在留特別許可を検討するにあたって、しばしば話題になるのが「在留特別許可に係るガイドライン」です。インターネット上でも「積極要素」「消極要素」といった言葉を見かけることがありますが、このガイドラインが実際にどのような役割を持つものなのか、正確に理解している方は意外と多くありません。
今回は、出入国在留管理庁の「退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A」Q32をもとに、在留特別許可ガイドラインの位置づけと、積極要素・消極要素という考え方について解説します。
ガイドラインは「判断基準」ではなく「事情の例示」
退去強制手続Q&AのQ32では、次のような質問が取り上げられています。
「在留特別許可に係るガイドライン」とは何ですか。(退去強制手続Q&A Q32より)
これに対する回答は次のとおりです。
在留特別許可に係るガイドラインは、在留特別許可をするかどうかの判断に当たって、いかなる事情がどのように考慮され得るのかを例示したものです。
在留特別許可の判断基準を示したものではなく、例えば、ガイドラインに例示されている積極要素として考慮すべき事情があったとしても、それだけで在留特別許可をする方向で検討されるわけではありません。飽くまでもガイドラインに例示されている事情を含む諸般の事情を総合的に考慮した結果として、積極要素として考慮すべき事情が消極要素として考慮すべき事情を明らかに上回る場合に初めて、在留特別許可をする方向で検討されることになります。(退去強制手続Q&A Q32より)
ここで押さえておきたいのは、ガイドラインはあくまで「事情の例示」であって、「これに当てはまれば必ず許可される(あるいは不許可になる)」という明確な判断基準ではない、という点です。在留特別許可の許否は、あくまで法務大臣による総合的な判断に委ねられています。
「積極要素」「消極要素」とはどういう考え方か
出入国在留管理庁の説明によれば、在留特別許可の判断にあたっては、許可の方向に働く事情(積極要素)と、許可を難しくする方向に働く事情(消極要素)の両方が存在し、これらを総合的に比較検討したうえで判断が行われます。
先に解説した記事「在留特別許可とは?国際結婚のケースで認められる条件」でも触れたとおり、日本人との結婚に実態があることや、家族とともに生活するという子の利益の保護の必要性は、積極要素として考慮される事情の代表例です。一方で、これまでの在留状況に問題がある場合(たとえば不法滞在の期間が長い、素行に問題があるなど)は、消極要素として働く可能性があります。
ここで重要なのは、Q32が明確に示しているとおり、「積極要素として考慮すべき事情が消極要素として考慮すべき事情を明らかに上回る場合に初めて、在留特別許可をする方向で検討される」という点です。つまり、積極要素が一つでもあれば許可されるという単純な話ではなく、消極要素との比較衡量の結果として判断が下されるのです。
この考え方が実務にもたらす意味
この仕組みを理解しておくことは、在留特別許可を検討する際の心構えとして非常に重要です。
- 積極要素は「主張の材料」であって「保証」ではない:日本人配偶者との婚姻や、日本で生活する子どもの存在は、確かに重要な積極要素ですが、それだけで結果が決まるわけではありません。消極要素とのバランスの中で総合的に判断されることを理解しておく必要があります。
- 消極要素を正確に把握し、誠実に説明することも大切:自分に不利になりうる事情(過去の入管法違反など)から目を背けるのではなく、その事情について誠実に説明し、改善の意思や現在の生活状況を丁寧に伝えることが、結果として総合判断にプラスに働くこともあります。
- 個別事案ごとの判断であることを理解する:ガイドラインはあくまで例示であるため、同じような事情を抱えているように見えても、細部の違いによって判断が異なることがあります。他人の事例をそのまま自分のケースに当てはめて考えるのは危険です。
手続きにかかる期間について
なお、退去強制手続Q&AのQ35では、在留特別許可の申請から許可までにかかる期間について、「一つ一つのケースがそれぞれ異なっており、慎重に調査を必要とするものや、家族状況などを見極める必要のあるものなどもあり、結果が出るまでの期間について一概に申し上げることはできません」と説明されています。積極要素・消極要素の総合的な判断には、丁寧な事実確認が伴うため、一定の時間を要することも理解しておくとよいでしょう。
まとめ
- 在留特別許可ガイドラインは、判断の際にどのような事情が考慮され得るかを例示したものであり、許否を機械的に決める基準ではありません。
- 積極要素(婚姻の実態、子の利益の保護の必要性など)と消極要素(在留状況の問題など)を総合的に比較衡量し、積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に、在留特別許可の方向で検討されます。
- 積極要素があるからといって安心せず、消極要素も含めて自分のケースを客観的に整理し、専門家とともに主張を組み立てることが大切です。
在留特別許可の見通しについては、個々の事情によって大きく異なります。ご自身の状況を整理したい方は、早めに行政書士へご相談されることをおすすめします。
出典:出入国在留管理庁「退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A」Q32、Q33、Q35