育成就労制度の中で、受入れ企業がもっとも神経を使うことになるのが「転籍」の問題ではないでしょうか。技能実習制度では原則として認められていなかった「外国人本人の意向による転籍」が、育成就労制度では一定の条件のもとで新たに認められることになります。
この記事では、出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」の記述に基づき、本人意向の転籍が認められる要件と「転籍制限期間」の仕組みを解説し、受入れ企業として押さえておきたいポイントを整理します。
転籍が認められる2つのパターン
出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」によると、育成就労制度における転籍には次の2つのパターンがあります。
- やむを得ない事情がある場合の転籍:暴力やパワーハラスメントなどの人権侵害を受けた場合など、技能実習制度から引き続き認められているもの
- 本人意向による転籍:新たに、一定の要件のもとで認められるもの
いずれの場合も、転籍先は同一の業務区分内に限られます。異なる業務区分への転籍は認められません。
本人意向の転籍が認められるための要件
本人意向による転籍が認められるためには、同Q&Aによると、次のような要件をすべて満たす必要があります。
- 転籍を希望する育成就労外国人が、分野ごとに分野別運用方針で定める一定水準の技能及び日本語の能力を修得していること
- 直近の育成就労実施者のもとで、分野ごとに定められた「転籍制限期間」を超えて育成就労の対象となっていること
- 転籍にあたって、民間の職業紹介事業者による職業紹介等を受けていないこと
- 転籍先の育成就労実施者が「優良な育成就労実施者」であること
- 転籍先の育成就労実施者が受け入れている育成就労外国人の総数のうち、本人意向の転籍を行った育成就労外国人の割合が一定以内であること
- 転籍先の育成就労実施者が、転籍元の育成就労実施者に対して一定の金額を支払うこととしていること(育成就労外国人の取次ぎ及び育成に係る費用として主務大臣が告示で定める額に、転籍元での就労期間に応じた按分率をかけた金額)
このように、本人意向の転籍には複数のハードルが設定されており、外国人が思い立ってすぐに転籍できる仕組みにはなっていません。
転籍制限期間とは何か
「転籍制限期間」とは、転籍前の育成就労実施者のもとで育成就労を行うことを求める期間のことです。本人意向による転籍が認められるためには、転籍前の育成就労実施者のもとで、この一定期間、育成就労を行っている必要があります。
同Q&Aによれば、転籍制限期間は各分野において定めることとされており、1年とすることを目指しつつも、当分の間、人材育成や人材確保等の観点を踏まえ、分野ごとに1年から2年の間で定められるとされています。
また、一度本人意向の転籍を行った後、再度本人意向の転籍をしようとする場合も、改めて転籍制限期間が経過している必要があります。
転籍制限期間を企業側の判断で短縮できるか
分野別運用方針において1年を超える転籍制限期間(例えば2年)が設定されている分野であっても、育成就労実施者の判断で、その期間を1年に短縮することが可能とされています。
ただし、転籍制限期間を1年を超える期間のまま維持する場合は、分野別運用方針において定める育成就労外国人の待遇の向上措置を講ずる必要があるとされています。つまり、転籍制限期間を長く設定したままにする場合は、企業側にも待遇改善の対応が求められる仕組みになっているということです。
受入れ企業が転籍リスクを抑えるためにできること
制度上、本人意向の転籍そのものを完全に阻止する手段は用意されていません。しかし、同Q&Aの内容から読み取れる範囲で、受入れ企業として実務上意識しておきたいポイントは次のとおりです。
- 転籍先として選ばれるためには「優良な育成就労実施者」の認定が事実上必須の条件になっていること。逆に言えば、自社が優良な受入れ機関としての実績を積むことは、外国人にとって魅力的な受入れ先であり続けるための土台にもなります(優良要件の詳細は別記事で解説しています)。
- 転籍制限期間中に離職・転籍を招く最大の要因は、待遇や職場環境への不満であると考えられるため、日頃からの丁寧な待遇説明や労働条件の整備が、結果として転籍の申出を減らすことにつながると考えられます。
- 転籍先が転籍元に一定の金銭を支払う仕組みが設けられていることから、無秩序な引き抜きが起きにくい制度設計にはなっていますが、受入れ企業としては制度の細部を理解したうえで、育成就労外国人が働き続けたいと思える職場づくりに取り組むことが実務上の最大の対策と言えるでしょう。
まとめ
育成就労制度では、暴力・ハラスメントなどのやむを得ない事情による転籍に加えて、新たに本人意向による転籍が一定の要件のもとで認められます。
転籍制限期間は分野ごとに1年から2年の範囲で設定され、技能・日本語能力の水準や転籍先の優良性など、複数の要件を満たさなければ転籍は成立しません。
受入れ企業としては、制度の仕組みを正確に理解したうえで、適正な待遇と丁寧な人材育成によって、外国人材から選ばれ続ける職場づくりを進めることが重要です。
