外国から日本を訪れようとする方や、日本に暮らすご家族・お知り合いを持つ方にとって、「上陸拒否事由(じょうりくきょひじゆう)」という言葉は聞き慣れないかもしれません。しかし、これは外国人の入国審査の現場で日々問われている、非常に重要な制度です。
「せっかく来日の予定を立てたのに、空港で入国を拒否されてしまった」「家族を日本に呼びたいが、過去のトラブルが影響しないか心配」——こうしたご相談は行政書士事務所にも少なくありません。この記事では、出入国在留管理庁が公表している「出入国審査・在留審査Q&A」の内容をもとに、上陸拒否事由の基本的な考え方と、拒否された場合にどうなるのかを整理してご説明します。
上陸拒否事由とは何か
出入国在留管理庁「出入国審査・在留審査Q&A」によると、上陸拒否事由とは、日本にとって公衆衛生、公の秩序、国内の治安等が害されるおそれがあると認められる外国人の入国・上陸を拒否するために定められた、外国人の類型を指します。
つまり、単に「気に入らないから」「なんとなく怪しいから」という理由で入国が拒否されるわけではなく、法律上あらかじめ定められた一定の類型に当てはまるかどうかが判断基準になっているということです。この点は誤解されやすいので、まず押さえておきたいポイントです。
上陸拒否事由に該当する主な類型
同Q&Aでは、上陸拒否事由に該当する外国人として、大きく次の5つの類型が挙げられています。
- 保健・衛生上の観点から上陸を拒否される者
感染症など、公衆衛生上のリスクがあると認められる場合が該当します。 - 反社会性が強いと認められることにより上陸を拒否される者
社会秩序を乱すおそれが強いと判断される場合です。 - 我が国から退去強制を受けたこと等により上陸を拒否される者
過去に退去強制(強制的に国外へ退去させられること)を受けた経歴がある場合などが該当します。 - 我が国の利益又は公安を害するおそれがあるため上陸拒否される者
国の安全や公共の利益を損なうおそれがあると認められる場合です。 - 相互主義に基づき上陸を拒否される者
相手国が日本人に対して同様の措置を取っている場合に、同等の対応を行うという考え方に基づくものです。
このように、上陸拒否事由は「衛生面」「社会秩序面」「過去の退去歴」「国の安全面」「国家間の相互関係」という、複数の異なる観点から構成されていることがわかります。ご自身やご家族がどの類型に触れる可能性があるのか、来日前に整理しておくことが安心につながります。
上陸を拒否された外国人はどうなるのか
では実際に上陸拒否事由に該当し、退去命令を受けた場合、その外国人はどのような扱いを受けるのでしょうか。
出入国在留管理庁「出入国審査・在留審査Q&A」によれば、上陸を拒否され退去命令を受けた外国人は、速やかに国外に退去しなければならないとされています。この国外への退去(送還)にかかる責任と費用は、原則として、その外国人が乗ってきた船舶の長や航空機の長、または運送業者(航空機の場合は実際には航空会社)が負うこととされています。
ここで実務上よく問題になるのが、「すぐに折り返し便で帰れるとは限らない」という点です。航空機で到着した外国人乗客が上陸を拒否された場合、時間的な制約等から、同じ航空機で折り返して出国することが難しいケースが多いとされています。便の都合によっては、翌日以降の直近の便が出発するまで日本国内にとどまらざるを得ない場合もあります。
このような場合には、特別審理官または主任審査官が期間を指定したうえで、到着した出入国港の近くのホテルなどの施設にとどまることを許可することができます。
施設にとどまる際の注意点
ここで見落としてはならない重要なポイントがあります。このホテル等の施設で待機している間、その外国人は「上陸の許可」を受けているわけではないという点です。したがって、許可なくその施設の外に出てしまうと、不法入国または不法上陸に当たってしまいます。つまり、待機を許された施設はあくまで一時的な待機場所であり、自由に外出できる状態ではないということを理解しておく必要があります。
退去命令を受けると、次回の来日は難しくなるのか
上陸拒否を経験した方やそのご家族にとって、最も気になるのが「一度退去命令を受けたら、二度と日本に来られなくなるのではないか」という点だと思います。
この点について、出入国在留管理庁「出入国審査・在留審査Q&A」は明確な考え方を示しています。次回の来日の際に、過去に「退去命令」を受けたことがあることを直接の理由として上陸を拒否されることはない、とされています。
ただし、注意が必要な点もあります。「退去命令」を受けたということは、その時点で「上陸条件」に適合していると認められなかったことを意味します。そのため、次に来日する際には、上陸条件に適合していることを自ら十分に立証する必要があるとされています。つまり、直接のペナルティとして拒否されるわけではないものの、審査上はより慎重に見られる可能性がある、という理解が現実的でしょう。
退去強制との違い
もう一つ重要なのが、「退去命令」と「退去強制」は異なる手続きであるという点です。退去強制された者には、5年間の上陸拒否期間が適用されるという厳しいルールがありますが、退去命令は退去強制手続とは異なるため、原則としてこの5年間の上陸拒否期間の適用を受けることはありません。
ただし例外もあります。麻薬、大麻、覚せい剤等を不法に所持していたことを理由に退去命令を受けた場合や、銃砲刀剣類、火薬類を不法に所持していたことを理由に退去命令を受けた場合には、1年間の上陸拒否期間の適用を受けることがあるとされています。薬物や武器に関する事案は、比較的軽微な手続きである退去命令であっても、一定の期間、上陸が制限され得るということです。
まとめ
上陸拒否事由は、公衆衛生・社会秩序・過去の退去歴・国の安全・相互主義という複数の観点から定められた、外国人の入国・上陸を拒否するための類型です。該当すると判断された場合には速やかな国外退去が求められ、便の都合上すぐに出国できない場合には指定された施設での待機となりますが、この間は許可なく外出できない点に注意が必要です。
また、退去命令を受けたこと自体が次回来日を直接妨げるわけではないものの、上陸条件への適合を改めて立証する必要がある点、そして薬物や武器の不法所持が絡む場合には1年間の上陸拒否期間が適用され得る点は、押さえておきたい重要なポイントです。
ご自身やご家族の渡航・在留に関して不安な点がある場合は、個別の事情によって判断が分かれることも多いため、早めに行政書士など専門家へご相談いただくことをおすすめします。