場合を除き誠実に協議に応じるよう努めなければなりません(建設業法第20条の2第3項・第4項)。

ガイドラインでは、次のような対応は第20条の2第4項の趣旨に反するとしています(同2-1章(7))。

  • 正当な理由なく協議の開始自体を拒む
  • 合理的な期間を超えて協議の開始をあえて遅らせる
  • 受注者の主張を一方的に否定する、十分に聞かずに協議を打ち切る

4-2. 通知していなくても協議を拒む理由にはならない

事前に通知していなかった事象でも、契約後に生じた事象について変更協議を申し出た場合、「通知されていなかった」ことだけを理由に注文者が協議を拒むことはできないとされています(同2-1章(6))。

4-3. 協議に応じないと違反のおそれ

原材料費などが高騰しているのに、元請が正当な理由なく協議や変更契約に応じなかった場合は、第19条第2項違反、第19条の3(不当に低い請負代金)・第19条の5(著しく短い工期)違反のおそれがあるとされています(同5章)。

ガイドラインでは、公正取引委員会の考え方として、次の2つの行為が独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の1つに該当するおそれがあることも紹介しています(同5章(3))。

  1. コスト上昇分の取引価格への反映について、明示的に協議することなく従来どおりに価格を据え置くこと
  2. 取引価格の引上げを求められたのに、価格転嫁しない理由を書面やメールで回答せずに据え置くこと

5. 協議を進めるための実務ポイント

  • 契約書の第8号の条項が「協議を前提とした書き方」になっているか確認する
  • 見積書を出すときに、主要資材の価格動向などのおそれ情報を根拠資料とともに書面で通知する
  • 協議の申出や回答は、書面やメールで記録を残す
  • 変更協議が長引く場合は、必要に応じて工期の見直しも行う(同2-1章(6))

また、元請が発注者との間で代金の変更を受けた場合は、通知の有無にかかわらず、自らの下請とも適切に協議することが重要だとされています(「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」令和7年12月16日 国土交通省通知)。


6. まとめ

  • 契約書には価格変動時の変更と算定方法を記載し、「変更しない」とする条項は違反
  • 受注者は、資材・労務の価格高騰などのおそれを、根拠情報とともに契約前に書面で通知する
  • 事象が発生したら変更協議を申し出ることができ、注文者は誠実に応じるよう努める
  • 協議を拒み続けると、不当に低い請負代金などの違反のおそれがある

「おそれ情報の通知書をどう作ればよいか」「契約書の価格変動条項を見直したい」という事業者様は、お気軽に当事務所へご相談ください。

関連記事:建設工事請負契約書の法定記載事項/原価割れ契約の禁止とは?/著しく短い工期の禁止とは?