入管収容施設に収容されている方(被収容者)の中には、退去強制手続を進める過程で、有効な旅券(パスポート)を所持していないケースが少なくありません。旅券を紛失していたり、そもそも取得していなかったりする場合、そのままでは自国への帰国(送還)ができないため、新たに旅券の発給を受ける必要があります。
この記事では、出入国在留管理庁が公表している「退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A」の内容をもとに、旅券を持たない被収容者がどのように旅券発給申請を行うのか、その流れと注意点について、行政書士の視点から整理します。
旅券を持たない被収容者はどうなるのか
同Q&AのQ21によると、有効な旅券を所持していない被収容者については、被収容者本人からの申出に基づき、収容されている入国者収容所又は地方出入国在留管理官署の職員が、我が国にある国籍国の外国公館へ旅券発給申請を取り次ぐことになるとされています。
つまり、被収容者本人が単独で外国公館に出向いて申請するのではなく、収容施設や地方出入国在留管理官署の職員が「取次ぎ」という形で手続を仲介する仕組みになっている点がポイントです。これは、収容されているという状況上、本人が自由に外出して外国公館の窓口に出向くことができないためです。手続を進めるには、まず本人が職員に対して旅券発給申請を希望する旨を申し出ることが出発点になります。
なお、この取次ぎはあくまで申請の橋渡しであり、旅券を発給するかどうかの判断そのものは、被収容者の国籍国である外国公館(大使館・領事館等)が行うことになります。日本の入管当局が旅券を発給するわけではない、という点は理解しておく必要があります。
旅券発給申請に必要な書類・発給までの期間
Q22では、旅券の発給申請に必要な書類や、発給までにかかる期間について説明されています。それによると、旅券の発給申請に必要な書類は発給国の手続により異なり、また、旅券が発給されるまでに必要な期間についても一様ではないとされています。
つまり、必要書類や審査期間は、被収容者の国籍によって大きく異なるということです。国によっては本国の戸籍関係書類や親族の協力が必要になる場合もあれば、比較的短期間で発給されるケースもあると考えられます。この点は出入国在留管理庁のQ&Aでは一律の基準が示されていないため、実際にどのような書類が必要か、どの程度の期間がかかるかは、該当する外国公館への確認や、収容施設を通じたやり取りの中で個別に把握していく必要があります。
手続を進める上での実務上の注意点
旅券発給申請には、発給国によって手続が異なり、時間を要する場合があることを踏まえると、次のような点に注意が必要です。
まず、旅券の発給には時間がかかる可能性があるため、帰国(送還)に向けたスケジュールに影響が出ることがあります。実際、Q23では、自費で出国する場合の航空券の準備についても、退去強制手続の進ちょく状況によっては、せっかく準備した航空券が使用できなくなることもあるため、あらかじめ最寄りの地方出入国在留管理官署に確認するよう案内されています。旅券発給の見通しが立たないまま航空券を手配してしまうと、無駄になってしまうおそれがあるということです。
また、家族や支援者が本人に代わって外国公館とやり取りをしたいと考える場合もあるかもしれませんが、Q21の内容からすると、旅券発給申請の取次ぎはあくまで被収容者本人の申出に基づいて収容施設等の職員が行うものとされています。家族としてできることは、本人が申出をしやすいよう情報を伝えたり、必要な書類の収集に協力したりすることが中心になると考えられます。差入れに関するルール(面会・差入れQ&A)も踏まえながら、収容施設に確認しつつ必要な支援を行うとよいでしょう。
まとめ
旅券を持たない被収容者については、本人の申出に基づき、収容施設や地方出入国在留管理官署の職員が国籍国の外国公館へ旅券発給申請を取り次ぐ仕組みになっています。ただし、必要書類や発給までの期間は発給国ごとに異なり、一律の基準はありません。そのため、帰国に向けたスケジュールを考える際には、旅券発給の見通しについて早めに収容施設側に確認し、余裕を持って手続を進めることが大切です。