「この工事、〇〇万円でお願いね。見積りはいらないから」「他社はもっと安かったから、この金額に合わせて」——下請業者の方なら、一度はこうした言葉を聞いたことがあるかもしれません。

元請が一方的に金額を決めて下請に契約させることを「指値(さしね)発注」といいます。建設業法令遵守ガイドライン(第12版)では、指値発注について独立した章を設け、どのような行為が問題になるかを示しています。

この記事では、指値発注が建設業法上どう扱われるのか、元請・下請それぞれが知っておくべきポイントを解説します。


1. 指値発注とは

ガイドラインでは、指値発注を次のように説明しています(建設業法令遵守ガイドライン第12版 6章)。

元請負人が下請負人と十分な協議をせず又は下請負人の協議に応じることなく、元請負人が一方的に決めた請負代金の額を下請負人に提示(指値)し、その額で下請負人に契約を締結させる

建設業法第18条は、請負契約の当事者は「各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結」しなければならない、と定めています。指値発注は、この対等な合意という原則をなくしてしまう行為だと位置づけられています。


2. 違反となる・違反のおそれがある7つの事例

ガイドラインが挙げる事例は次のとおりです(同6章)。

違反のおそれがある行為

  1. 元請が自社の予算額だけを基準に、下請と協議せず、一方的に提供・貸与した安全衛生保護具などの費用や下請代金の額を決めて契約した
  2. 合理的な根拠がないのに、下請の見積額を著しく下回る額を一方的に決めて契約した
  3. 複数の下請から出た見積金額のうち、最も低い額を一方的に下請代金として決めて契約した
  4. 見積書の労務費や法定福利費の内容を検討せず、一律〇%を差し引くなどして契約した
  5. 免税事業者の下請に対し、消費税相当額を含まない単価を一方的に示し、協議せずにその単価で契約した

違反となる行為

  1. 代金の合意がない段階で下請に着工させ、施工途中や完了後に協議に応じないまま一方的に代金を決めて契約した
  2. 見積期間を設けず、自社の予算額を示してその場で契約するかどうか判断させ、その額で契約した

①〜⑦はいずれも、建設業法第19条の3第1項(不当に低い請負代金の禁止)に違反するおそれがあり、同法第28条第1項第2号(請負契約に関する不誠実な行為)に該当するおそれもあるとされています。さらに、⑥は同法第19条第1項(書面による契約)、⑦は同法第20条第3項(見積期間の確保)に違反します。


3. 指値発注が問題になる3つの理由

3-1. 原価割れの請負代金につながる

指値発注は、元請の地位の不当な利用にあたると考えられています。その結果、下請代金が「通常必要と認められる原価」に満たない金額になると、取引依存度などによっては、建設業法第19条の3第1項違反のおそれがあります(同6章(1))。

ガイドラインでは、短い工期を示した場合の注意点にも触れています。短い工期で完成させるなら、「通常必要と認められる原価」は短い工期を前提に算定されるべきであり、通常の工期を前提とした金額で指値をして短い工期で完成させ、原価を下回れば違反のおそれがある、とされています(同6章(1))。

3-2. 見積期間を与えないのは明確な違反

指値の金額で契約するかどうかを考える時間を与えずに回答を求める行為は、建設業法第20条第3項の見積期間の確保に違反します(同6章(1))。見積期間のルールは「下請への見積依頼のルール」の記事をご覧ください。

3-3. 契約書なしで着工させるのも違反

代金の合意がなく契約書面を交わしていない段階で施工を強要し、後から指値で代金を決める行為は、建設業法第19条第1項に違反します(同6章(1))。


4. 元請が気をつけるべきこと

ガイドラインでは、元請が契約額を提示する場合は、提示した額の積算根拠を明らかにして下請と十分に協議するなど、指値発注にならないよう留意すべきだとしています(同6章(2))。

実務上は、次の点を意識するとよいでしょう。

  • 見積条件と見積期間を守って、まず下請に見積りを出してもらう
  • 金額を提示するときは、根拠(数量・単価の考え方など)を示す
  • 下請の見積書の労務費・法定福利費を一律にカットしない
  • 金額について合意してから契約書を交わし、着工してもらう

国土交通省の通知「下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」(令和7年12月16日)でも、元請は下請の見積書を十分に尊重し、指値発注を行うことがないよう留意すること、と改めて求められています。


5. 下請側の対処法

指値発注に直面した下請業者としては、次のような対応が考えられます。

  • 内訳を明示した見積書を出す:材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費などの内訳を示すことで、協議の土台を作ります(建設業法第20条第1項)。
  • やり取りを書面やメールで残す:ガイドラインでは、見積依頼と見積書の交付は書面やメールで行い、双方が保管することが適切とされています(同1章(3))。
  • 自ら原価割れで受けない:令和6年改正で、受注者も正当な理由なく原価割れの金額で契約してはならないとされました(建設業法第19条の3第2項)。
  • 相談窓口を活用する:元請の建設業法違反が疑われる場合は、「駆け込みホットライン」の情報収集フォームから情報提供ができます(建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問 No.37)。

なお、元請は、下請が不当に低い請負代金などを許可行政庁や公正取引委員会などに通報したことを理由に、取引停止などの不利益な取扱いをしてはならないとされています(建設業法第24条の5)。


6. まとめ

  • 指値発注は、協議せずに元請が一方的に金額を決めて契約させる行為
  • 原価割れになれば不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがある
  • 見積期間を与えない「その場で即決」や、合意前の着工は明確な違反
  • 元請は積算根拠を示して協議し、下請は内訳明示の見積書で対抗する

「元請との取引条件に不安がある」「自社の発注方法が指値発注にあたらないか確認したい」という方は、お気軽に当事務所へご相談ください。

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